日本共産党

2003年10月9日(木)「しんぶん赤旗」

イラク派兵は世界の少数派

米英軍こそ混乱の原因

アラブを敵に回す自衛隊派遣


 小泉首相は「イラク復興に国力にふさわしい支援をすべきだ」などといい、「米国支援は世界の大勢」であり、米国支援諸国の「有志連合」に日本も参加するのが当然だといっています。しかし、現実はどうか。イラク派兵は世界の大勢ではなく、世界の少数。しかも、現場の派遣軍の役割は「復興支援」ではなく、米英軍による占領体制の補完でしかありません。(ベルリン片岡正明、カイロ小泉大介、メキシコ菅原啓、外信部・伴安弘)


要求拒否できず

 イラクに派兵している国はイラク戦争に参戦した米英、オーストラリア、ポーランド以外では三十二カ国にすぎません(別表)。米国が要請した約七十カ国の半分以下です。百九十一カ国を数える国連加盟国で少数です。しかも、派遣軍の役割は圧倒的な兵員を擁する米占領軍の補助です。

 千人以上の兵員を派遣している国は、米国と、一万三千人の英国を除いて六カ国。七日やっと議会の承認を得たトルコを入れても七カ国にすぎません。残りの多くは、米国の要求を拒否しきれず派兵したものの、その実態は象徴的派兵。

 ウォーナー米上院議員(共和党)は上院軍事委員会(九月九日)で、「(有志)連合の見通しとはちょっと違うようだ」とブッシュ政権を追及しました。

 トルコは最大一万人規模の兵員を派遣するとみられます。しかし、イラク統治評議会の中には「近隣諸国からの派兵は拒否する」という声がでています。とくにクルド人弾圧をおこなってきたトルコの軍隊に対しては拒絶反応が顕著です。

国連の要請必要

 米国が派兵を期待するインドとパキスタンの政府は国内の強いイラク戦争反対世論に直面し、「イラク復興」というなら「国連の要請が必要」との立場を明確にしています。

 米英の不法なイラク占領は、イラクで大量破壊兵器を発見できないことが米調査団の報告でも明らかにされ、戦争の正当性の根拠がほぼ完全に覆されたことからも正当性を失っています。

 米国が設置したイラク統治評議会自身が米英軍の早期引き揚げ、外国軍の派遣反対をいいだしています。

 現状での外国軍の派兵は明らかに占領体制の維持のためのものです。米英占領軍の存在と活動そのものがイラク国内での反米感情の増大、国内不安の原因となっている中での派兵は混乱と不安の拡大をもたらすだけです。


■アラブ諸国

「占領参加は受け入れられない」

 イラク戦争に一貫して反対してきたアラブ諸国は、米国の要求する派兵問題でも「イラク派兵は受け入れられない。占領軍を守るためにアラブが軍を送ったり、アラブ国の占領に加わることは筋が通らない」(九月九日、アラブ連盟外相会議でのムーサ同連盟事務局長会見)との立場をとっています。

 サウジアラビアのサウド外相は九月三十日、米国で開催された経済会議の場で「アラブ連盟憲章は、加盟国政府の要請なしに軍隊を派遣することを許していない」とのべ、アラブ諸国が軍を派遣することはないとの立場を明らかにしました。

 アラブ外相会議で「イラク派兵はない」と断言したエジプトのマーヘル外相は九月二十九日の米国テレビとのインタビューで、派兵を求める新たな国連安保理決議が採択されたとしても、同国軍の派兵はないとのべました。

 ヨルダンのムアシェル外相も二十九日、イラク警察の訓練には貢献するとしながらも、イラク派兵をおこなう意思はないと表明しました。

 アラブ諸国のなかで唯一、イラク派兵の可能性を示唆しているシリアのアサド大統領は九月三十日付のイタリア紙上で、軍派遣はイラクの要請で初めて可能だとし、米軍の指揮権に入る軍の派遣はないとの立場を表明しました。


■東欧の派遣国

高まる国民の反対世論

 東欧でイラクに派兵しているのはポーランド、ルーマニアなど七カ国です。

 ルーマニアは警察治安大隊と工兵隊を派遣しています。警察治安大隊の任務は秩序回復で、具体的には(1)チェックポイントを設け、武器弾薬をイラク人から没収(2)石油パイプラインの警備(3)イラク警察の訓練−などで、完全に米占領軍の補完役です。世論調査で与党社民党の支持は三月に54%だったのが四月に44%と急落。以後あまり回復していません。理由はイラク戦争を政府が支持したためと分析されています。

 スロバキアは、平和維持軍という位置づけで八十人の地雷除去部隊を派遣、イラク派兵と引き換えに東ティモールからの撤退を決めました。

 チェコは野戦病院を担当し、野戦病院の軍医、軍看護師と病院警備の軍警察部隊が派遣の中心。野党はチェコ・モラビア共産党を中心に派兵に反対。共産党は軍事支援よりも国内問題に取り組めと主張しています。

 九月の世論調査によると、政府の施策に満足しているかとの問いに、「満足」は14%、「不満」が52%となっています。

 ハンガリーは約三百人を派兵。米国はさらに、ハンガリーにたいして同国内の米軍基地タッサールで米軍による訓練のために二万八千人のイラク人警官の受け入れを迫りました。ハンガリー政府はこれを拒否しました。保守の前政権党のオルバン前首相は「米国のイラク戦争を支援するな」と反対しています。

 九月にイラク現地を訪れたハンガリー中央銀行のアコシュボド元総裁は「平和的な建設作業ができる状況ではない」とイラク復興参加に否定的な見解を示しています。


■中南米諸国

米国の圧力に屈して派遣

 中米のエルサルバドル、ホンジュラスの部隊がイラク南部のナジャフに派遣されていますが、いずれも数百人規模です。

 米国のスペイン語紙オピニオン九月二十四日付によると、同月二十三日からこれらの部隊は米軍にかわって治安維持の任務を引き継ぎました。これまでは米軍と共同行動でしたが、今後は単独での作戦展開となり、エルサルバドルでは、米軍抜きの単独行動に切り替わったことが大問題になっています。

 もともと同国の国民は七割がイラクへの派兵に反対でした。国会が与党勢力の賛成多数で派兵を決定した際、政府は派遣部隊の任務は「米軍を支援することだ」と繰り返し説明していたのです。

 地元紙コラティーノの編集者は、「米軍なしに単独で任務を遂行するなんて説明は一切なかった。派遣後に現場で任務を変更するのは重大問題だ」と批判します。

 米国からの要請を受けて、イラクに派兵されている中南米の国は、ホンジュラス、エルサルバドルなど四カ国。いずれも人口一千万人以下の国ばかりです。米国からの圧力に屈して、あるいは米国の歓心を買うために、各国政府は派遣を決定したのです。

 米軍からの任務の引き継ぎは、中米各国の兵士が米軍に変わって矢面に立たされることを意味します。派遣各国では、兵士の家族らが不安を募らせています。


ドイツ

国連中心の主権回復要求

 ドイツ政府はイラクへの派兵を一貫して拒否しています。ドイツはイラク戦争に対し「正当な理由があって反対した。今、派兵することはない」(フィッシャー外相)と米国のたびたびの要請をはねつけています。

 ドイツがイラク戦争に反対し、派兵に反対なのは、過去二度の大戦で「主役」になり、大きな惨禍を与え、国民が犠牲になった過去があるからです。

 「二度と血をみない」(シュレーダー首相)という決意が国民の中に生きています。

 ドイツはまた米英中心のやり方を批判し、一貫して「国連の指導的役割」の重要性を説いています。ドイツの主張は米英の「占領政策」から「国連中心」と「一刻も早いイラク主権回復」への「戦略の転換」(フィッシャー外相)です。シュレーダー首相はブッシュ米大統領との会談に際し、「今必要なのは(イラク戦争が正しかったか間違いだったかという)過去の対決の継続ではなく将来を見つめることだ」と歩みよりを強調しましたが、「米国が間違ったことをやれば正していく」(フィッシャー外相)という姿勢に変わりはありません。


 イラク派兵国と派兵数

           (人)
 1 米国      130000
 2 英国      11000
 3 トルコ   1万人規模
     (7日、議会が承認)
 4 イタリア     3000
 5 ポーランド    2350
 6 ウクライナ    1650
 7 スペイン     1300
 8 オランダ     1100
 9 オーストラリア  1000
 10 チェコ      706
 11 ルーマニア    700
 12 韓国       675
 13 ブルガリア    500
 14 タイ       443
 15 デンマーク    420
 16 ホンジュラス   364
 17 エルサルバドル  361
 18 ドミニカ共和国  302
 19 ハンガリー    300
 20 ノルウェー    179
 21 モンゴル     160
 22 アゼルバイジャン 150
 23 ポルトガル    120
 24 ニカラグア    113
 25 リトアニア    100
 26 フィリピン     80
 27 スロバキア     80
 28 アルバニア     70
 29 グルジア      70
 30 ニュージーランド  61
 31 クロアチア     60
 32 リトアニア     50
 33 モルドバ      50
 34 エストニア     43
 35 マケドニア     37
 36 カザフスタン    25
  (ロイター通信などから)


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp