2003年9月6日(土)「しんぶん赤旗」
坂口力厚生労働相が五日に発表した、二〇〇四年の年金「改革」についての試案。国民にいっそうの負担増と給付減を押しつけるものとなっています。その中身をみてみると−−。
年収20% |
保険料は 毎年増大 |
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試案は、いまの厚生年金保険料(年収の13・58%、労使折半)を一・五倍に値上げし、年収の20%まで引き上げていくことを盛り込みました(グラフ)。坂口厚労相は、医療でも今年四月からサラリーマン本人の患者負担を二割から三割負担へと一・五倍に引き上げました。同じ負担増を、今度は年金でもやろうというのです。
現役世代の負担を「過重」にしないため、「保険料負担の上限を設けることが適当」だと説明しています。しかし「上限」とはいっても、いまの高い保険料負担を頭打ちにするものではありません。「上限」で固定するまでは、毎年、保険料を値上げしていくのが「保険料固定方式」です。
試案では、二〇二二年度に上限の20%まで保険料を引き上げるとしています。それまでは毎年、段階的に値上げされることになります。
国民年金では、保険料を月額一万八千円台まで引き上げるとしました。現在、国民年金保険料は月一万三千三百円です。長引く不況による失業や収入減などで高い保険料が払えない人が、いまでも加入者の約四割にのぼっています。保険料の引き上げは、さらに過重な負担を押しつけるものです。
厚生年金の保険料固定方式導入が決まれば、公務員が加入する共済年金も同様に保険料引き上げの対象となります。公的年金の加入者は七千万人。これらすべてにふりかかってくる大改悪です。
自動削減 |
給付額に 変動方式 |
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エスカレーター式の保険料引き上げを認める「保険料固定方式」は、値上げのたびに国会で法案審議をしなくてもよくなりますが、給付についても自動削減のしくみが導入されます。年金保険料を年収の20%まで引き上げ、その保険料収入の範囲内に給付を抑え込んでしまうためです。
保険料収入は、賃上げなどの経済情勢と、少子化の影響を受けます。この変動に合わせて年金給付額も変動させる“自動調整方式”を、「改革」の具体案としたのです。少子化がすすんで労働者が減れば、全体の給与収入が減ることになり、それにスライドして給付もカットされます。また、自分の賃金は上がっても、社会全体で業績悪化や失業者増などで現役世代の賃金総額が見込みを下回れば、保険料収入が少なくなり、その分、給付が自動的に削減されるのです。
受け取る年金はどうなるでしょうか。現在、厚生年金の給付水準は、厚労省のモデル世帯(厚生年金に四十年加入、平均収入のサラリーマンで妻は専業主婦)の場合で、現役世代の手取り賃金の59%とされています。試案では、これを「おおむね50%から50%台半ば程度」まで引き下げるとしました(グラフ)。少子化が進行した場合(出生率1・10)、給付水準は47・8%まで下がることになります。
このしくみでは、景気の悪化に応じて給付が大幅に削減される危険があります。そのため、試案は「給付水準調整には、一定の下限が必要」だとせざるをえず、「50%を下回らないことが適当」だとしました。
先延ばし |
国庫負担 増の約束 |
「年金改革」に不可欠な基礎年金にたいする国庫負担の引き上げについて、試案は「今回の改正で行う」といいつつ、「その道筋をつける」とのべて、具体的にどうなるのかはっきりしません。
基礎年金の国庫負担を現行の三分の一から二分の一に引き上げることは、政府、国会が国民に約束してきたことでした。一九九一年の国民年金「改正案」では、次期改革の際に、国庫負担引き上げに「必要な措置を講ずる」との付則がもりこまれました。前回二〇〇〇年の同「改正」案では、二〇〇四年までに「引き上げを図る」と明記されました。二回にわたって先送りされ、二〇〇四年が引き上げ実施のタイムリミットになっているのです。
この間、坂口厚労相は、引き上げ時期について「数年かけて段階的に実施したい」(八月二十一日、公明党中央幹事会、「公明新聞」)とのべています。公明党の「マニフェスト(政策綱領)は、所得税増税、年金課税を財源にした二〇〇八年度実施を打ち出しています。二分の一引き上げに「道筋をつける」とした試案は、事実上、二〇〇四年の実施を先延ばしにするものです。
四日に提示された、社会保障審議会年金部会の年金改革意見書案でも、二分の一国庫負担の実施は、二〇〇四年年金改革の「最大の課題」とのべ、「国会が国民に約束した事項」、「年金に対する国民の信頼を確保していくためにも実現すべきもの」と強調しています。保険料負担増、給付減だけは確実で、財源拡大措置はズルズル引き延ばすことは年金不信を広げるだけです。