2003年10月11日(土)「しんぶん赤旗」
日本外交がアジアでますます孤立していく─。そんな日本の姿が、小泉首相自身が出席した東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議(インドネシアのバリ島)で浮き彫りになりました。
ASEANは、これまで地域の平和な国際関係づくりに努力してきました。今回の首脳会議では、ASEANの基本精神を体現した「東南アジア友好協力条約」(TAC)に中国とインドが加入し、いわばASEANを中心にした“平和の輪”がアジアの二大国に広がりました。これらアジア諸国の人口は、二十数億人にも達します。
日本政府は、議長国インドネシアのメガワティ大統領をはじめASEANの首脳から、中国とインドが同条約に加入することになったので、ASEANの古いパートナーである日本にもぜひ加入してほしい、とつよく要請されました。ところが日本側は、今後検討すると答えただけで、要請に応じませんでした。小泉首相は、七日のASEANとの首脳会議で、「三十余年に及ぶ日本・ASEAN間の絆が発展、成熟し、さらなる大きな目標に向かって推進されるべき段階」だなどとのべていました。しかし、アジア諸国が差し伸べた友好と平和の手さえ握ることもできずに、ASEAN諸国に「共に歩み共に進む」、「率直なパートナーシップ」といっているのです。
小泉首相は八日の記者会見で、同条約に署名しない理由を問われて、「今後ともTAC(友好協力条約)のあるなしにかかわらず、……日本とASEAN諸国との協力関係は……進めることができる」と説明しました。
ところが、インドネシア外務省のマルティ・ナタレガワASEAN担当事務局長代行は、日本政府側から、同条約への調印が「米国との特別な関係にどのような影響を与えるかについて日本内部にいくつかの問題があると告げられた」とのべています(ジャカルタ・ポスト九日付)。
日本外交の手を縛っているのが日米安保条約であることは、アジア諸国の目にはっきりと映っているのです。
日本での報道も、「実務レベル協議で日本側は『別の条約との兼ね合いがあって難しい』と指摘し、東南アジアの安全保障にも言及している同条約が日米安保条約と両立しないことへの理解を求めた」とのASEAN外交筋の話を伝えています(「毎日」八日付)。
「本当にASEANを友人と思っているのか」「日本は米国のことしか考えていないとの印象を与えてしまった」など、各紙が報じるASEAN諸国の声が会議の雰囲気を物語っています。
東南アジア友好協力条約は、第一条で、「締約国国民間の恒久の平和、永続的な友好及び協力を促進」するという目的をうたっています。そして加盟国同士の関係の基本原則として、「すべての国の独立、主権、平等、領土保全及び国家の一体性の相互尊重」「すべての国が外部からの干渉、破壊活動または強制を受けずに国家としての存在を続ける権利」「他の国の国内問題に対する不干渉」「平和的手段による紛争の解決」「武力による威嚇又は武力の行使の放棄」などをあげています。
同条約の第四章は「紛争の平和的解決」にあてられ、「締約国は、武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならず、常にこの紛争を相互の間で友好的交渉によって解決しなければならない」と定めています。
東南アジア諸国がめざす地域秩序に息づいている精神は、まさに国連憲章にもとづく平和的な国際秩序をめざす今日の世界の流れを大きく励ますものです。
ASEAN諸国がこの条約を結んだのは、東南アジア諸国を戦火に巻き込んだアメリカのベトナム侵略戦争が失敗し、ベトナムが解放されたその翌年の一九七六年一月です。八七年には、域外国が条約に加入できるよう修正をおこない、地域の大国に加入を働きかけてきました。
今回ASEANは、中国の同条約加入を「地域の長期的な平和と安定にさらに貢献するファクター」とし、インドについても「地域の平和と安定に貢献するインドの強い決意を確認する」ものと歓迎しています。さらにロシアなども加入の意思をしめしているとされます。
そのようななかで日本は、ASEANの期待にもかかわらず同条約に調印しませんでした。タイ外務省高官は「双方の関係は分岐点に立っている」と語ったと伝えられます。
小泉首相のバリ訪問は、アジアと日本の関係を発展させていくうえで日米安保条約が大きな障害となっているという事実をあらためて示しています。(党国際局 伊藤寿庸)