2003年10月16日(木)「しんぶん赤旗」
イラク復興支援国会議が二十三、二十四の両日、マドリードで開かれるのを前に米国は日本、欧州連合(EU)諸国などに資金提供を迫っています。十七日に来日するブッシュ米大統領は小泉首相に改めて強く要請する構え。日本政府はこれに応えて、四年間で五十億ドル(約五千五百億円)、来年分として約千六百五十億円も拠出する方針です。問題なのはこの資金がイラクの真の復興どころか米国の占領支配を支えるものに使われる危険が大きいこと。EUは米占領軍を通さない資金拠出をきめています。(ワシントン浜谷浩司、遠藤誠二、パリ浅田信幸、ベルリン片岡正明、外信部・島田峰隆)
国連と世界銀行はイラク復興資金の必要額を三百六十億ドルと見積もる報告書を出しています。一方、イラク占領軍の暫定行政当局(CPA)はこれとは別の費用として百九十億ドルを計上。合計は五百五十億ドル。
国連と世界銀行が見積もる経費はイラク国民のためとはいえ、米占領軍が取り仕切ることになれば占領維持につかわれることになります。一方、CPAが見積もる経費は「治安と警察」五十億ドル、「石油」に六十億ドルなど占領維持をはかり、米国の利益を擁護するための費用です。
米紙ロサンゼルス・タイムズ十三日付は社説で、復興資金がどれだけイラクのためになるのか、誰がどのように使うのかが問題だと指摘。米政府が議会にさえ十分な情報提供をしないどころか、復興事業をチェイニー副大統領関連のハリバートン社のような企業に丸投げして契約しているのは納税者の利益に反すると警告しました。
著名な経済学者のサックス・コロンビア大教授は、ブッシュ政権の要請に応じて財政支援を行ってもイラクを苦しめている米軍占領を長引かせるだけだと指摘。米軍の撤退と主権移譲の日程が明確になるまで拒否すべきだと強調しています(英紙フィナンシャル・タイムズ九月十日付)。
日本が拠出するとしている五十億ドルは、欧州連合(EU)が表明している拠出額に比べても突出しています。
ライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は十四日、「日本は(米国を)支える同盟であり、イラクにとっても友好国。できることは行うと確信している」と言明しました。
ブッシュ政権は、イラク占領のために〇四会計年度の補正予算として八百七十億ドルを議会に要請。このうち、二百三億ドルがマドリード会議での復興資金とされます。五百五十億ドルの半分にも達しません。しかも、下院歳出委員会は九日、そこから十七億ドルを削りました。上院外交委員会のルーガー委員長(共和党)は、「覚悟すべきことは、この二百億ドルが最後ではないということだ」と、さらなる削減を示唆しています。米国内でも占領維持のための資金拠出への不満が強いことを示しています。
こうしたなかでの日本への圧力です。九月末に開かれた下院歳出委員会で証言にたったアーミテージ国務副長官は、「資金をより多く得るために(各国と)協議している。日本とは、数字をあげるため集中的に協議を行った。彼らはマドリードで気前のいい約束をするだろう」と国名として唯一、日本の名をあげました。
欧州連合(EU)は十三日の外相理事会で、イラクの復興援助として〇四年末までに二億ユーロ(約二百五十五億円)をEU予算から支出することを決めました。EUとしてすでに人道援助のために支出している七億三千ユーロに追加されることになります。
EUはこれに先立ち二日に開いた準備会合で、占領軍の「CPAからは独立したチャンネル」で復興資金を提供することを決定しています。このため、国連安保理決議一四八三に盛り込まれたイラク開発基金とは別に世界銀行と国連が準備する「イラク多国籍支援信託基金」を通じてEUの「大半の資金」をイラクに提供する方針です。
十三日の理事会は、復興努力の成功にとっての「本質的な」問題として、(1)イラクの適切な治安環境(2)国連の強力かつ中心的役割(3)イラク国民に政治責任を移管する現実的日程表(4)国際社会の支援を集中する透明性を持った多国的な基金の設立−の四点を改めて強調しました。
EUは加盟各国も独自に援助するとしていますが、同日の理事会では慎重論が大勢を占め、具体的数字を明らかにしたのは「少なくとも三億七千五百万ユーロ」(ストロー外相)を提供すると表明した英国だけでした。
米国から「高額な援助要求」を受けているドイツは、要求額の根拠が不明確だとして「復興支援額を責任をもって決めるのはむずかしい」(政府高官)と表明しています。ドイツは、国連中心とイラクへの政権移譲の具体的な政治行程を一貫して主張。その一方で、シュレーダー首相は、マドリード会議に関係なくイラク復興に向け、水道・電話網など七千五百万ユーロの支出を約束。本来のイラク復興には応じる姿勢を示しています。
米軍のイラク占領が続いている下で米国がイラク復興資金を要求していることに対し、多くの国が占領の早期終結と国連中心の復興を求めています。ブッシュ大統領が九月二十三日国連で演説し、イラク派兵と資金援助を呼びかけましたが、「百九十一カ国のうち一国として支援を申し出た国はない」(仏紙フィガロ九月二十六日付)状況でした。
五月二十二日に採択された国連安保理決議一四八三は、米英軍が「権限者」として居座り、占領軍主導の統治態勢を続けることを受け入れました。同決議で創設が盛り込まれた「イラク開発基金」は米軍が任命したイラク統治評議会と協議の上、占領軍の指示で運営されることになっています。
イラクの復興資金の面でも占領軍に支配権を与えている点が特徴です。このため、EUをはじめ世界各国は、資金面でも「国連中心」の復興を求めています。
米軍による占領はイラク国民からの反発を買い、泥沼化が進んでいます。米国が十四日国連安保理に提出したイラクにかんする修正決議案はイラク開発基金の「透明性」を図る措置を盛り込み、支援を受け入れさせようとしていますが、米国によるイラク占領の継続という本質的な問題でこれまでと変わりません。