2003年9月13日(土)「しんぶん赤旗」
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日本共産党の志位和夫委員長は、十一日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、石原都知事の暴言問題、自民党総裁選と総選挙、イラク問題、北朝鮮問題について質問に答えました。聞き手は、朝日新聞編集委員の本田優氏でした。
本田 自民党の総裁選の街頭演説の中で、石原都知事の発言が飛び出しました。この内容は、外務省の審議官の田中均さんの自宅に爆弾が仕掛けられるというのはおかしくないという趣旨の発言だったわけですが、これは私自身も、きわめて重要な、無視できない言葉であるなと感じているんですが、これをどのようにとらえておられるか、お聞きしたいと思います。
志位 あの発言自体は言語道断で、許しがたい発言です。外務省の特定の幹部に対して、テロ攻撃が仕掛けられた。それに対して「当然だ」と、テロを容認する発言をした。これは、私はおよそ政治家として許されないだけではなくて、東京都知事という首都東京の治安に責任を負っている立場にある人物がテロを容認し、「当たり前だ」と言ってはばからないというのは、知事の資格にかかわる重大問題だと思います。私はただちに撤回、謝罪をまず強く求めます。
本田 今のこの世相というか、あるいは政治の状況の中に、こういう言葉を容認するような深い流れといいますか、あるいはそういう情勢というのがあるんでしょうか。
志位 私は、石原知事について言いますと、一貫した彼の姿勢が今度の発言につながったと思っております。たとえば中国人を蔑称(べっしょう)で呼ぶ。あるいは北朝鮮との関係でも「言うことをきかないんだったら戦争してやるぞ」といってはばからない。そういうアジアの諸民族に対する非常に危険な、民族的な排外主義にたった一連の発言がありました。そのうえに今度の発言があるわけで、決してこの発言は偶然出てきたものではない。彼のまさに政治家としての危険な体質が、そのまま現れてきたものだと思います。
そしてこういう非常に危険な民族排外主義を容認するような流れが、日本の政界や各界の一部にあることを反映していることも間違いないと思います。
北朝鮮との関係で、どうやっていまの難しい問題を前向きに打開するかという問題があります。北朝鮮側の問題点をわれわれがきちんとただしていく、これは当然のことです。やはりそのさいに理性的で冷静な態度を日本国民全体がもってこそ、問題は前向きにすすむわけです。そこに「戦争をやってもいいんだ」、「北朝鮮に迎合している」と自分が決めつけた外務省の幹部については「テロをやったっていいんだ」と、そういう空気があおられるというのは、本当に国益を損なう、そして日本の民主主義を破壊する、とんでもないことだと思います。
本田 そうですね。これは外国から見たら、本当に日本の品位を欠くというか、日本の民主主義はどうなっているんだという点に疑問を持たれるということですよね。
志位 そういう問題だと思います。
本田 いまの国内政局で、自民党の総裁選は「分裂選挙」が一つのキーワードになっています。橋本派という、これまで一番権力を握っていた派閥のところが意思を決定していない。これは、一自民党の一派閥の動きであると同時に、大きな政治の流れの中で一つのものを象徴しているような気もするんですが、この国内政局をどう見ておられますか。
志位 橋本派が分裂状態にあるというのは事実でしょうけれども、しかしそれでは派閥政治はなくなっているかといったら、旧態依然たる権力抗争をやっているという図柄にはかわりがないと私は見ています。
それで、総裁選自体についていいますと、私は率直にいって、国民の多くの皆さんが、いま解決を切に望んでいる問題とはかけはなれたものになっていると思うんですね。
たとえば、この深刻な生活不安を何とかしてほしい。この前の内閣府の国民生活意識調査でも、生活不安を感じている方が67%と史上最高を記録したわけですが、年金の問題を考えても、雇用の問題を考えても、不安だらけだ、この不安を何とかしてほしい、これは切実です。
あるいは、イラクの戦争などを通じて「こんなアメリカ言いなりの政治を続けて、二十一世紀の日本は大丈夫か」という国民の皆さんの思いもある。
ところが総裁選の中身を見ますと、そうした国民のいまの政治に対する願いや思いというものとは、およそ次元のちがうところでの、権力闘争ということでしかないと思うんですよ。
生活の不安ということについても、どの候補も「構造改革」についての議論をやっていますけれども、「構造改革」といわれているやり方──市場万能主義、弱肉強食の経済政策をおしつけて、リストラをどんどん進める、中小企業をつぶす、社会保障を削る、こういうやり方をどんどんやるということについては、この基本はだれも異論をいわないわけですね。手順の問題―まず公共事業のカンフル剤を打ったほうがいいとか、どうかとか、手順の問題を若干いうだけで、(「構造改革」をすすめるという)その基本はだれも変わらないですね。
それからアメリカいいなりの問題については、「日米同盟基軸」というのはみんな判で押したようにいうわけですね。それ自体がいま問われているのに。
ですから、国民がいまの政治を何とかしてほしいという思いと、いまの総裁選でやられている議論というのは、およそ全然ちがうところでの議論です。はっきりいえば、破たんしてしまった自民党政治の外交・内政の枠内で権力闘争をやっているということでしかないと思います。
本田 そうしますと、もうひとつ野党の方の民主党と自由党が来月合併、民由合併ということになるんですけど、これはどういうふうに見ていますか。
志位 自民党がこういう状態であるわけですから、野党の側は、自民党政治の中身をこう変えるという旗印がいると思うんですよ。外交でも内政でも、太いところで、中身をこう変えるという旗印がいると思うんですよ。
私たちの党は、たとえば外交でも、日米安保条約そのものについて、これを見なおすときではないかと。これをなくして本当の独立・中立の日本をつくるという方向に進むべきではないかと。少なくとも、この軍事同盟体制の強化はやめると、いうような大きな旗印を持っています。
「構造改革」の問題についても、さっきいったような国民の生活を痛めつけるような「改革」というのは、「逆立ち」した「改革」であって、国民の暮らしの応援によって経済を立て直す、そして安心を取り戻すということを大きく対置した旗印を立てているんですが、そうした中身が、野党の側は大事だと思うんですよ。
はっきりいいまして、民主党・自由党の合併の動きのなかから、自民党政治のここをこう変えるという、太い旗印、中身が見えてこない。ここが私は問題だと思っています。
もちろんこの間、野党共闘をやってきました。これはいろいろな意味で前進してきた面もあって、大事にしていきたいという考えに変わりはありません。ただ、自民党政治の大きな枠組みを変えるという旗印を立てられませんと、やはり本当の意味で国民の期待にこたえることにならない、ということもいえるわけで、ここがいま問われているんですよ、野党には。
本田 そうすると、合併した民主党、こことですね、おそらく、その合併というのは自民党政権を倒すと、その一点でもって結びついていると思うんですが、そこと手を組むということは、当面は考えておられない?
志位 これまでも「反自民」という接点はあるんですよ、わが党とのあいだで。それから国会での共闘というのも、今後もその立場を変えるつもりはありません。これはいろんな形がありうると思います。
ただ、国の大きな進路をめぐって、たとえば日米安保条約に対する立場、それから有事法制に対する立場、あるいは改憲論に対する立場、そして「構造改革」に対する立場、ずいぶん大きく違います。こういう基本論で、(他の野党が)自民党の土俵、枠組みを、突破する新しい立場を確立していないというのも事実なので、やはりそれは野党間でも違いについては、大いに議論していくということです。
選挙でも、野党だったらいま、どういう旗を立てることが必要なのか、という議論を大いにしていく必要があると思っています。
本田 総選挙、十一月ごろではないかという見方がだいぶ強まっていますが、共産党としては、どの点を選挙のときには重点として考えていますか。
志位 まず、国民のくらしですね。大変な、深刻な生活の不安がある。これを取り除く政治ということを、大きく打ち出していきたいと思っています。とくに不安のなかみとしては雇用の問題、社会保障の問題、消費税増税の問題、こういう問題で国民のくらしに「痛み」を押し付けることを当たり前とするのか、それとも、そういう人間がいちばん、生きていく上での基本になる問題で、ちゃんと生活をサポートする政治に切り替えるのか、これをまず訴えていきたい。
二つ目に、アメリカいいなりの政治をつづけていいのか、という大きな問題があります。
この間のイラク戦争を支持し、そしていまイラクが泥沼の状態になっているのに派兵を急ごうとしている。「逃げるな」と一喝されて(現地)調査団を出すという、そういうひどいありさまを示している。こういう政治を続けていいのか。さらに根っこにある安保条約という問題についてこれを二十一世紀も絶対不動でいいのか。
三つ目に、憲法の問題があります。これは、小泉首相が日程表まで示して、明文改憲という方向を出してきました。時の首相がはっきり日程表を示して改憲論を言ったというのは初めてのことで、非常に危険なところに憲法九条がきている。これは、国民が望んでいることではなくて、アメリカから言われて、アーミテージ(現国務副長官)さんの(対日)リポートに入ったところから出発している改憲論ですから。これを、絶対に許さないという、大事な審判の場にしていく必要があると思っています。そういう大きな国の進路をめぐって私たちの立場を大きく押し出してたたかっていきたいと思っています。
本田 イラクの現状をどうとらえるか。十月の十七、八日に、ブッシュ大統領が日本に来るようですが、そのときに恐らくこのイラクの問題、さまざまな面で争点になるんだと思うんですが、日本のかかわり、これをどうすべきかについておうかがいします。
志位 イラクの現状は、無法な戦争と不当な占領では、平和をつくれないということを証明した、というのが実態だと思うんですね。あの戦争自体が、侵略戦争であり、そしてその上に米英軍が居座っている。そして権力を握って自分たちの言いなりの政権を作ろうとしている。ここに矛盾の根源があるわけで、このなかからさまざまなテロや暴力が生まれている。まさにイラクという一国をテロの温床にしてしまったという事態であるわけです。
ですからこの問題をきちんと解決しようとするのだったら、ああいうやり方は間違っていたとはっきりと認め、いまの米英軍主導のイラクの占領統治というのをやめて、国連中心の復興支援に道を切り替えるということが、望まれる対応です。
ところがアメリカの方は、今度の安保理に出した決議案を見ますと、ともかく自分たちの権力は手放さない、主導権は手放さない、それでいながら、国連の決議でほかの加盟国に軍隊を出せ、あるいは金も出せと。こういう身勝手な決議案を押し付けようというのがアメリカの動きですね。
ブッシュ大統領は、戦争に突入するさいの演説の中で、「国連は無力だ」といいましたよね。また、「安保理はなんの仕事もしていない」と、「だからわれわれは自分で勝手に動くんだ」といったわけですよ。国連は無力だと言って戦争をやっておきながら、困り果てたら国連決議をくれと。しかも自分たちの権力は手放さない身勝手なものです。これは通る話ではないですね。
ですからこういう動きに対してフランスも、ドイツも、中国も、ロシアも、「異議あり」という立場です。それからアラブ連盟も一致してそんな派兵の要求にはこたえられないと決めました。世界中がイラクの戦争に反対した流れというのは脈々と生きている。また、こういう形で働くわけでね。
志位 アメリカのやり方というのは本当に破たんが明りょうになったと思うんですよ。そういう状況を目にして日本政府がどうするかといったら、今までの侵略戦争追随政策は間違っていましたということを認めて、そして国連中心の道に切り替えるという方向に日本も対応すると。もちろん自衛隊の派兵をしないという方向に切り替える。これが一番日本に求められていると思いますね。
それをアーミテージさんから、「早く軍隊を出せ」、「お茶会じゃないんだ」、「逃げるな」と言われて、政府の調査団を出したりする計画のようですが、そういう追随的対応をやれば、ますます、自らも一緒にテロと暴力の大変な泥沼にはまり込むことになると。中東全体を敵に回す立場に身をおくことになる。非常に重要なところに来ていると思います。
本田 北朝鮮の核の問題に移りたいと思います。先月二十七日から二十九日にかけて北京でおこなわれました六者協議、この結果について、これはどう評価していらっしゃいますか。
志位 私は、ともかく六者という形で交渉の場が持たれ、そして中国の外務次官の王毅さんが最後にまとめていた六項目の共通の認識という方向がともかく出され、交渉が始まったということは、たいへん大事な一歩だと思っております。
とくに、六項目の中でも「事態を平和的に解決する」、「情勢をさらに激化させ、エスカレートさせる行動は双方ともにとらない」、「半島の非核化を目標とすると同時に、北朝鮮が抱いている安全保障上の懸念も考慮する」というような一連の内容が入りました。ですから、ああいう方向で交渉を継続し、実らせてほしいというのが私の思いです。
この問題で一番国際社会で重要なことは、あの半島でけっして戦争を起こしてはならない(ということです)。いま現実に、戦争の危険というものがある。ああいう核兵器を使った瀬戸際政策を一方がやる、一方は「悪の枢軸」と名指しして先制攻撃政策をとる。現実にひょっとしたらという危険があるわけですね。ですから、絶対にそういう戦争を起こさないで、事態を平和的・外交的に解決するという努力を、国際社会でいま傾注すべきだと思っています。
本田 中国の王毅さんがまとめた六項目っていうのは、必ずしも合意項目、あるいは宣言というものではないようですね。しかし、それでも、それはかなり意味があると。
志位 共通認識ということで伝えられていますね。合意文とか共同宣言文にはならなかったわけですから、そこにはそれなりの外交のプロセスというものがあると思いますけれども、しかし、あそこに書かれていることはどれも理性的な建設的な方向だと私は思っておりまして、ぜひそういう方向での交渉の継続と、実りある成果というのを期待したいですね。
北朝鮮にたいしては、指摘すべき大事なことがいくつかあります。
一つは、核兵器開発は北にとっても一番危険だということ。これをやればやるだけ国際社会から孤立して、みずからを危険にさらすんだと。核開発を放棄して、国際社会の安定した一員になることこそ自分たちの安全保障にとってもいい道なんだと理をもって説く外交が必要です。
そして、国際社会の安定した一員になるうえでも、一連のテロ行為とか、拉致行為とか、そういう無法行為を清算するということが大事になっている。
同時に、アメリカの先制攻撃戦略の発動は許さない。どの国であれ、先にたたいて戦争をやるのが当然だという議論を通用させてはならないという、これは当然のことです。北は核カードで軍事的対応をやる、それにたいしてアメリカが先制攻撃戦略をもって軍事的対応をやる、軍事と軍事がぶつかり合ってエスカレーションするというのが一番危険なわけです。ですからそういうエスカレーションにならないように双方が強く自制する、六カ国全体も双方に自制を強く求める。国際社会のなかで、軍事対軍事の悪循環じゃなく、平和的な解決にベクトルが向くようにしていくという努力が必要だと思います。
本田 日本では関心がある拉致の問題ですね。それについて、六カ国でやっていくっていうことでしょうか。
志位 これは交渉の問題ですから、いろんなやりかたがあると思うのですが、問題の位置付けそのものについていいますと、拉致問題というのは北朝鮮がやった一連の国際的無法のなかのひとつの重要な内容をなしているわけです。国際的無法のなかには、たとえばラングーンのテロ爆破事件とか、大韓航空機爆破事件とか、いろいろあるわけですが、日本人拉致事件もそういうなかの非常に重要な中身のひとつであるわけですね。しかも、この問題についてはともかくも、不十分だけども謝罪したという経過がある。もちろん解決はこれからですが。
ですから、拉致問題の位置付けも、北朝鮮に一連の国際的無法を清算させていくというなかの重要な内容として位置付ければ、たんに日朝二国間の問題ではなく、国際社会がとりくむべき問題という位置付けができるようになると思うんです。問題の性格をそういうように位置付けてとりくめば、この問題もより積極的な道理を持った対応が日本側としてもできるんではないかと思っております。
本田 まあ、全体を平和的に解決していくと、これが大事だと。
志位 何よりも、一番それを優先させるべきだと思っております。
本田 きょうはどうもありがとうございました。