日本共産党

2003年9月19日(金)「しんぶん赤旗」

日本共産党第二十三回大会決議案


 目  次

 第一章 世界の平和秩序を築くたたかい

 第二章 「異常な対米従属」からの脱却を求めるたたかい

 第三章 東アジアの平和と安定――北朝鮮問題の解決のために

 第四章 日本共産党の野党外交の到達点と展望

 第五章 国民生活を守る諸闘争――たたかいによって暮らしを守るルールを

 第六章 憲法改悪反対の一点での、広い国民的共同を呼びかける

 第七章 社会の道義的な危機を克服する国民的対話と運動を

 第八章 総選挙、参議院選挙での新たな躍進をめざして

 第九章 地方政治の現状ととりくみの強化方向

 第十章 どうやって党建設を安定的な前進の軌道にのせるか


 日本共産党第二十三回大会は、歴史的な党綱領改定案を討議・採択する大会となる。大会決議案は、新しく決定される党綱領を、直面する国内外のたたかいにどう生かすかという見地から、当面する情勢分析と党のとりくみの課題、たたかいの課題について、重点的に明らかにするものである。

第一章 世界の平和秩序を築くたたかい

 (1)三年前の第二十二回党大会の決議では、当時の世界情勢を分析し、「二つの国際秩序の衝突」という問題をつぎのように提起した。

 「二十一世紀の世界のあり方として、二つの国際秩序が衝突している。アメリカが横暴をほしいままにする戦争と抑圧の国際秩序か、国連憲章にもとづく平和の国際秩序か――この選択がいま、人類に問われている」。

 この三年間に、米国での同時多発テロ、アフガニスタンへの報復戦争、イラクへの侵略戦争など、世界をゆるがす激動があいついだ。これらの激動をつうじて、「二つの国際秩序の衝突」という問題が、二十一世紀の人類の進路をめぐる根本問題の一つであり、大会決議が情勢の核心を先駆的に見とおしていたことが、鮮やかに浮きぼりとなった。そして、どちらの「国際秩序」の側に未来があるかも、すでに明りょうとなりつつある。

 (2)米国が、ブッシュ政権のもとで策定・推進してきた新しい軍事戦略は、つぎのような一連の要素からなりたっている。それはどれ一つをとっても、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を根底からくつがえす、危険きわまりないものである。

 ――「テロ」、「大量破壊兵器」への対抗を名目にした先制攻撃戦略。

 ――国連の役割を否定し、米国の独断で武力行使をおこなう単独行動主義。

 ――軍事力による政権転覆、領土占領、政権の押しつけなど、新しい植民地主義。

 ――核兵器の一方的使用戦略と、使いやすい新型の小型核兵器の開発。

 ――将来、米国の競争者になる潜在的可能性を持つ国にも攻撃の矛先を向ける。

 これらをつらぬいている中心思想は、「今日においても、将来においても、世界に抜きんでた米国の軍事力を維持」し、「米国の原則と利益にそって、国際の安全保障秩序をつくりあげる」(ブッシュ政権の中枢を占めている理論政策集団の一つ「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト」による報告書「米国国防の再構築」、二〇〇〇年九月)ことにある。まさにいま米国は、「戦争と抑圧の国際秩序」を世界に押しつけようとしている。ここにあるのは、“一国覇権主義の暴走”ともいうべき世界支配のむきだしの野望である。

 しかし一国覇権主義は、すでに自己破綻(はたん)を深めている。その最初の本格的な発動となったイラク侵略戦争で、米英軍は、圧倒的な軍事力でフセイン政権を押しつぶしたが、無法な暴力にたいする歴史の審判が早くもくだされつつある。米英が、イラク戦争の「大義」とした「大量破壊兵器」はいまだに発見されず、これが歴史的捏造(ねつぞう)だったという疑惑がますます深まっている。米英軍による不法な占領支配がつづくもとで、それへの抵抗や暴力が広がるなど、イラク情勢の泥沼化が深刻になっている。アフガニスタンやイラクで現実に進行している事態は、戦争が、テロと暴力の土壌を拡大するだけで、その解決にはならないことを証明するものである。

 米国が、いかに比類ない軍事力を持っていたとしても、軍事力にのみ依拠した「国際秩序」などは、決してつくれるものではない。一国の力で戦闘に「勝利」することはできても、一国だけで平和をつくることはできない。米国のつきすすんでいる一国覇権主義の道には、決して未来はない。

 (3)二十一世紀冒頭の三年間に浮きぼりになった新しい時代の特徴は、こうした危険で無法な逆流に抗して、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を求める流れがめざましく成長し、国際政治を動かす大きな力となって作用していることである。

 ――イラク戦争にさいして、戦争が始まる前から、各国の国民が反戦・平和の声をあげ、地球的規模で史上空前の運動がわきおこった。超大国による戦争を未然に防ごうと、幾百千万の人々が立ち上がったのは、人類史でも空前の出来事だった。

 ――世界の政府の約七割が、公然と戦争反対の声をあげた。サミット諸国のなかにもフランス、ドイツ、ロシアなど平和の流れが生まれ、それは非同盟諸国、アラブ・イスラム諸国とも連帯し、さらに中国とも連携しながら、無法な戦争に反対する事実上の国際共同戦線をつくりあげた。

 ――国連安保理事会を舞台に激しい外交的たたかいがつづいたが、国連安保理は国連憲章にのっとった紛争の平和解決のための役割と機能をかつてなく発揮した。米国は戦争の正当性を最後まで得られないまま、深刻な外交的敗北のなかで、開戦に踏み切らざるをえなかった。

 これらは、二十世紀から二十一世紀への人類史の偉大な進歩を反映している。

 人類は、二つの世界大戦の悲惨な体験から国連を創設し、国連憲章をつくりあげて、戦争の違法化など平和の国際秩序の建設を目的として提起したが、それはすぐに世界平和のための現実の力となって働いたわけではなかった。

 一九六〇年代から七〇年代にかけての米国によるベトナム侵略戦争のさいには、国連は無力だった。各国政府のなかでもこの侵略戦争に公然と反対をかかげる政府は、当初はわずかにとどまった。ベトナム人民の不屈の闘争と、侵略戦争の泥沼化とともに世界に広がった各国民衆のたたかいとによって、米軍は歴史的敗北に追いこまれたが、そこに至る経過には二十世紀の時代的な条件や制約が刻みこまれている。

 同時に、植民地体制の地球的規模での崩壊にくわえて、ベトナム侵略に反対する国際的なたたかい、そしてベトナムでの米国の敗北という冷厳な結果によって、平和の国際秩序が前進をとげたことも、事実である。非同盟運動が力を増し、国連憲章のもとでは大国も小国も平等であることが国際政治のなかで公然と語られるようになり、武力行使を禁止し、民族自決権を擁護する流れが着実に成長した。一九八〇年代に米国がグレナダ、リビア、パナマを軍事攻撃したことにたいしては、国連総会が侵略国を名指しして、国連憲章違反と非難する決議を採択する状況がつくられた。

 平和と民族自決をめざす諸国民のたたかいの積み重ねのうえに、二十一世紀の世界がつくられている。各国人民のたたかいこそ、国連憲章にもとづく世界の平和のルールを築く力である。イラク戦争に反対した平和の巨大なうねりは、無法な戦争の後も、米国の一国覇権主義に反対し、平和の国際秩序を求める流れとなって広がり、国際政治を動かす生きた力として働いている。この力をさらに大きく発展させることによって、二十一世紀が、超大国による無法な戦争を抑えることの可能な時代になる希望はおおいにある。

 (4)二十一世紀における平和の流れの新しい特徴は、「政府、団体、個人の国際的共同」が現実のものになっていることにある。

 イラク戦争に反対するたたかいは、各国の民衆のたたかいと、世界の多数の国々の政府が、「国連憲章にもとづく平和の国際秩序」をめざして、大きな共同の流れをつくりだす可能性が、地球的規模で広がっていることを示した。

 核兵器廃絶を求める原水爆禁止世界大会が、世界各国の団体、個人とともに、少なくない政府の代表が参加する運動として発展していることも、きわめて重要である。

 日本共産党は、戦争と平和をめぐって二十一世紀の世界の進路が根本から問われたこの三年間の激動のなかで、全国津々浦々で草の根から平和の行動にとりくむとともに、世界各国政府に働きかける野党外交に大きな力をそそいできた。平和を熱望する若い世代の運動の広がりも特筆すべきである。平和を願う地球的規模の巨大なうねりと呼応・連帯してとりくまれたこれらの活動が、未来に生きる力となって働くことは疑いない。

 わが党は、一国覇権主義に反対し、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を築きあげるために、国内外でひきつづき力をつくすものである。

第二章 「異常な対米従属」からの脱却を求めるたたかい

 (5)綱領改定案は、日本の現状について、「きわめて異常な国家的な対米従属の状態」と規定し、この従属体制の打破を、二十一世紀の日本が直面する最大の課題の一つと位置づけている。今日の世界の現状から見ても、日米安保体制は、その異常な従属性においてきわだったものである。

 わが党は、前党大会決議で、一九九九年につくられた日米安保ガイドライン・戦争法と、北大西洋条約機構(NATO)の「新戦略概念」について、「アメリカを中心とする軍事同盟体制の危険を、新しい段階に高めるものとなった」と指摘し、両者に共通する特徴として、(1)「侵略にたいする共同防衛」という建前をかなぐりすてて、干渉と介入の戦争に同盟国を動員する軍事同盟へと変質をとげた、(2)他国にたいする武力攻撃を国連の決定なしでもおこなうことを公然と宣言している――ことをきびしく批判した。

 しかしその後のNATOと日米安保をめぐる動きは、対照的である。欧州では、イラク戦争をへて、一国覇権主義と一線を画し、国連憲章にもとづく平和の国際秩序の確立を求める独自の安全保障戦略をつくる動きがすすんでいる。構成国の多くがNATO加盟国でもある欧州連合(EU)は、今年の末の首脳会議で、EUとして初めての安全保障戦略文書である「よりよい世界の中の安全な欧州」を採択するはこびとなっている。この文書は、「国際関係の基本的枠組みは国連憲章である。国連を強化して、その責任を全面的に果たさせ、効果的に行動できるようにすることは、欧州の優先課題でなければならない」と明記するなど、NATOの「新戦略概念」とは明らかに異なった方向性を持つものである。ここにはイラク戦争をへた国際情勢の発展が反映している。

 これにたいして、日米安保体制は、「真にグローバルな『世界の中の日米関係』」であることが確認され(二〇〇三年五月・日米首脳会談)、文字どおりの「地球規模の日米同盟」として強化され、米国が世界でおこなうどんな無法な戦争にたいしても無条件の支持を与え、米国の戦争への参戦・協力体制づくりをエスカレートさせている。アジアのあるマスメディアは、「『アメリカが願えば自衛隊はどこにでも行く』という等式が成り立ちはじめた」という懸念と批判をのべた。日米安保体制の侵略的・従属的な軍事同盟としての姿は、世界でも突出した異常なものである。

 (6)イラク戦争を契機に、国民のなかでも、日米軍事同盟の現状にたいする新たな批判が強まっている。米国にたいして一片の外交的自主性も示せない“安保絶対の国”でいいのか――多くの国民が模索し、進路を探求している。軍事同盟にしばられ、巨大な軍事基地がおかれ、米国の無法な戦争に動員される体制を、永久不変と考える勢力には、およそ国の独立と未来を語る資格はない。

 日米安保体制は、軍事・外交・経済などあらゆる分野での対米従属の根源をなし、米国の先制攻撃戦略を支えるとともに、日本の軍国主義復活を推進し、世界とアジアにおける軍事的緊張の危険な根源の一つともなっている。わが党は、こうした日米安保体制の有害性を告発し、安保をなくした独立・非同盟・中立の日本が世界とアジアにどんな平和と友好の可能性を開くのかをおおいに語り、安保条約廃棄を求める国民的多数派をつくるために力をつくす。これは、民主連合政府の樹立に向けた国民的多数派を形成していく要をなす課題である。

 (7)同時に、日米軍事同盟体制の侵略的な強化に反対し、つぎのような直面する課題でのたたかいを発展させるために力をつくす。

 ――海外派兵国家づくりに反対する……テロ特別措置法、有事法制、イラク派兵法のあいつぐ強行成立など、海外派兵国家づくりは新たな段階に踏みこんでいる。海外派兵のための恒久法のくわだてもすすめられている。これらの動きは憲法を蹂躙(じゅうりん)した「集団的自衛権」――海外での日米共同の武力行使に、本格的に足を踏み入れようとするものである。今年の「防衛白書」が「自衛隊の国際的任務が、主要な活動の一つになった」と公言しているように、自衛隊の役割と機能、装備が、従来の「専守防衛」という建前をかなぐりすてて、海外派兵型の軍隊への危険な変貌(へんぼう)を急速にとげていることも、きわめて重大である。憲法を踏みにじる海外派兵法の発動・具体化・拡大を許さないたたかいを発展させることは、ひきつづく急務である。

 ――米軍基地国家から脱却するたたかい……アフガン戦争やイラク戦争でも出撃拠点とされた在日米軍基地は、ブッシュ政権の新たな世界戦略のもとで、米軍戦力を地球的規模の戦争に投入するハブ(中軸拠点)基地としてさらに強化されようとしている。沖縄・名護への新基地建設、神奈川・横須賀への原子力空母配備、長崎・佐世保の強襲揚陸艦を中心とした「遠征攻撃軍」の新編成をはじめ、海外への“殴りこみ”専門の部隊の増強計画に反対する。米軍による犯罪や被害が多発するもとで、日米地位協定を改定し、治外法権的特権を是正することも、国民的要求である。日本の米軍駐留経費負担は他の同盟国二十四カ国の合計の一・六倍という異常なものであり、中小企業予算の一・三倍にまで膨張している米軍への「思いやり予算」のすみやかな廃止を求めてたたかう。

 ――「ミサイル防衛戦略」への参加を許さない……米国のブッシュ政権がすすめている「ミサイル防衛戦略」とは、相手国のミサイル攻撃を打ち破り、無力化する態勢をつくることによって、米国の核戦略の優位を絶対のものとし、報復の心配がなく先制攻撃を可能にしようとする危険きわまりない宇宙支配の計画である。日本政府は、その開発・配備に、日本も参加することを事実上約束したが、これは巨額の財政支出をともなうだけでなく、憲法を蹂躙した「集団的自衛権」の行使そのものとなり、地球的規模の米国の核戦略に日本を組み込む事態をまねく。この計画にたいして、すでに中国やロシアも強い懸念と批判を表明しており、アジア太平洋地域の国々との緊張を激化させる危険も重大である。「ミサイル防衛戦略」に反対し、日本の参加をただちに中止することを、強く求めてたたかう。

 「異常な対米従属」からの脱却を求めるたたかいは、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を築くうえでも、重要な国際的意義をもっている。日本を、米国の無法な戦争の根拠地から、世界平和の拠点に変えるために、わが党は平和を願う多くの人々と手をたずさえて奮闘するものである。

第三章 東アジアの平和と安定――北朝鮮問題の解決のために

 (8)前党大会決議は、東アジア地域に起こった「二つの平和の激動」として、東南アジア諸国連合(ASEAN)の動きと、朝鮮半島に起こった平和の動きに注目した。

 この三年間で、ASEANは、中国、インド、ロシア、EUなど、ユーラシア大陸の多くの国々と、国連憲章にもとづく平和の国際秩序をめざす連携を強め、平和と進歩の流れの強力な国際的源泉として、ますます有力で重要な役割を発揮している。

 ASEANの発展をふまえながら、日本、中国、韓国をふくめた東アジア全体で、各国の独自性、多様性を尊重しつつ、地域の平和確立を最大の目標にし、経済、文化面でも協力を発展させる共同体をつくる動きがすすんでいる。(1)米国と友好関係を持つが支配はされない、(2)どの国であれ覇権は認めない、(3)アジアのことはアジアで――などの原則にたった東アジアの共同体が構想されていることは、重要な意義を持つものである。

 二十一世紀の日本の未来は、東アジアの一員として、こうした平和と友好の流れに合流し、平等・互恵の立場でともに豊かになる経済関係を発展させるなど、積極的役割を果たすことにこそある。

 (9)一方、朝鮮半島をめぐる情勢は、昨年十月いらい重大化した核兵器問題を焦点としつつ、複雑で危険をはらんだ動きが展開している。

 北朝鮮問題の解決は、東アジアの平和と安定にとって不可欠の課題となっている。

 この問題は、この地域における戦争の現実の発火点になる危険をはらんでいる。北朝鮮が、核兵器開発に向けた動きをすすめ、“核カード”をもてあそぶ瀬戸際外交をつづけるならば、それは米国による無法な先制攻撃の絶好の口実となりかねない。また、軍事的対立がエスカレートするなかで、何らかのはずみで軍事紛争が起こり、拡大する危険性を否定することはできない。

 万が一にも、朝鮮半島で戦争が起こることになれば、数十万人という犠牲者が出ることは、当事者の米国によっても指摘されてきたことであり、どんなことがあっても戦争を起こさせてはならない。

 戦争の火種をなくし、軍事的衝突の危険をとりのぞくことは、国際社会が一致して追求すべき最優先の目標である。北朝鮮問題の解決は、あくまで外交的・平和的手段によるべきであって、戦争につながるあらゆる動きを許さないことが重要である。

 今年八月末におこなわれた、米国、北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアによる六カ国協議で、各国の主張に大きな隔たりを残しつつも、「各当事者は、対話をつうじた平和的方式によって朝鮮半島の核問題を解決し、半島の平和と安定を擁護し、半島の恒久平和を切り開くことに尽力する」などの共通認識が得られたと発表されていることは、重要な一歩である。わが党は、この外交交渉のプロセスが継続・前進し、問題解決に道が開かれることを、強く求める。

 (10)外交交渉の前途を予断をもってのべることはできないが、わが党は国際社会がつぎのような原則を堅持して、問題解決にあたることが重要だと考える。

 第一に、核兵器問題を解決するうえでは、北朝鮮にたいして、核武装路線こそが最も危険であり、核兵器開発の道を放棄して、国際社会との安定した外交関係を打ちたてることこそ、自らの安全保障にとっても何よりも重要であることを、道理をもって説く外交をおこなうことが大切である。

 わが党は、一部の核保有大国が核兵器を独占する核不拡散条約(NPT)体制を批判してきた。しかし、それは地球的規模でのすみやかな核兵器廃絶をめざす立場からであって、新たな核保有国が生まれることを容認するものではもちろんない。ましてや、いったんこの条約に加盟して、核兵器を保有しない意思を表明した国が、一方的に脱退を表明して、核開発の道にのりだすことは、いかなる理由によっても認められるものではない。くわえて、北朝鮮は、韓国、米国、日本などとの間で、核兵器を保有しないとする国際的なとりきめを結んでおり、それを一方的に反故(ほご)にすることも、許されるものではない。

 北朝鮮は、核兵器開発をすすめる「論理」として、「強力な軍事的抑止力を保有」することによってのみ「民族の安全を守る」ことが保障されるとしている。しかし現実には、そうした「抑止力」論にたった核武装路線こそが、国際社会からの孤立を深め、自らを深刻な危険にさらしているのである。北朝鮮がこの道を放棄して、国際社会による公正な査察を受け入れるならば、いかなる国であっても北朝鮮を攻撃する口実をつくりだすことはできないであろう。

 第二に、北朝鮮が、国際社会との安定した外交関係を打ちたてるためには、これまでこの国がおかしてきた数々の国際的な無法行為の清算は、どうしても避けて通ることができないことである。

 北朝鮮は、国連に席を持ち、多くの国と外交関係を結んでいる。しかし、その関係は、安定した国際関係とはいえないものである。その最大の障害になっているのが、これまで北朝鮮がおかしてきた国際的な無法行為――ビルマ・ラングーンでの爆破テロ事件、日本漁船銃撃事件、大韓航空機爆破事件、麻薬などの不正取引、そして日本人拉致事件などが、清算されていないことである。

 日本人拉致事件の解決は、被害者、家族にとってはもとより、北朝鮮が国際的な無法行為を清算していくうえでも、重要な意味を持つ。日本人拉致事件については、北朝鮮は、ともかくも一定の事実を認め、不十分ではあっても公式に謝罪をしているからである。この一歩を、無法行為全体の清算という方向に前進させることが求められている。この立場にたてば、拉致問題の解決は、日朝間の二国間問題にとどまらず、無法行為の清算を求めるという国際社会全体がとりくむべき課題のなかに位置づけることができる。

 国際的な無法行為の清算によって、近隣諸国や世界各国と安定した外交関係を打ちたてる――真の意味で国際社会の仲間入りをすることこそ、北朝鮮にとっても、平和と安全の最大の保障となることを、国際社会は道理をもって説く必要がある。

 第三に、それぞれの当事国が、軍事的対応の悪循環におちいるのではなく、それを断ち切る立場にたつことが重要である。

 一方で、米国・ブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」の一つと名指しして軍事的に威嚇し、先制攻撃戦略の発動の対象としているが、どの国にたいしてであれ、無法な先制攻撃は許されるものではない。他方で、北朝鮮は、核兵器開発をカードにした瀬戸際政策を繰り返してきたが、こうした態度も平和への脅威をつくりだしている。こうした軍事対軍事の対立の悪循環が、事態を危険なものとしている。

 軍事的対立の悪循環をもたらす行動を、米国、北朝鮮の双方ともに強く自制することが必要である。日本をふくむ関係国は、両者の軍事的対立を助長するのでなく、抑制する方向で対応することが、強く求められる。

 この点でも、先の六カ国協議において、「各当事者は、和平交渉のプロセスにおいて、情勢をエスカレートあるいは激化させうる言行をとらない」、「各当事者はいずれも、半島は非核化されるべきであると主張するとともに、安全保障などの面での北朝鮮の懸念を考慮し解決する必要性を認識した」という共通認識が得られたと発表されているのは、注目される。交渉のなかで、北朝鮮をふくむすべての国の主権と領土の不可侵の原則を、関係諸国が確認し、順守することが必要である。

 (11)日本共産党は、北朝鮮が、一九六〇年代後半に危険な「南進」政策をとろうとしたさいにも、一九七〇年代に当時の指導者・金日成の個人崇拝を押しつけてきたさいにも、一九八〇年代に入って顕著になった数々の国際的無法行為にたいしても、こうした行為はおよそ社会主義とは無縁のものであることを、自主独立の立場から先駆的に、また最もきびしく批判しつづけた党である。

 同時に、この数年来、北朝鮮問題が、東アジアの平和と安定にとって重大な問題となるもとで、日朝両国の政府間に外交ルートを無条件で開くこと、核兵器問題、拉致問題、植民地支配の清算問題などを、交渉によって包括的に解決することなど、問題の理性的解決のための積極的提言をおこなってきた党である。

 北朝鮮問題が道理ある解決を見れば、東アジア地域の平和および新たな繁栄と友好の大きな道が開かれる。日本国民にとっても、平和な国際環境への前進となり、軍国主義復活の潮流は、それをすすめる口実を失うだろう。わが党は、国内外で、北朝鮮問題の理性的解決のために、ひきつづき力をつくすものである。

第四章 日本共産党の野党外交の到達点と展望

 (12)この数年来、わが党の野党外交は、めざましく発展した。その出発点となったのは、一九九七年の第二十一回党大会で、アジア外交重視の方針を決定したことであった。九八年の中国共産党との関係正常化と日中両国共産党の首脳会談は、これを具体化する第一歩の条件をつくるものとなった。野党外交の発展のうえで、画期的な転換点となった方針は、一九九九年六月の第二十一回党大会四中総の方針だった。この方針は、主に共産党間の交流という従来の枠にとどまらないで、相手が与党であれ野党であれ、どのような立場の政党であっても、またさまざまな国の政権とも、双方に交流開始への関心があれば、世界の平和と進歩のために、おおいに交流をはかっていくというものであった。

 この方針は、まず東南アジア諸国歴訪(マレーシア、シンガポール、ベトナム、香港)として具体化され、さらに中東諸国歴訪(ヨルダン、イラク、エジプト、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦)、南アジア諸国歴訪(インド、スリランカ、パキスタン)、北アフリカのチュニジア訪問などをつうじて、諸外国の政権や政権党などとの公的な関係が大きく広がった。タイで開催されたアジア政党国際会議、マレーシアで開催された非同盟諸国首脳会議や第一回東アジア会議などにも、わが党代表が正式メンバーあるいはゲストとして参加した。

 イラク戦争の危機にさいして、わが党は、中国、中東、南アジアなどを訪問し、各国政府と平和解決のための努力をはかるという一致点を確認するとともに、節々で表明した党の見解を各国の在日大使館に伝える活動にとりくんだ。野党外交の進展によって、わが党が、生きた国際政治に直接、正面から働きかける大きな道が開かれた。また、直接の交流をつうじて、わが党の現代世界にたいする認識・知見が、豊かに発展した。

 さらに日本の政治と外交の問題点も、いっそうリアルに見えるようになった。わが党が訪問した国々はどこでも、二十一世紀にどういう国をつくるかについて、困難や矛盾を抱えながらも、自主的な目標を持ち、それぞれのやり方で自主的な国づくりにとりくんでいる。そういう世界にあって、日本だけがとびぬけた対米追随外交に縛りつけられ、自主的な国づくりの展望も目標も持てないでいる。この対比は、野党外交のとりくみのなかで、強く実感されたことであった。

 (13)わが党の野党外交は、世界のどこでも通じる。それは、わが党が、二十一世紀の世界にあって、大多数の国の共通の立場になりつつある“世界の公理”にたって働きかけているからである。この間、わが党が打ちたててきたつぎのような理論的・政治的立場が、野党外交の現場で、大きな生きた力を発揮した。

 ――国連憲章にもとづく平和の国際秩序を守る……わが党はイラク戦争に反対する国際的合意を広げるにあたって、「アメリカ帝国主義反対」でなく、相手がだれであれ、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を破るものは許さないという立場で共同を探求することが重要であると訴えた。そうした立場で話しあえば、世界の多くの国の政府と一致点が確認できることは、とりくみをつうじて実証された。

 ――公正で民主的な国際経済秩序をめざす……わが党は、前党大会決議のなかで、経済の「グローバル化」(地球規模化)についてどう対処するかについて、単純な「グローバル化反対」の立場を排し、“アメリカを中心とした多国籍企業と国際金融資本の利益優先の世界化でなく、諸民族の経済主権が保障された公正で民主的な世界化”という方針を確立した。この立場は、発展途上国の政府などとの対話で、相手が現実に抱えている問題ともよくかみあって、大きな力を発揮した。

 ――異なる価値観を持った諸文明間の対話と共存をはかる……わが党の野党外交は、イスラム世界の多くの国々との交流の扉を開いたが、そのさいに心がかよう大きなカギとなったのが、この立場だった。自分たちの特定の価値観を絶対のものとして、それを全世界に押しつける有害な流れが氾濫(はんらん)しているだけに、イスラム社会の独自の社会発展の内的論理、民主主義への模索と発展の過程を尊重し、対話と共存をはかるという立場をつらぬくことは、重要な意義をもっている。

 (14)わが党が野党外交にとりくんで実感するのは、どこの国との関係でも“反共の壁”がなくなっているということである。たとえば、わが党が交流を広げたイスラム諸国の多くでは、共産党が禁止されているか、存在していない。しかし、そうした国々にも、わが党代表が訪問し、親密な交流の関係を築くことができた。

 なぜ、そうした国々もふくめ多くの国々と信頼と共感の関係が築けるのか。さまざまな要素があるが、日本共産党が、日本軍国主義の侵略戦争に反対をつらぬいた党であること、そして、どんな大国の横暴も認めない自主独立の立場をいっかんして堅持してきた歴史をもつ党であることを先方が知ったときに、それがわが党への信頼の大きな源泉となることは、少なくない国々との対話で体験してきたことである。日本共産党の路線と歴史の力が、世界で生きて働くことは、われわれの大きな誇りである。

 そして世界各国の人々との対話で、相手が驚嘆をまじえた反応を示すのは、「日本共産党は、全国で四十万人をこえる党員、二万五千の党支部、二百万人近い『しんぶん赤旗』読者、衆参合計四十人の国会議員、約四千二百人の地方議員を持ち、草の根で国民と結びついて日夜活動している」という自己紹介をした時である。わが党の外交活動を支える力は、こうした全党の草の根の力にこそある。

 わが党の外交活動の前途は、未来に向けて大きく開かれている。この分野でも、わが党の活動が、さらに実り豊かな発展をかちとるために、ひきつづき力をつくす。

第五章 国民生活を守る諸闘争――たたかいによって暮らしを守るルールを

 (15)自民党政治の経済政策の行き詰まりと破綻のもとで、いま国民の暮らしは未曽有の危機にさらされている。とくに小泉内閣の二年半は、「構造改革」の名で、巨額の国民負担増の押しつけ、大企業のリストラ応援、中小企業つぶしが横行し、国民生活のあらゆる分野での荒廃と破壊が加速した二年半だった。政府の「国民生活に関する世論調査」でも、「生活の不安」を訴える人は67%と、史上空前となっている。

 こうした現状を打開するために、わが党がどう立ち向かうか。二〇〇一年十月の三中総決定は、国政の場での政策的対応とともに、党が「たたかいの組織者」の役割を果たすことがとくに大切だとして、つぎのように提起した。「政府や大企業の陣営が、労働者や国民を犠牲にするどんな無謀な攻撃も平気で強行できる、これは明日の日本の社会のために、どうしても打開する必要がある現状であり、文字どおり二十一世紀の日本社会が直面する最大の問題の一つがここにある」。三中総のこの提起は、日本社会のあり方そのものを大きく変える、長期的な構えにたったたたかいを呼びかけたものだった。

 この方針をうけて、わが党は各分野の国民運動と共同してとりくみを強めてきた。

 ――無法なリストラにたいして、全国各地の職場で、「職場にルールを」をスローガンにかかげ、不当な解雇、転籍などとのたたかいが広がった。「サービス残業」をめぐるたたかいでは、政府に二度にわたって根絶のための具体的措置をとらせ、この二年半の間に、百五十億円をこえる不払い賃金を支払わせるなど、大きな前進の一歩を踏みだした。「青年に仕事を」の要求をかかげた署名運動が開始されるなど、若い世代のたたかいでも新たなうねりが起きつつある。

 ――大企業の一方的な工場閉鎖や、地域金融を担ってきた信用組合・信用金庫を無理やりつぶすなどの攻撃にたいして、党、労働組合、民主団体、自治体などが共同した、地域経済、地域金融を守るたたかいが広がった。地域ぐるみの運動によって、工場閉鎖計画を撤回させたり、雇用を確保させるなどの成果も生まれている。

 ――社会保障をめぐっては、健康保険自己負担を三割に引き上げる暴挙にたいして、医師会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会などもふくめ、これまでになく幅広い国民的共同の運動が広がり、署名は三千万筆におよび、ひきつづき自己負担軽減という要求をかかげて発展している。

 これらの前進は、初歩的な一歩である。同時に、これらは、深刻な生活危機のもとで、日本国民のなかに、たたかいに立ち上がる大きな潜在的エネルギーが蓄積し、広がっていることを示している。そして、このエネルギーに依拠してたたかいに立ち上がるなら、国民生活破壊の悪政が横行するもとでも、暮らしを守る一定の成果を現実にかちとりうることを示している。

 (16)生活危機打開を願う国民の要求は、労働者、勤労市民、農漁民、中小企業家、知識人・文化人、女性、青年、学生、高齢者など、それぞれの階層によって、きわめて多面的な広がりを持っている。また、都市と農村・地方、それぞれの地域ごとにも、生活をめぐる要求は、独特の特徴を持っている。国民の切実な要求の全体を視野に入れた、多様で壮大なたたかいを発展させる必要がある。

 そのなかでも、自民党政治による生活破壊の攻撃とのたたかいの直面する焦点として、つぎの三つの課題での国民的運動を呼びかける。

 ――リストラに反対し、安定した雇用を拡大するたたかい……大企業のリストラ競争と、それを応援する政治のもとで、雇用をめぐる状況はかつてなく深刻である。失業が戦後最悪になっただけでなく、国民の所得が急激に減りはじめている。大企業は競いあって、正規雇用労働者を減らし、パート、アルバイト、派遣・契約社員などの不安定雇用におきかえる動きをすすめている。その一方で、過労死をまねく異常な長時間労働がさらにひどくなり、違法な「サービス残業」がはびこっている。若者の雇用問題は、とりわけ深刻な社会問題となっている。無法なリストラに反対し、「サービス残業」の根絶と長時間労働の是正、年休の完全取得をはかり、安定した雇用を拡大し、雇用と労働のルールをつくるためのたたかいの発展が、強く求められている。雇用の七割を支えている中小企業の経営基盤に踏み込んだ支援を拡充することを要求する。

 ――社会保障の連続改悪に反対し、予算の主役にすえるたたかい……毎年のようにくりかえされる社会保障予算の強引な削減は、連続的な負担増、給付減となって国民に襲いかかり、社会保障という本来なら暮らしの安心の支えとなるべき制度が、国民の生活不安の大きな根源となっている。とくに来年度にも計画されている年金制度の大改悪に反対するたたかい、医療費のとめどもない負担増をやめさせ負担軽減を求めるたたかい、高すぎる保険料・利用料など介護保険の矛盾を改善するたたかいは、当面する焦点である。わが党は、歳出・歳入の改革で安定した社会保障財源を確保する政策的展望を示しつつ、社会保障の連続改悪に反対し、予算の主役にすえるたたかいを発展させるために、力をつくす。

 ――消費税の大増税計画を打ち破る国民的闘争……いま政府・財界から消費税率を二ケタに引き上げる大合唱が始まっている。「二〇一四年度には16%に」(日本経団連)、「二〇二〇年度には19%に」(経済同友会)など、財界団体から増税を求める声がつぎつぎにあがり、政府税制調査会も中期答申で「二ケタ税率化」を明記した。関係閣僚からも、二〇〇六年度にも増税のための法律的手当てが必要との発言がなされている。まさに消費税大増税に向けた暴走が始まろうとしている。消費税は、税率10%なら総額二十五兆円、税率16%なら四十兆円もの恐るべき巨額の収奪となる。国民が黙っていたら、この方向が「既定事実」にされかねない状況である。

 消費税は何よりも、所得の少ない人に重くのしかかる逆累進性を本質とする最悪の不公平税制である。税率引き上げは、逆累進性をいっそう深刻にし、ただでさえいちじるしく拡大しつつある貧富の格差に追い打ちをかけ、庶民生活と日本社会に荒廃をもたらすものである。

 消費税は、税を価格に転嫁しきれず、身銭を切って納税している、多くの中小零細企業にとっては営業破壊税である。税率引き上げは、不況に苦しむ業者を倒産・経営困難に追いこむ深刻な事態をまねくものである。

 さらに消費税が、景気破壊税であることは、九七年の消費税増税をはじめとする九兆円の負担増が、弱々しい足取りながらも回復を始めていた日本経済をどん底におとしいれた経験からも明らかである。長い不況に国民生活も日本経済も疲弊しきっているもとで、増税計画を持ち出すなど言語道断である。

 「社会保障の財源のため」という増税の口実は成り立たない。消費税導入から十五年間の税収の累計は百三十六兆円にのぼるが、同じ時期に法人三税の税収は累計で百三十一兆円も減収している。消費税導入・増税とセットで、法人税減税がくりかえされてきた結果である。国民からしぼりとった消費税は、大企業への減税の財源としてのみ込まれてしまったのである。いまおこなわれている財界の提言でも、消費税の大増税が法人税のいっそうの減税とセットで打ち出されている。「社会保障の財源のため」でなく、「大企業の税負担のいっそうの軽減のため」――ここに真実がある。

 日本共産党は、天下の悪税――消費税の廃止をいっかんして求めている党である。同時に、いま暮らしも経済も破壊する消費税大増税が強行されようとしているもとで、それに反対する一点での広大な国民的共同とたたかいが急務である。わが党は日本列島津々浦々からこの運動を起こすことを、心から呼びかける。

 (17)日本の食料と農業は、歴史的な危機に直面している。食料自給率は、低下をつづけ、家族経営の多くは存続すら危ぶまれている。農業の破壊は、国土・環境の保全や地域経済の維持にとっても深刻な影響を与えている。また、輸入食品の残留農薬問題やBSEなど「食の安全」が脅かされ、多くの消費者、国民が不安を強めている。産業政策のなかで、農業を基幹的な生産部門として位置づけ、その再建をはかり、食料自給率を計画的に向上させることは、緊急の国民的課題となっている。

 九月にカンクン(メキシコ)で開かれたWTO(世界貿易機関)閣僚会議では、多国籍企業の利益優先で農産物貿易のいっそうの拡大を主張するアメリカなど輸出大国に対して、NGOや多くの発展途上国から反対の声が高まり、矛盾が深刻化している。世界的な食料不足が懸念されているもとで、農業の全分野を一律に貿易自由化の対象にするやり方をあらため、日本の米など各国の食料自給で中心的位置を占める農産物を輸入自由化の対象からはずし、各国の「食料主権」の確立をめざすことは、国際連帯の重要な課題になっている。

 小泉政権は、全面的な食料・農産物の輸入依存を前提に、価格と需給安定にたいする国の責任を放棄し、「米政策改革大綱」では、一定の規模以上(都府県四ヘクタール以上、北海道十ヘクタール以上)の大規模経営農家と法人しか担い手として認めないというすでに破綻した政策をいっそう乱暴に押しつけ、圧倒的多数の家族経営をしめだそうとしている。このままでは、日本農業の崩壊が一気にすすむことになる。

 いまこそ、食料・農林漁業政策を根本から転換し、とめどもない輸入拡大を抑えると同時に、農産物の価格・所得保障を抜本的に充実させ、家族経営を支える農政の確立と食の安全を守るたたかいを前進させることが求められる。農村、都市を問わず、日本国民の存亡にかかわる問題として、国民的運動の発展のために力をつくす。

 (18)日本における「ルールなき資本主義」といわれる現状は、長期にわたる自民党政治と日本独占資本主義の反動的支配が生み出したものだが、同時に、労働者、国民にたいする不当な攻撃がかけられたときに、それにたいする社会の側からの反撃のたたかいが弱いこととも、結びついたものであることを直視する必要がある。

 欧州諸国では、一九八〇年代から九〇年代にかけて、保守的政権のもとで、「規制緩和万能論」が強まり、労働者のたたかいによってかちとってきた労働のルールを壊そうという逆流が強まった。それにたいして、フランス、ドイツ、イギリスなどで、数百万人という規模で労働者が参加したゼネストをはじめ、強力な反撃のたたかいが起こった。このたたかいは、個々の企業での賃上げや労働条件の改善をかちとるにとどまらず、解雇規制をはじめとする労働のルールを守り、前進させた。さらに、「企業の社会的責任」がEU全体の共通の認識となり、雇用や環境などの分野でそのための法令が整備されるとともに、情報公開の強化などをつうじて企業に自主的努力を促す方策がすすめられている。欧州では、無法な攻撃にたいする社会的大反撃の闘争のなかから、暮らしと労働を守るルールをつくりあげてきたのである。そしてこれらのルールが、欧州経済の安定性と強さの一定の基盤ともなっていることにも注目すべきである。

 日本国民も、たたかいによってルールをかちとった歴史的経験をもっている。一九六〇年代から七〇年代にかけての国民のたたかいは、いまに生きる暮らしを守る重要なルールをかちとっている。七〇年代のオイルショックに便乗して一方的な整理解雇の攻撃が吹き荒れたさい、全国の労働者の強力な反撃がわきおこり、七〇年代後半に全国各地の裁判所の判決で「整理解雇の四要件」と呼ばれる一方的解雇を規制する判例体系が形成され、労働者の権利を守る重要なルールとして確立した。六〇年代後半から大きく発展した公害反対の住民運動は、「四大公害裁判訴訟」をへていっそう前進し、七〇年には「公害国会」を開かせ、公害対策を大企業を拘束しない範囲にとどめていた従来の公害対策基本法を改正させ、環境を守るルールの重要な前進がはかられた。世界に類をみない職場での異常な思想差別にたいして、長期の困難な闘争をたたかいぬき、東京電力、中部電力、関西電力など、すべての裁判で勝利をかちとり、こうした野蛮な思想差別を許さないルールを確立したことも、たたかいの成果である。女性の賃金差別を許さないたたかいも重要な前進をかちとった。

 しかし、一九八〇年の「社公合意」路線と戦後第二の反動攻勢のもとで、日本の労働組合運動の右傾化の傾向が顕著になった。労働者の権利や生活向上の要求を抑え込もうという労資協調主義が横行した。こうして、勤労者の生活と権利を守る社会的たたかいの力を大きく弱める事態がつくりだされていることを、直視する必要がある。

 当面の国民の切実な要求を実現するうえでも、民主連合政府とそれをになう統一戦線を実現するうえでも、この弱点を克服し、不当な攻撃には強力な社会的反撃をもってこたえる社会へと前進していくための、本腰を入れたとりくみが重要である。“たたかいによって暮らしを守るルールを”――この立場にたった大闘争が求められる。

 (19)このとりくみのなかで、日本共産党が「たたかいの組織者」としての先駆的役割を発揮することがきわめて重要である。たたかいの旗印をかかげ、その大義を明らかにし、一歩でも二歩でも現実に成果をかちとり、大衆団体の運動と組織の強化のために努力をはらい、立場の違いをこえた広い人々との共同をつくりあげるなど、わが党の果たすべき責任はきわめて大きい。すべての職場支部、地域支部、学生支部、青年支部が、国民のたたかいのたのもしいよりどころとしての役割を果たすことが求められる。

 とくに、たたかいの大義を明らかにし激励する、政策・理論活動を展開することは、わが党の重要な責務である。たとえば、無法なリストラに反対するたたかいの意義は、たんに労働者の生活と権利を守ることにとどまらない。リストラ競争は、国民所得をへらし、「合成の誤謬(ごびゅう)」をつくりだし、日本経済の長期停滞・衰退の一因となっている。コスト削減のための不安定雇用の拡大は、企業の生産性を低下させる事態を引き起こしている。雇用破壊が、社会保障の担い手を土台から弱め、医療や年金制度の深刻な空洞化をつくりだしている。こうした状況のもとで、無法なリストラに反対するたたかいは、日本経済、日本社会の持続的な発展にとっても国民的大義を持つ課題となっている。

 国民にたたかいをあきらめさせ、そのエネルギーを眠り込ませる攻撃が強められているもとで、一つひとつのたたかいの課題について、それがどういう国民的大義を持っているのかを明らかにしていくことは、わが党が果たすべき重要な役割である。この役割を果たすうえで、今日のマスメディアの状況とのかかわりでも、「しんぶん赤旗」の存在と役割は、きわめて大きい。

 (20)わが党は、国民運動の各分野で、多数者をめざす民主的な大衆運動の発展のために力をつくす。わけても労働組合運動が、労資協調主義の弱点を克服して発展することが重要である。

 いま大企業の「リストラも賃下げも」という攻撃のもとで、戦後の伝統的な労資協調主義の理論であった、企業の生産性の向上に協力してこそ労働者の生活もよくなるという、いわゆる「パイの理論」が破綻し、労働組合の原点が根本から問われる新しい事態が生まれている。このもとで大企業側は、「労働者の生活と権利を守り、労働諸条件の改善をはかる」という労働組合の原点すら放棄させ、労働組合を企業の利潤追求と生産活動を補完する組織へと変質させようという動きを強めている。これは労働組合の文字どおりの自殺行為であり、広範な労働者との矛盾を激しくしている。端緒的であるが、ほんらいの労働組合のあり方をとりもどそうという動きも各地にあらわれつつある。いま日本にたたかう労働運動をとりもどしていく客観的条件は、おおいにある。

 このなかで全労連が、階級的ナショナルセンターとして、労働者の切実な要求を実現するとともに、国民的要求を担って前進することが、強く期待される。たたかいをつうじて、未組織労働者や、不安定雇用の労働者のなかでの組織の拡大をすすめ、ナショナルセンターの違いをこえ一致する課題での共同をひきつづき探求することが重要である。

 わが党の職場支部は、その企業で労働組合がどんな立場をとっていようと、労働組合が未確立の職場であろうと、労働者の利益を守り、たたかいを組織する拠点としての役割を担っている。この二十数年来の攻撃にたえて守り抜いてきた陣地は、きわめて重要な財産である。要求実現の活動をつうじて職場の労働者と広く深く結びつき、陣地を維持・拡大し、つぎの世代への継承を計画的・系統的にかちとるため、知恵と力をつくす。

 国民要求を実現するための各分野でのたたかいを発展させる努力と結びつけて、統一戦線運動の前進をかちとる。今日の統一戦線の基本は、わが党と広大な無党派の人々との共同を広げることにある。わが党は、全国革新懇運動の地域、職場からいっそうの発展をかちとるために、力をそそぐものである。

第六章 憲法改悪反対の一点での、広い国民的共同を呼びかける

 (21)憲法九条を焦点とした改憲論の策動は、新たな危険な段階に入っている。政府による従来の解釈改憲が限界に達するなかで、明文改憲の危険が現実のものになりつつある。つぎのような特徴を持った危険な動きが進行していることに、強い警鐘を鳴らさなければならない。

 ――憲法を蹂躙して、一連の海外派兵法が強行され、自衛隊派兵が拡大されてきた。政府はこれまで、海外での自衛隊の活動について、「武力行使と一体にならない支援は許される」という詭弁(きべん)をろうしてきたが、こうした詭弁と戦火がなおつづくイラクへの派兵計画などを両立させることは、いよいよ不可能となってきた。

 ――小泉政権のもとで、明文改憲が現実の政治日程にのぼりつつある。首相は、自民党結党五十周年にあたる二〇〇五年十一月をめどに党の憲法「改正」案をとりまとめるように指示し、その前に憲法「改正」の国民投票法案の成立が必要だと、あからさまに明言した。首相が具体的期日を設けて改憲案とりまとめを指示したのは、戦後かつてなかったことである。

 ――国会状況をみても、二〇〇〇年一月に衆参両院で憲法調査会が設置され、来年の通常国会にも最終報告書を提出する動きが強まっている。自民、民主、自由、公明、改革クラブなどから衆参で三百人以上が参加する憲法調査推進議員連盟は、憲法改定の発議にかかわる国会法「改正」案と、憲法改正国民投票法案をまとめている。自民党、公明党、民主党、自由党など、わが党と社民党以外の主要政党が、改憲の立場と、それぞれの改憲の方針を打ち出している。与野党の壁をこえ、改憲論が大きな流れをつくりだしつつある。

 (22)改憲論は、けっして日本国民の要求から生まれたものではない。二〇〇〇年十月にアーミテージ現米国国務副長官が中心になって作成した対日報告書が、「集団的自衛権を禁じていることが両国の同盟協力を制約している」として、集団的自衛権の行使を求めたことが、自民党・財界の軍国主義復活をめざす志向と結びついて、あいつぐ海外派兵立法の強行と改憲論横行の起動力となった。

 米国が無法な覇権主義の戦争を引き起こしたさい、この戦争に地球的規模で日本が参加するうえで、その最大の障害となっている憲法九条をとりのぞき、歯止めなき海外派兵に道を開く――ここに改憲策動を推進している最大の衝動がある。この動きは、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を求める世界の流れにまっこうから逆らうものである。

 憲法九条を擁護することは、わが国の恒久平和の進路を確保するうえで重要であるだけではない。それは、米国による一国覇権主義を許さない世界をつくることと、不可分に結びついた重大な国際的意義を持つたたかいである。この間のわが党の野党外交においても、アジア・中東の諸国民が、日本にたいして望んでいることが、「九条を持つ国」として国際平和のために先駆的役割を果たすことにあることは、強く実感されたことであった。

 日本共産党は、憲法改悪に反対し、その平和原則にそむくくわだてを許さないという一点での、広い国民的共同の大闘争を呼びかける。わが党はこの闘争のなかで、首尾一貫した憲法擁護論を持つ党として、その真価を発揮して奮闘する。

第七章 社会の道義的な危機を克服する国民的対話と運動を

 (23)日本社会の直面している危機には、政治的危機、経済的危機だけでなく、道義的危機というべき深刻な問題がある。この危機は、子どもたちにもっとも深刻な形で影響をおよぼしている。重大で衝撃的な少年犯罪があいつぎ、いじめ、児童虐待、少女買春などが起きていることにたいして、多くの国民が不安を持ち、心を痛めている。

 わが党はこれまでも、人間をおとしめ、粗末にする風潮とたたかい、健全な市民道徳を形成するための対話と運動をすすめることを、くりかえし呼びかけてきた。党自身の責任としても、前党大会の規約改定において、「市民道徳と社会的道義をまもり、社会にたいする責任をはたす」ことを、党員の最優先の義務と位置づけてきた。

 今日あらためて、社会の道義的な危機を克服する課題――わけても子どもたちに健全な成長を保障することを、二十一世紀に民主的な日本社会を築いていくとりくみの重要な内容の一つに位置づけ、国民的な対話と運動でともに解決方向を探求し、現状打開のための努力を強めることを呼びかけるものである。

 (24)今日の道義的危機の根本には、自民党政治のもとでの国民の生活、労働、教育などにおけるゆがみや矛盾、困難の蓄積があり、それらの民主的打開のために力をつくすことが重要である。

 たとえば大企業のリストラ競争のもとでの雇用破壊や長時間過密労働は、家族のだんらんやコミュニケーションを破壊している。「勝ち組・負け組」といった弱肉強食の競争至上主義の風潮がつくられ、他人を思いやるゆとりが奪われ、国民の精神生活にも殺伐とした雰囲気が持ち込まれている。若者の深刻な雇用危機は、青年の社会参加の権利を奪い、就職・結婚・子育てなど、将来の希望を閉ざす重大な問題となっている。

 国連子どもの権利委員会は、日本政府への勧告のなかで、「極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子どもが発達のゆがみにさらされている」とするきびしい批判をよせた。自民党政府が長年つづけてきた世界でも異常な競争主義の教育、管理主義の教育は、子どもたちの心と成長を、深刻に傷つけている。政府・自民党は、今日の教育の矛盾と困難の原因を教育基本法に求め、その改悪の策動を強めているが、これはまったく根拠も道理もないものである。反対に、政府・自民党が長年にわたって、教育基本法に明記された民主的教育の理念と原則――「人格の完成」を教育の根本目的とし、国家権力による「不当な支配」を許さないなどの理念と原則を踏みにじってきたことこそが、今日の教育をめぐる矛盾と困難をつくりだしているのである。

 政治や経済でのあいつぐ腐敗・不正事件は、子どもにとってはかりしれない有害な影響をおよぼしている。この分野での道義的腐敗の一掃は、健全な社会道徳を築いていくうえでも、きわめて重要である。

 さらに、他国への戦争をけしかけ、テロを容認し、あおりたてる政治家の発言が問題となったが、こうした発言の生まれる根本にはアジア諸民族を侮蔑(ぶべつ)する独善的な排外主義の潮流が一部に台頭しつつあるという危険な状況がある。

 市民道徳に有害な影響をおよぼしている、自民党政治のもとでのさまざまなゆがみや矛盾をただすたたかいが必要である。わが党は、日本社会を「民主的なルールある社会」にするたたかいを、日本社会に健全なモラルをとりもどしていく課題と一体のものとしても位置づけ、力をつくすものである。

 (25)これらの努力をはかりつつ、それには解消できない、社会が独自にとりくむべき問題として、わが党は、つぎの四つの角度からのとりくみを呼びかける。

 ――民主的社会にふさわしい市民道徳の規準の確立……民主的社会の形成者にふさわしい市民道徳の規準を、国民的な討論と合意で確立していくことは、今日とくに重要である。

 戦前、わが国の「道徳」は、「教育勅語」を中心として、天皇絶対の専制政治への忠誠に国民をかりたてることを第一に、国家権力から押しつけられた強制的規範としてつくられた。それは真の意味での市民道徳とは無縁のものであり、この「道徳」のもとで、他民族への侵略戦争という人間の道義を蹂躙した蛮行がおこなわれた。

 この歴史的誤りの反省のうえにつくられた日本国憲法と教育基本法は、戦後の民主的な市民道徳を形成していくうえでの土台となりうるものだった。すなわちそれは、主権在民の原則、人権と人格の尊重、平和的な国家および社会の形成者、真理と正義の探求、勤労と責任の尊重、男女の平等・同権など、人類の進歩に立脚した普遍的価値観をふくんでいる。これらを土台にして、民主的社会の形成者にふさわしい市民道徳の規準を確立するための、さまざまな自主的なとりくみもおこなわれてきた。

 わが党も、一九七〇年代、八〇年代に、教育の場で、学力、体育、情操とともに、市民道徳を身につける教育の重要性を呼びかけ、九七年の第二十一回党大会決議では、市民道徳にふくめるべき内容として、十項目の諸点を提起してきた。

 こうした努力にもかかわらず、“何を市民道徳の規準とするか”という問題について、必ずしも国民的合意が存在しているとはいえないという現状がある。これは、政府によって上からの押しつけで決めるべき問題でなく、もとより一つの政党が決める問題ではない。社会的に認知された市民道徳の規準を、国民的な討論と合意によって形成することが重要になっていると考える。

 ――子どもを守るための社会の自己規律を築く……「子どもに対して特別の保護を与える」(子どもの権利条約)という、社会が持つべき当然の自己規律の面で、日本が国際的に見ても重大な弱点をかかえていることは、深刻な問題である。

 少女買春など性の商品化が子ども社会をむしばんでいるが、この分野での社会の自己規律は、国連子どもの権利委員会から、「児童のポルノグラフィー、売春および売買を防止し、これとたたかうための包括的な行動計画が欠けている」と勧告されるなど、国際的に見てもきわめて不名誉な地位にある。

 メディアやゲームの映像などにおける暴力や性のむきだしの表現が、子どもにたいして野放しにされていることにも、多くの国民が心を痛めているが、この分野の自己規律も、わが国は国際的にきわめておくれている。さらに、子どもをもうけの対象とみて、その欲望をかりたてつつ、子どもに大量の商品を消費させている社会のあり方も、世界から見ればきわめて異常な状態である。

 サッカーくじは、子どもたちが買えないことが建前とされたが、実態は子どもたちを巻き込むギャンブルとなっている。政府・文部科学省が、子どもを引き入れる賭博の胴元になっている現状は、とうてい容認できない。

 この分野での日本社会の異常な立ち遅れを克服し、子どもの健全な成長を保障する社会の自己規律を確立することは、急務である。

 ――子どもが自由に意見をのべ、社会参加する権利を保障する……子どもの意見表明権や社会参加の権利を、学校や地域など社会の各分野で保障することは、子どもの世界を明るく積極的なものにするうえで大切なことである。

 少年事件や少年問題の原因はさまざまだが、その背景の一つに、子どもの自己肯定感情(自分を大切な存在と思う感情)が深く傷つけられているという問題があることは、多くの関係者・専門家が共通して指摘していることである。自己肯定感情が乏しければ、他人を人間として大切にする感情も乏しいものとならざるをえない。国際比較調査でも、「自分自身への満足」「私は価値ある人間である」と感じている子どもの比率が、日本ではきわめて小さいことは憂慮すべきことである。

 子どもたちが、自分が人間として大切にされていると実感でき、みずからの存在を肯定的なものと安心して受け止められるような条件を、家庭でも、地域でも、学校でも、つくることが切実に求められる。

 そのためにも、子どもが自由に意見をのべる権利を保障し、その意見を尊重し、子どもの社会参加を保障するとりくみが重要である。社会の一員として尊重されてこそ、自分を大切にし、他人を大切にし、社会のルールを尊重する主権者として成長することができる。

 子どもの権利条約は、「子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を子どもに保障し、その意見は子どもの年齢および成熟度に応じて正当に重視される」と定めている。世界では、生徒が学校運営に参加するなど、子どもの社会参加が大きな流れになっている。この間、日本でも、学校や地域など、さまざまな場で、子どもの意見表明や参加を重視する新しい流れが起こっている。こうした積極的な流れを、大きく前進させることが大切である。

 ――子どもの成長を支えあう草の根からのとりくみを……家庭、地域、学校が共同して、子どもたちの成長を見守り、悩みにこたえ、支える、草の根からの運動をすすめる。市民道徳は、言葉だけでなく、現実の人間関係、社会関係をつうじてこそ、身についていくものである。

 いま全国各地で、読書運動、舞台・映画鑑賞、スポーツ、リズム体操、自然・社会体験、自主的子ども組織づくりなど、豊かな人間関係を育てていくための多面的なとりくみが広がっている。いじめ、非行、不登校、ひきこもりなど、子育てに悩む親たちの自主的な組織も無数に生まれている。党がこれらの草の根からのとりくみを応援し、ともに解決の方途を見いだしていくことが、重要になっている。

 社会的道義の問題は、モラルの問題という性格からいって、上からの管理、規制、統制、押しつけを強めるという立場では、解決できないどころか、有害な作用をおよぼすだけである。少年犯罪の加害者の親に制裁と報復をくわえるのが当然とする閣僚の発言は、その最悪のあらわれの一つである。

 この問題は、国民の自発的な力に依拠してこそ解決の道が開かれる。わが党は、社会の道義的危機を克服し、未来をになう子どもたちに健やかな成長を保障する社会をつくるための、国民的な対話と運動を呼びかけるものである。

第八章 総選挙、参議院選挙での新たな躍進をめざして

 (26)わが党は、まぢかに迫りつつある総選挙、来年七月の参議院選挙で、綱領改定案を土台にし、大会決議案を指針として、二十一世紀の日本の進路を大きく問うたたかいをすすめる。この進路選択における対決の焦点は、自民党政治の古い枠組みの継続か、日本共産党が提唱している日本の民主的改革かにある。

 「こんな“アメリカいいなり”でいいのか」、「“生活不安”をひどくするばかりの政治でいいのか」、「憲法改悪を許していいのか」など、国民が感じている自民党政治の矛盾の集中点を問いかけ、根本的改革の道を大きく対置してたたかう。綱領改定案の最大の主題は、「民主主義革命論の仕上げ」にあったが、ここにもりこまれた内容と大会決議案の提起は、そのまま選挙の生きた争点となる問題である。

 さらに綱領改定案で大幅に書き改めた、わが党の未来社会論――社会主義・共産主義論は、わが党がめざす理想社会の展望を攻勢的に語る重要な土台を築くものであり、これをおおいに生かしたたたかいをすすめる。

 (27)きたるべき政治戦で、日本共産党が新たな前進・躍進をかちとることは、直面する国民の暮らしと平和の擁護にとってのみならず、二十一世紀の日本の進路を左右する、きわめて重要な意義を持つ。

 第一に、日本共産党は、自民党政治の中身を変える、たしかな路線と政策を持つ党であり、この党をのばしてこそ、「政治を変えたい」という国民の切実な願いを実現する道が開かれる。

 自民党政治の中身を変えず、その担い手だけを取り換える「政権交代」が、どういう結果をもたらすかは、国民はすでに体験ずみである。一九九三年から九四年にかけての細川政権は、「非自民政権」を看板にしながら、消費税増税のくわだて、コメ輸入自由化、小選挙区制・政党助成金制度の導入など、自民党政権でもできなかった悪政をつぎつぎに強行したあげく、みずからの金権腐敗疑惑で崩壊した。それはこの政権が最初に打ち出した「自民党政治の基本路線の継承」の必然的結果だった。この経験は、口でいくら「反自民」「非自民」といっても、それにかわる政治の中身を示せなければ、国民の期待にこたえられないことを証明している。

 日本共産党は、米国追従・大企業応援の自民党政治の枠組みを、根本から変革する立場を確立している政党である。この党をのばすことこそ、政治の根本的変革を願う国民の要望を生かす道である。

 第二に、日本共産党が国政で前進・躍進をかちとることは、あらゆる分野での国民のたたかいを支え、促進し、国民が直面している現実の苦難を軽減していくうえでも、もっともたしかな力となる。

 たとえば、「サービス残業」の根絶のために、わが党は、国会で二百回以上もの追及をおこない、「根絶法案」を提出するなど、いっかんした粘り強いとりくみをおこなってきた。労働者、その家族との一体となったたたかいのなかで、政府に是正の「通達」を出させ、百五十億円をこえる不払い残業代を支払わせた。

 「不良債権の早期処理」路線と、信用組合・信用金庫つぶし、中小企業つぶしの悪政のもとで、中小業者のたたかいと一体になった論戦によって、金融庁に「金融検査マニュアル・中小企業版」をつくらせ、借り換え融資保証制度を創設させるなど、中小企業の命綱を守るたたかいを前進させてきた。

 介護保険制度の制定にあたって、政府が法案を提出する前から、保険料・利用料などによって低所得者を排除しないことや、サービス供給体制を整備することなどを内容とする対案を示し、介護保険法が制定されてからも五回にわたって制度改善の提言をおこない、住民や自治体のたたかいと一体になった国会論戦をすすめてきた。独自の保険料減免を実施している自治体・保険者は六百九十五、利用料減免をしている自治体は九百八にまで広がっているが、国会で低所得者対策という角度から介護問題をとりあげた党は他になく、この分野でも制度の改善をかちとるうえで、党の提言と論戦が大きな力になったことは間違いない。

 有事法制、イラク派兵法で、わが党は、憲法と国連憲章を擁護する立場から、先駆的論戦を展開した。法案は強行されたが、わが党の論戦は、国民のたたかいを支え、継続的に発展させるうえで、大きな貢献をしている。この悪法の発動を阻止するうえでも、さらにわが党が前進することが、決定的である。

 これらは、国政を動かしたわが党の実績の一部であるが、わが党が、こうした働きができるのは、大企業応援・対米従属の自民党政治を根本から変革する政治路線を持つ党であるからである。根本的改革の旗印を持つ党をのばしてこそ、直面する暮らしと平和を守るたしかな保障となる。

 第三に、日本共産党が前進・躍進してこそ、自民党政治を変えるしっかりした野党戦線を築く道も開かれる。

 いまの野党の現状には、二つの側面がある。一つは、それぞれの野党が、「反自民」をかかげるという点では野党性が示されており、そこにわが党との接点もある。わが党は、この点を重視し、一致点での国会共闘を誠実に発展させるという立場をとっている。同時に、わが党以外の野党が、自民党政治の枠組みを変える旗印も戦略も、持てないでいることも事実である。民主党と自由党との合併という動きがあるが、そのなかからも、そうした旗印は見えてこない。

 とくに日米安保条約にたいする態度、「構造改革」にたいする態度、憲法改悪にたいする態度など、国政の基本問題で、わが党以外の野党が、自民党政治の枠組みを打破する立場を確立できていないことは、今日の野党状況の大きな弱点である。わが党が、直面する政治戦で前進・躍進することは、こうした弱点を乗りこえて、国民の要望にこたえるしっかりした野党戦線をつくる道を開くものとなる。

 さらに、わが党は、綱領改定案に明記しているように、単独政権でなく、統一戦線を基礎にした民主連合政府をめざす党である。国政における日本共産党の政治的比重を大きく高めることは、やがては民主的政権をになう政党間の連携をつくりあげていく力となって働くだろう。

 日本共産党の前進・躍進の度合いは、民主連合政府と政治変革の事業がどれだけの速度で前進するかを、決定づけるものとなる。

 (28)総選挙、参院選にあたっては、この数年来の政党間闘争での、わが党の躍進、後退、そして反撃の生きた流れをつかみ、それにふさわしい構えや目標をもってのぞむことが重要である。

 九〇年代後半の一連の選挙戦で、わが党は党史上空前の躍進の波をつくりだし、一九九六年の総選挙では七百二十六万票、九八年の参議院選挙では八百二十万票という票をえた。こうしたわが党躍進への強い危機感を背景に、二〇〇〇年初頭ごろから、自民・公明の反動連合によって大規模な謀略・デマを中心にした新たな本格的な反共攻撃が開始され、この年の総選挙で、わが党は議席と得票を後退させた。この反共攻撃に「小泉旋風」がくわわって、二〇〇一年の参院選では、わが党はさらに後退を余儀なくされ、四百三十三万票まで押しもどされる結果となった。

 現在の政治局面は、押しもどされた地点から反撃し、前進する過程にある。いっせい地方選挙でわが党は、その第一歩の足がかりをつかんだが、本格的な反転攻勢は、つぎの国政選挙の課題となっている。したがって、総選挙、参院選にのぞむ構え、目標については、つぎの点が重要である。

 第一に、政党間の力関係の現状をリアルに直視することが出発点となる。すなわち、二〇〇一年の参議院選挙で獲得した四百三十三万票が、われわれのとりくみのリアルな起点となる。これを起点とし、反撃と攻勢の活動をつうじてどれだけ前進・躍進するか――これで選挙戦の結果がはかられる。

 第二に、選挙戦の目標は、前進・躍進に向けておおいに大志ある目標をかかげ、その実現のために全力をあげる。衆議院選挙では、それぞれの衆院比例ブロックごとに現有議席の確保といっそうの前進をめざしてたたかうとともに、小選挙区でも議席獲得に挑戦する。参議院選挙では、比例代表、選挙区ともに、現有議席の確保・前進をめざしてたたかう。それぞれの選挙で、議席の前進・躍進とともに、みずから決めた得票目標をかならず達成することが重要である。

 (29)総選挙でも、参院選でも、わが党が、勝利をかちとることは、容易ではない事業である。現有議席の確保そのものが、反転攻勢のとりくみをなしとげてこそ、はじめて可能になることを銘記したたたかいが、必要である。

 同時に、わが党のたたかいいかんでは、党の前進・躍進の可能性と条件が存在していることに大きく目を向け、国民的規模で党の真価を語りぬき、広げぬく壮大なとりくみをすすめることが重要である。政党間の力関係の現状はリアルに見る必要があるが、それを固定的にとらえることは正しくない。その劇的な変動が起こりうる客観的条件が存在していることをとらえ、それを現実のものとする積極果敢なとりくみが必要である。

 自民党政治は、外交・内政での政治路線の破綻とともに、組織的基盤の崩れでもかつてないものがある。そのもとで都市部でも、農村部でも、新たな無党派層が増加し、有権者の五割から六割と、大きな広がりを見せていることに注目する必要がある。

 最近の各種世論調査を分析しても、この人々は、自民党政治の現状に強い批判を持っている人々である。これらの人々の多くが、強い“生活不安”を持ち、その解決の道を示せない政府の経済政策への強い不満を表明している。米英軍によるイラク戦争や、この戦争を支持しイラクに自衛隊を派兵しようという“アメリカいいなり”の政府にたいする批判も、きわめて強いものがある。

 これらの無党派の人々がいだいている切実な関心、要求を、わが党が共有するところから出発し、ともに二十一世紀の日本の進路を探求しようという立場で、積極的な働きかけをおこなうなら、無党派の人々とわが党との共同の流れの新たな高まりをつくりだす可能性と条件は、おおいにある。これまでわが党を支持したことのある人々への働きかけを確実に広げながら、無党派の人々、これまで他党派支持だった人々のなかで、どれだけわが党への支持と共感を広げることができるかに、選挙戦の帰趨(きすう)は大きく左右される。

 こうした前向きの政治変革の流れを起こすうえでも、反共攻撃を攻勢的に打ち破ることは、不可欠である。今日、われわれが直面している反共攻撃の波は、反動・反共陣営の側からすれば、いわば戦略的位置づけを持ったものである。すなわち、危機におちいった自民党政治を延命させるとともに、かりに自民党が一時的に政権を失っても、日本共産党さえ抑えつけておけば、過去にもやってきたような「政界再編」的な乗り切りと、支配体制の継続はいくらでも可能となる――そうした戦略的な位置づけでの攻撃だけに、その打破には本腰を入れたとりくみが必要となる。

 綱領改定案は、「民主連合政府の樹立は、国民多数の支持にもとづき、独占資本主義と対米従属の体制を代表する支配勢力の妨害や抵抗を打ち破るたたかいを通じて達成できる」とのべている。反共攻撃を打破するたたかいを、民主連合政府の樹立に道を開くうえで不可欠な「支配勢力の妨害や抵抗を打ち破るたたかい」――綱領的課題と位置づけて、とりくみのいっそうの強化をはかる。

 (30)選挙戦の方針は、六中総決定で詳細に明らかにしている。それを前提とし、つぎの諸点をしっかり握ってたたかいぬく。

 ――比例代表選挙を中心にすえる……総選挙でも、参議院選挙でも、比例代表選挙での得票の躍進と議席の確保・前進が、全国すべての党組織にとって、最優先の任務であることを銘記してたたかう。日本共産党の政策と路線、実績、歴史と理念、その全体像を広く国民に語り、日本共産党そのものへの支持と共感を広げることを選挙戦の中心にすえてたたかいぬく。

 小選挙区は、有権者の前で国政を争う基礎単位であり、比例代表選挙をたたかう基礎単位ともなる。小選挙区でのたたかいも、その選挙区で日本共産党の得票をどうのばすかを最大の仕事とし、比例代表での前進に総力をあげることが大切である。そうした努力と結びつけて、小選挙区でも議席獲得への道を本気で切り開く意欲的なとりくみを、条件と可能性におうじて、系統的にすすめるようにする。

 ――要求にもとづく活動を重視する……選挙闘争の基本方針は、「四つの原点」にもとづく活動の全体を推進することにあるが、その第一項目の「国民の切実な要求にもとづき、日常不断に国民のなかで活動し、その利益を守るとともに、党の影響力を拡大する」ことは、広く国民の心をとらえる土台となるものである。いっせい地方選挙でも、系統的な住民要求にもとづく活動があるところでは、反共攻撃もなかなか通用しないという状況があった。平和と暮らしをめぐる国政の大問題から、日常的な職場や地域、学園の要求にいたるまで、国民の要求実現のためのたたかいを起こし、要求で結びつきを広げ、その生きたつながりを選挙勝利に実らせることが大切である。

 予定候補者が要求実現の活動で果たす役割はきわめて重要である。比例代表選挙の予定候補者とともに、小選挙区の三百人の予定候補者が、小選挙区という国政を争う基本単位で、要求を基礎に結びつきを強め、有権者の信頼を獲得するために、知恵と力をつくすようにする。

 ――全有権者を対象とした草の根での活動……いっせい地方選挙では、対話と支持拡大、ポスター、ビラ、ハンドマイク、後援会活動、党勢拡大など、勝利に必要な草の根での活動をすすめるうえで、今後に生かすべき重要な教訓を残した。

 一つは、対話と支持拡大をはじめとする草の根での活動を、期限を設定して早い時期にやりきる活動の重要性である。「告示にならないと本気にならない」「最後の三日間にならないと底力がでない」などの従来のあしき習慣をふっきって、早い時期にこの仕事をやりきろうという提起は、全党の新たな意欲を引き出すものとなった。解散・総選挙の時期はなお流動的だが、十一月の選挙の可能性は濃厚である。この中央委員会総会から四十日間で、勝利に必要な草の根の活動をやりきり、さらに前進・躍進のための仕事に乗りだすという必勝の構えをすみやかに確立し、とりくみを推進する。

 いま一つは、「対面での対話」――人間と人間との生きたつながりにもとづく対話を組織活動全体の骨格にすえながら、あらゆる手段をつかって全有権者への働きかけをやりきるということである。後援会ニュースを活用したくりかえしの対話・支持拡大は、党活動のあり方を一新する大きな力を発揮した。後援会員の数は、近年最高の約二百五十万人に達しているが、これらの人々にひきつづき系統的に働きかけ、後援会員をさらに拡大し、すべての支部が単位後援会をつくり、ともに活動することは、きわめて重要である。同時に、いっせい地方選挙では、「対面での対話」を強調するあまり、電話をふくむあらゆる手段を使った全有権者に働きかける対話が遅れるという弱点もあった。総選挙に向かうとりくみでは、両者を統一的に推進する立場が、きわめて重要である。

 そのさい、六中総決定で提起した、“名簿”と“地図”を持った科学的で系統的な組織活動を、この選挙をつうじて、全党に定着させることにも努力をはらう。

 ――参議院選挙勝利をめざすとりくみ……党史上最高の十五議席の改選となる来年七月の参議院選挙は、十カ月後に迫っており、総選挙勝利をめざすとりくみと一体に、またそのなかで独自の系統的なとりくみを強める。

 非拘束名簿式の比例代表選挙は、全党と候補者が力をあわせて、過去最高の八百二十万の得票を上回り、現有八議席の確保・前進をめざす。そのために、政党選択のたたかいを中心におきつつ、衆院比例ブロック地域を基本に全国を地域割りして、候補者名での投票をお願いすることを基本にしてたたかう。

 選挙区のたたかいでは、とくに現職議員を擁する七選挙区で必ず勝利をかちとるために、積極的・攻勢的な再選計画をたて、候補者と党機関が一体になって、系統的なとりくみをすすめる。

第九章 地方政治の現状ととりくみの強化方向

 (31)綱領改定案は、「全国各地で革新・民主の自治体を確立することは、その地方・地域の住民の要求実現の柱になると同時に、国政における民主的革新的な流れを前進させるうえでも、重要な力となる」とのべ、地方政治において党が影響力を広げ、民主的改革をはかることの重要な意義を、位置づけている。

 地方政治では、日本共産党以外の「オール与党」がなお支配的であり、自治体が住民の暮らしと福祉という本来の仕事を放棄して、「自治体が自治体でなくなる」状況は、いっそう深刻になっている。政府がすすめている「三位一体の改革」、「市町村合併」の押しつけは、それに拍車をかけている。

 「三位一体の改革」なるものは、国から地方への財政支出削減、とくに福祉・教育など住民サービスの水準切り捨てがねらいである。これは地方・農村部では、「市町村合併」の押しつけとあいまって、自治体をまるごと切り捨てる動きとなってあらわれている。都市部には、財源を集中しようとしているが、これも住民生活のためには使われず、「都市再生」と呼ばれる新しい浪費型巨大開発に集中的に財源を投入するという動きが強まっている。都市部でも地方・農村部でも、「オール与党」政治と、住民との矛盾は、いよいよ深刻である。

 日本共産党は、こうした流れと対決し、住民要求をになって、「自治体らしい自治体」をとりもどしていくたたかいの先頭にたって、ひきつづき奮闘する。日本共産党が与党の地方自治体は、党員首長の自治体をふくめて、全国で約百自治体に広がっている。保守層をふくめた無党派の人々が、みずからの地域と自治体の将来を真剣に考えるなら、日本共産党との共同を選択するしかないという状況が全国各地で広がり、新しい希望ある流れの前進となって実を結びつつある。この流れを、ひきつづき広げ、攻撃から守り、前進させることは、わが党の重要な仕事である。

 (32)地方自治体をめぐる矛盾の深まりのなかで、旧来の「オール与党」体制に亀裂が広がり、支配の枠組みの崩れも生まれている。首長選挙でも、自民・公明を中心とした「オール与党」の基盤の上に乗っても、なお現職や後継の候補者が敗れるといった状況が全国各地で生まれていることは、注目すべきである。

 同時に、その内容は一様ではない。そこには従来の「逆立ち」政治をただして、「住民が主人公」の自治体をとりもどしていこうという前向きの変化の要素を持つ流れもある。「無党派」を名乗りながら、住民犠牲のいっそうの反動政治を自治体に押しつけようという流れもある。両者の要素が複雑に入りまじり、今後の動向を見定める必要があるものもある。自治体ごとに、事実にそくした具体的な分析をおこない、正確な対応をしていくことが求められる。

 こうした状況のもとで重要なことは、どんな場合でも、住民要求を実現する立場にたって、日本共産党としての地方政治改革の旗印を、鮮明に打ちたてることである。また党議員団の力量を質量ともに高める努力をはらうことである。前向きの変化の要素がある流れが起こった場合にも、わが党のこうした努力があってこそ、自治体全体の前向きの変化につながりうることは、全国の経験が証明している。

 (33)全国で約四千二百人の日本共産党地方議員(団)は、わが党の大きな財産であり、草の根から住民の暮らしを守るかけがえのない役割を果たしている。

 この力が、つねに住民の利益を守って献身し、政治的水準を高め、国政でどんな風波があってもその陣地を維持し、前進させることは、国政と地方政治の民主的改革にとって決定的意義を持つものである。

 一つひとつの中間地方選挙で、着実に勝利をかさねるとりくみを、特別に重視する。全自治体の三分の一近くある党議員空白自治体(約九百六十自治体)を克服するために、計画的・系統的なとりくみをすすめる。

第十章 どうやって党建設を安定的な前進の軌道にのせるか

 (34)前党大会以降、全党は、強大な日本共産党を建設するための努力をかさねてきた。私たちは、二〇〇一年十月から二〇〇二年四月にかけて「党員・読者拡大の大運動」にとりくみ、今年の五月以降は十一月の党大会に向けてふたたび「大運動」にとりくんでいる。党建設の事業は、党の活動のなかでももっとも粘り強く、目的意識的な努力が必要とされるものであり、これを日夜支え、前進のために情熱とエネルギーをそそいでいる全党の同志の奮闘にたいして、心からの敬意をもってたたえたい。

 前党大会以降、党員拡大では、全党の努力によって四万人をこえる新しい入党者を迎えた。しかし、「党員拡大五カ年計画」にてらせば、その規模と速度は十分なものではない。「しんぶん赤旗」の読者拡大は、一部の支部と党機関では前進を始めているが、全党的には、多くの同志の奮闘と努力があるものの、安定的な前進の軌道に乗せるにはいたっていない。若い世代の結集の問題では、平和のたたかい、雇用危機打開の運動などで、民主的結集の手がかりをつかみつつあるが、それを党建設に実らせることは、今後のとりくみにかかっている。

 党建設を前進させるための基本方針は、前党大会決定と、一連の中央委員会総会決定で、詳細に明らかにされている。その中心点はつぎの諸点である。

 ――“いまなぜ党建設か”について、(1)どのような政治情勢が展開しても政治戦をかちぬく力をもった党をつくることが重要であるとともに、(2)二十一世紀をたたかう党をつくるうえで、党の歴史のなかでも、いまが党建設に思い切って力を入れるべき歴史的時期であることをしっかりつかむ。

 ――党員拡大を「党建設の根幹」と位置づけ、二〇〇五年までに、過去最高の峰をこえる五十万の党を建設することを目標とする「党員拡大五カ年計画」をたて、計画的・系統的にこれを達成する。党員拡大の立ち遅れを、全党の総力を結集して打開することは、ひきつづく党活動の緊急・中心課題である。

 ――“「しんぶん赤旗」中心の党活動”、すなわち「機関紙は、党中央と全党をむすぶきずなであり、党と国民とのむすびつきを広げる最良の媒体であり、国民の要求にもとづく運動、国会や地方自治体でのたたかい、選挙活動や党建設、財政活動など、党のあらゆる多面的な活動を促進し、統一し、発展させていく中心である」という原点に立ちかえり、この分野の活動を継続的・安定的に発展させる。

 ――党の質的水準の向上では、(1)その地方・地域での日本共産党を代表しての政治活動、大衆活動を重視する、(2)「支部が主役」をつらぬく、(3)選挙戦の推進・指導に熟達する、(4)党活動を財政的に支える計画的活動、(5)幹部・活動家の系統的な育成、(6)党の政治的・理論的水準の向上という、六つの重点的な努力方向を追求する。

 ――若者の多面的な要求にこたえる活動を強め、大胆に党に迎え入れるとりくみを、わが党と日本の民主的改革の事業の死活的な未来がかかっている問題として位置づけ、党の総力をかたむけて前進をはかる。

 基本方針は明らかである。問題は、どのように困難や弱点を克服し、この方針を実践するか、いかにして党建設を安定的な前進の軌道に乗せるかである。ここにわが党の活動のなかで、全党の英知と力を結集して探求し、打開をはかるべき、最大の問題がある。

 (35)全党的には党建設の課題を成功的に前進させている状況ではないが、そのなかでも安定的な前進を開始している党組織がある。それらの党組織の経験には、共通した教訓が見られた。その最大のものは、自らの政治目標を自覚し、「支部を主役」に、“政治的活力に満ちた党づくり”に力をそそぎつつ、その努力と結びつけて党勢拡大をすすめていることである。その経験にも学びながら、つぎの四つの重点的努力方向を提起したい。

 第一は、国民の要求実現のために献身することである。わが党の存在意義は、何よりも、その時期、その時期の国民の切実な利益と安全のために献身することにある。党機関も党支部も、たえず日常的に国民の切実な要求をとらえ、その苦難の解決のためにともにたたかうことを、立党の精神、党活動の原点として重視してとりくむ。

 たたかいの課題は、全国的課題とともに、草の根での多面的な要求にもとづくたたかいが重要である。生活相談、労働相談などもふくめ、党が身近な要求のための日常的で地道なとりくみをすすめてこそ、大きなたたかいでも力を発揮することができる。党は、党員が現にとりくんでいる、どんな小さな要求のためのとりくみにも光をあて、それを励まし、そのとりくみが前進するように援助することが必要である。

 国民は、党の主張だけでなく、党の日常の活動とみずからの体験をつうじて、信頼と共感をよせてくれるようになる。そして党員も、国民から「なくてはならない党」と信頼されていることが実感できたときに、みずからの存在意義を見いだし、元気になる。国民の要求にたいする献身こそ、党の政治的活力の源泉ともなる。

 第二は、理想にたいする理論的・政治的確信を全党のものにすることである。改定される綱領を、文字どおり全党が深く身につけることを、この大会期の一大事業として位置づけてとりくむ。

 四十二年前に綱領路線を決めたのち、さまざまな風波にたえて、わが党が大きな前進をかちとってきた根本には、綱領路線のもとに全党が政治的・理論的に団結し、それを実践してきたことがあった。

 二十一世紀は、文字どおり激動の世紀である。日本は、自民党政治のもとで、政治、経済、社会など、あらゆる分野で深刻な危機がすすみ、激動をはらんだ歴史的転換点にさしかかっている。世界を見ると、一国覇権主義の無法な戦争のなかから、平和の国際秩序を求める力づよい胎動がさまざまな形で形成されてきている。世界が直面している危機は、人類社会が資本主義という制度を乗りこえて未来社会へとすすむ条件が、新しい世紀に地球的規模で成熟しつつあることを、示すものである。

 激動の世紀には、みずからの理想にたいする理論的・政治的確信がいよいよ大切になる。日本と世界の法則的発展方向をしっかり見きわめる力を身につけてこそ、二十一世紀に生起するあらゆる問題、どんな激動や危機にも、ゆるがぬ深い確信を持ち、それにもとづく活力を発揮して立ち向かうことができる。

 改定される綱領を全党のものとすることを、二十一世紀をたたかう党の理論的・政治的土台を打ちたてる大事業として位置づけ、精魂かたむけて理論と政治に強い党を築きあげよう。

 第三に、機関紙活動の現状打開にとって、いまが正念場である。“「しんぶん赤旗」中心の党活動”の前進・後退は、党と国民との結びつきの前進・後退の最大のバロメーターであり、この活動を安定的前進の軌道に乗せることができるかどうかは、党の盛衰にかかわる問題となっている。

 「しんぶん赤旗」は、まず何よりも、“真実を伝え、正義の世論をおこす旗”である。マスメディアの多くが、理想を持たず、権力になびき、真実をゆがめるなどの大きな問題点を持っているもとで、「しんぶん赤旗」は、日本国民が世界と日本の大きな流れ、そこにつらぬかれている真実をつかみ、日本社会に正義の世論を広げていくうえで、なくてはならない新聞である。

 「しんぶん赤旗」は、“あたたかい人間的連帯の旗”である。自民党政治のもとで、弱肉強食の競争至上主義と、人間をおとしめ粗末にする風潮が広がり、社会の道義的危機が深刻になるもとで、人間と人間とのあたたかい社会的連帯のネットワークをつくりだしているのが、「しんぶん赤旗」である。

 「しんぶん赤旗」は、“たたかいの旗”である。世界の平和秩序をつくるたたかいを発展させるためにも、日本で暮らしを守るルールをつくるたたかいを前進させるためにも、民主主義と人権を守る運動をすすめるうえでも、そのよりどころとなるのが「しんぶん赤旗」である。

 そして、「しんぶん赤旗」は、わが党の議会活動、選挙闘争、財政活動もふくめて、“あらゆる党活動を支える旗”である。日本共産党は、企業・団体の献金を受けとらず、政党助成金の受けとりも拒否し、国民にのみ依拠した自立した財政基盤をもつ党である。この特質こそ、わが党がどんなタブーも持たず、国民の立場にたって奮闘することを保障している。党の財政的基盤を支えるうえでも、「しんぶん赤旗」を前進させることは、正念場ともいうべき事態にある。

 全党の力を結集して、国民と党にとってのこのかけがえのない“旗”の前進、発展をかちとろう。

 第四に、党機関の水準を抜本的に向上させるための努力である。都道府県委員会と地区委員会は、体制の問題や、財政の問題など、さまざまな困難を抱えながらも、献身的に奮闘し、今日の党を築き、支えるうえで、かけがえのない役割を果たしている。

 いま中間機関、とりわけ地区委員会の体制を強化し、理論的・政治的水準を引き上げ、その指導力量を一段と高めることは、職場支部への系統的な指導もふくめ、「支部が主役」の活動を本格的に発展させるうえで、決定的意義をもつ。社会進歩の志をもつ若者が、党機関とそこに働く専従活動家の姿を見て、きびしい活動のなかにも魅力を感じ、喜んでこの仕事に参加してくるような、豊かな機関活動への前進をはかるために力をつくしたい。

 前党大会で改定された党規約をふまえて、党と社会の関係の変化に対応した、機関活動の新たな発展に力をそそぐ。党規約では、地方的問題についての「自治」権を保障しているが、党機関が、地方・地域で党を代表して、自治体問題などに積極的にとりくむことは、今日とくに重要である。また、「双方向、循環型」の指導――支部に入り、よく意見を聞き、前進を願う内発的な力を見いだし、そこに依拠して前進のための親身な援助をつくし、その経験に機関自身も学ぶといった指導に、熟達する必要がある。

 全党が、人的にも、財政的にも、精神的にも、党機関を支え、励ます気風をつくることも重要である。とくに党の現状にそくして、幹部を党機関に結集し、体制の強化をはかることを、全党の仕事としてとりくむ。若い将来性ある後継者を育てるとともに、試されずみで意欲のある年金生活に入った同志などを専従・非専従の幹部として党機関に結集するなど、あらゆる可能性をくみつくす。

 もとより党建設・党勢拡大を前進させるには、いついかなる時にもこれを握って離さない独自の追求が必要である。同時に、独自追求の努力も、党に新鮮な政治的活力をみなぎらせるとりくみと結びつけてこそ、実を結ぶことができる。

 “政治的活力に満ちた党づくり”に思い切って力を入れつつ、党建設の新しい前進に全党が挑戦しよう。


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp