2003年10月9日(木)「しんぶん赤旗」
小泉首相は所信表明で、保育園の“待機児童ゼロ作戦”を「着実に実施」すると胸を張りました。実態は、担当の厚生労働省から「“ゼロ作戦”で待機児童をなくすのは無理」とギブアップの声があがるほどの“空作戦”。“ゼロ”と報告した地域でも、実は“ゼロじゃない”と問題になる地域まであります。
名古屋市瑞穂区。市の統計では、ことし五月一日時点の待機児童数は「ゼロ」でした。
しかし、同区内のある保育園長はこう話します。
「園には毎日のように入園を希望する問い合わせや見学者がきています。でも、うちはすでに定員超過の状態。預ける場所がなく切羽詰まっているお母さんたちにほんとうに申し訳ない気持ちで、毎回お断りしています。待機児童が『ゼロ』なんていうことはありえない」
保育園には入園希望の問い合わせが相次いでいるのに、なぜ“ゼロ”なのでしょうか。それは、待機児童としてカウントされるには、行政の窓口にまで来て、申し込みをしていることが前提になるためです。保育園に直接問い合わせても、入れないとわかって申し込みをあきらめれば待機児童として数えられないのです。
窓口対応のなかには、待機児童を増やさないために、「どこも満員でお応えできない」「申し込んでもいつ入れるかわからない」といって、申込書さえ渡さないところもあるといいます。
厚労省が発表した、ことし四月現在の待機児童は全国で二万六千人。これには窓口への申し込みをしていても、希望の保育園が満員で入れず、一時的に無認可保育室などを利用している子どもは含まれていません。自宅で空きを待つ場合も、第一希望しか申し込んでいなければやはり除かれます。“ゼロ作戦”開始後に、厚労省が待機児童の定義を改悪したためです。これにより従来の定義の約四割にあたる一万六千人が待機児童から除外されました。
前出の園長は、国も市も統計上の待機児童を減らそうとするばかりで、公的保育の充実には背を向けていると批判します。
「第一希望にこだわるのを個人の都合というのでは、保育園は何のためにあるのでしょう。親の就労状況はさまざまなのに延長保育をやっている園は区内に少なく、乳児は土曜保育を断るところもあるのです。たとえ空きがあったとしても、保育時間が労働時間や通勤時間と合わなかったり、家から遠くて不便では、働く父母にとって意味がありません」
小泉首相は所信表明で、昨年度の受け入れ児童が五万人増加したと“ゼロ作戦”の成果を強調しました。
ところが、肝心の待機児童は、減るどころか昨年より千人増えているのです。
待機児童数を公表した場で厚労省担当者は「増え方が減ってきた」と苦しい弁解をしつつ、「“ゼロ作戦”で待機児童はなくならない」とのべています。小泉首相も国会答弁で「見込みがだんだん増えている」と計画倒れを認めています。
最初から入園をあきらめている「潜在的な待機児童」は、「首都圏だけで約二十四万人」と内閣府国民生活局は試算しています。入園希望は公表される待機児童よりはるかに多いのです。
受け入れ児童を五万人増やしたという内容も問題です。“ゼロ作戦”のキャッチフレーズは“最小のコスト”。いまある保育園に定員をはるかに超える子どもを詰めこむやり方で、保育環境の悪化が問題になっているのです。
小泉内閣はさらに「待機児童の解消」を口実に、企業参入をすすめるための基準緩和や保育所運営費の削減を狙っています。
日本共産党は、子どもは最善の環境で保育されなければならないとして、待機児童問題を緊急に解決するために(1)約三万人の待機児童をただちに解消するために公共事業等予備費を削って保育所の新増設に振り向ける(2)入園希望調査を国の責任で実施し、潜在的待機児童をふまえた保育所整備計画を作成する−などを提案しています。