2003年10月19日(日)「しんぶん赤旗」
国連安保理は十六日、多国籍軍設立とイラク復興支援に関する米国の決議案を採択しました。米国はこの決議をてこにイラク占領の危機を切り抜けようとしています。しかし、イラクでは、国民の六割以上を占めるイスラム教シーア派などによる米占領軍への抵抗が激化、占領の継続をもくろむ米政府の思惑とは正反対の事態が日々進んでいます。(カイロで小泉大介)
イラクの首都バグダッド南方約八十キロのカルバラ。シーア派教徒のこの聖地で十六日夜から十七日午前にかけ、米軍とシーア派武装勢力との間で戦闘が発生し、米兵三人が死亡、八人が負傷しました。目撃者によれば、戦闘は主要モスク近くの聖職者の自宅近辺で発生し、銃撃による戦闘は約十二時間にわたって続き、武装勢力側にも八人の死者が出ました。
五月一日にブッシュ米大統領が大規模戦闘の終結を宣言して以降、イラクで死亡した米兵は百九十八人(うち戦闘による死者は百一人)。その約四分の一がこの一カ月間に集中、イラクでは戦争状態が続いていることが示されています。
戦闘の激化は、占領軍にたいするイラク国民の激しい反発が背景となっています。
「われわれが恐れているのは、占領軍の誤った政策のせいでイラクがテロリストの活動のセンターになってしまうのではないかということだ」
イラクの独立系日刊紙アルザマン十六日付は、イラクのシーア派政治組織、イスラム革命最高評議会(SCIRI)の最高指導者、アブドル・アジズ・ハキム師の発言を掲載しました。ハキム師は米占領軍が任命したイラク統治評議会の有力メンバーです。
同師は「われわれは治安問題に関しイラク国民と不安を共にする」「占領軍の政策はイラク国民とその再建にむけた力をとてつもない危険にさらすもので受け入れられない」とものべました。
イラクにおけるイスラム教シーア派勢力は、旧フセイン政権のもとで激しく弾圧されてきただけに、占領開始当初は米軍に好意的とされました。しかし占領が長引き泥沼化のなか、状況は根本的に変化しています。
イラク暫定指導部内での「米国離れ」はシーア派に限りません。イラク統治評議会が任命した暫定内閣のゼバリ外相は十五日、訪問先のマレーシアで「一般的にいって、さらなる外国軍の投入によって治安状況が改善されるとは思わない」と明言。また統治評議会メンバーでもあるクルド民主党のマスード・バルザニ議長も、汎アラブ紙アッシャルク・アルアウサト十六日付で「トルコ軍の派兵に反対しているのはクルド人だけではない。これはイラクとその国民の権利の問題だ」とし、トルコが派兵した場合には統治評議会員を辞任すると表明しました。
米国の支配を受け入れる現在の統治評議会にかわる政権を目指す動きも現れています。
シーア派の急進的指導者モクタダ・サドル師は十四日、シーア派のナジャフで、新たな政府の樹立に向け活動を開始すると述べました。
同師は統治評議会が占領軍の指揮下にあり、イラク国民の同意を得ていない、政府樹立問題では米国の意向ではなくイラク国民の意思だけが重要だと指摘。「われわれはイラク国民の合意を得次第、新たな政府の樹立を宣言する」「われわれはトルコであろうがどの国であろうが、すべての外国軍のイラクへの展開を拒絶する」と強調しました。
カタールの衛星テレビ・アルジャジーラは十七日、この新政権樹立方針を支持する大規模なデモが同日、イラク各地で行われたことを報道しました。バグダッド市内のアルサドル地区(旧サダムシティー)では、数千人が新たな政府樹立支持と反米のスローガンを叫んだと伝え、「イラクの政治や聖職者のなかで、サドル師の役割が無視できないほど高まっていることを示している」とコメントしています。