日本共産党

2003年9月22日(月)「しんぶん赤旗」

チュニジアの七日間 (28)

中央委員会議長 不破哲三

古都カイラワンの探訪 (上)


カイラワンへの道を快走

写真
大モスクの礼拝堂のなかで。ムドラ・アマ教授(左端)の説明を受ける

 到着第六日・八月一日。きょうは、南の古都カイラワンへ探訪の日である。

 出発の予定は午前七時半。悠々それに間にあわせるつもりで、早起きしたが、前日のベンヤヒア外相との会談記事の仕上げに手間取る。打ち合わせた時間には遅れたことがないと、「シャープさ」をひそかに誇っていたわが一行だったが、この日ばかりは、「シャープさん」をだいぶ待たせる結果となった。しかも、八時近くなっても、森原さんが姿を見せない。東京への送稿の調子が悪く、まだ時間がかかりそうだ、という。やむなく、彼をホテルに残すことに決めて、出発。“涙の決断”である。

 「シャープさん」ことハマム氏は、きょうは、白い衣を全身にまとった独特の民族衣装(ジェバ)。これは、クーラーを備えているような、涼しい衣装なのだ、との説明で、年に何回か着る機会があるのだそうだ。日によって衣がえをしてくるところが、なかなか粋である。

 いつもは多少のことに動じない様子だが、きょうは、出発が三十分おくれたことに、真剣な懸念の表情だ。カイラワンの知事が十時に出迎える予定で、日程をくりあわせて県庁舎で待っている、という。どうも、この出迎えは、昨日、ベンヤヒアさんの直々の指示で、急きょ、手配したものらしい。

 ハマム氏の不安顔も間もなく解消した。カイラワンまでは南へ百六十キロで、普通は二時間半以上はかかるというが、きょうは渋滞もなく、快調に進む。くわえてみごとな運転のおかげで、一時間五十分あまりでカイラワンの県庁舎に着いた。九時五十分、ゆとりのある「エレガントな」到着だった。

 カイラワン県庁舎では、ハビブ・アウアル県知事の出迎えを受ける。国会議員を二期つとめ、知事に転身したという経歴である。

古都であると同時にイスラムの「聖都」

 実は、前の日にハマム氏から、次のような“気象情報”があった。「カイラワンは南の都市。海から離れていて、サハラ砂漠に近いから、チュニスより五度くらい暑いかもしれない」。四五度プラス五度といえば、なんと五〇度。驚かされたものだが、実際、到着してみると、太陽は雲の陰にかくれ、風もあって、心地よいぐらいの気候である。

 ハマム氏は、予想外のこの気候について、「知事が昨日、熱心にお祈りしたそうですよ」という。知事とあいさつを交わしながら、そのお礼を言ったら、「神に感謝を」という言葉が返ってきた。

 会議室で、カイラワンの歴史や概況についての知事の説明を聞きながら、自分なりに、ベンヤヒア外相が、この都市への探訪をくりかえし推薦した理由を考えてみた。

 ここは、七世紀後半、イスラム・アラブ勢力の西方大進出のときに、その拠点として建設され、九世紀はじめ、チュニジア(当時の呼称は「イフリキア」)の最初の独立王朝として出発したアグラブ王朝が、首都と定めた都市である。

 十三世紀に、首都はチュニスに移ったが、チュニジアの中心都市であるだけでなく、より広く、アフリカから南ヨーロッパまでを含む西方イスラム世界の中心というカイラワンの特別の地位は、長く失われなかった。それは、ここカイラワンに、西方世界の最古の大モスクがあり、イスラム世界の精神的な「首都」であり続けたからだ。

 実際、どの案内書を見ても、カイラワンの大モスクは、メッカ、メディナ、エルサレムにつづくイスラム世界第四の聖地で、「カイラワンへの七回の巡礼は、メッカへの一度の巡礼に値する」という話が、必ず紹介されている。このあたりに、チュニジアの歴史と文化におけるカイラワンの独特の地位があるのだろう。

「京都と姉妹都市の協定を願っている」

 知事との懇談のあと、その大モスクにまず向かった。案内をしてくれるのは、カイラワン大学のムラド・アマ教授である。モスクを歩きながら、「カイラワンは、日本の京都と同じく、『世界遺産』に登録された古都です。だから、ぜひ京都と姉妹都市になりたいと願っているんですよ」と、希望を語る。

 このモスクは、六七二年に建てられ、九世紀、アグラブ王朝の時の改修で、ほぼ現在の形になったのだという。礼拝堂の内部に入ると、二百本をこえる石柱がモスクをささえて林立している。柱頭というのだろうか、石柱の上部の飾りにさまざまな形式が見えるが、これは、カルタゴ時代、ローマ帝国時代、ビザンチン帝国時代など、いろいろな時代の遺跡から石材を集めて、このモスクをつくったからだとのこと。過去の歴史のすべてを材料としてどん欲に吸収しながら新しい歴史をきずいてゆく――チュニジア文化のそうした特徴が、このあたりにも見てとれるようだ。

 礼拝に来ている信徒の姿も見えるなか、中央の礼拝施設などを案内してもらう。

 (つづく)


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