2003年9月6日(土)「しんぶん赤旗」
米国が三日国連安保理各国に提示したイラクにかんする新決議案は、米英によるイラク占領の責任を回避し、行き詰まりを打開するために、米国が主導権を握ったまま、国連と加盟各国に役割分担を押しつけようとするものです。安保理内でも、「権限と主権をイラク人に渡さなければならない」「国連が大きな役割を担わなければならない」という批判の声が高まっています。
米国が新決議案を出さざるをえなくなったのは、イラクの国連現地本部やナジャフのモスクの爆破事件などテロの脅威が強まり、その背景に米英の占領体制へのイラク国民の不満や怒りが高まっていることがあります。
米国は、治安維持に無力な占領軍の責任追及をかわし、さらに、トルコ、インド、パキスタン、バングラデシュなどイラクへの自国軍派遣に国連決議が必要だとする国を新決議によって「説得」し、派兵してもらうことをもくろんでいます。
しかし、主導権の確保と占領体制を変えるようなことは米国の念頭にまったくありません。決議案は「統一指揮の下に」多国籍部隊を創設することをうたい、この多国籍部隊が国連組織やイラク暫定政権機関、人道施設、イラクの経済インフラ(基盤)の安全確保に当たるとしています。
決議案は統一指揮を担うのが誰なのかについては明示していませんが、「米国がすべての多国籍部隊を代表して」、六カ月ごとに安保理に報告するとしており、事実上、米軍が統一指揮権をもつことを明らかにしています。パウエル米国務長官は三日の記者会見で、米軍が多国籍部隊の司令官に就くと明言しています。
決議案はフランス、ドイツなどが主張してきたイラク国民の主権回復の道筋を示すものとして、イラク統治評議会が新憲法と民主的選挙の実施の日程表を明らかにすることを求めています。これによってイラクへの主権移譲がなされるような印象を与えようとねらっています。
しかし、統治評議会はイラク国民を真に代表するものではありません。同評議会は成立にあたって、その人選は米英占領当局によってなされ、しかも、米英占領当局である暫定行政当局(CPA)が統治評議会の政治方針についての拒否権を握っています。イラク国民からは「米国の支配の道具になる」との懸念の声があがっていました。
決議案はこうした批判のある統治評議会を「イラク暫定政権の主要な組織として承認する」ことを求めています。その一方で、新憲法起草や選挙実施にあたって「イラクで機能している権限者」つまり米英占領当局と協力することもうたっています。
決議案のもう一つの狙いは、多大なイラク戦費に苦しむブッシュ政権が他国に費用を負担させることです。
米軍のイラク駐留にかかる費用は毎月四十億ドル。米議会予算局は三日、占領経費を年間百四十億−百九十億ドルとする報告書を提出しています。来年の大統領選での再選を狙うブッシュ大統領にとって、経済・財政問題の困難打開は至上命令です。
決議案は国連加盟国と関連機関にイラク復興への財政支援を求め、十月末にマドリードで開かれる支援国会議での支援の加速化を求めています。この点で、日本への財政支援圧力が強まることが予想されます。
イラクの現状は米英の占領そのものにイラクの国民の不満、怒りが高まっていることを示しています。新決議案が、イラク国民への主権移譲と国連が果たすべき中心的な役割を無視していることに、フランスやドイツ、中国など多くの国から批判が高まっているのもこのためです。安保理での新決議案の論議の行方はイラクの今後だけでなく、世界の平和にとっても重大な意味をもっています。
(伴安弘記者)