2003年10月20日(月)「しんぶん赤旗」
大義なきイラク侵略戦争の実態はすでに国際政治の舞台で明らかにされています。ところで、その大義への大きな疑問が、今、イラク占領をつづける米軍兵士やこれから動員される米本国の兵士たちの間でも急速に広がっています。
米国防総省がスポンサーになっている米軍の新聞、星条旗紙が最近とくに注目される記事を掲載しました。イラクにいる米軍兵士にたいしておこなった調査の結果です。それによると、兵士の三割以上が「戦争の意味がわからない」といい、34%が自分たちの「志気が低い」といい、49%が自分たちの「部隊の志気は低い」と思っているといいます。
この結果をとりあげた米紙ワシントン・ポスト十六日付は、これは「現地の困難な状況と複雑な任務、長期化する滞在」の結果で、このままでは「相当規模での兵士の戦線離脱が起きる危険性がある」と指摘しました。マイヤーズ統合参謀本部議長も憂慮の念を表明せざるをえなくなっています(ロサンゼルス・タイムズ紙十七日付)。
他方、USAトゥデー紙(十三日付)は、イラクの米軍兵士の間で自殺者が増えていることを報じました。同紙は戦争開始以来十月初めまでに公表された自殺兵士の数は十四人と紹介しながら実際はその倍に近くなる可能性があり、そのほとんどが五月一日のブッシュ大統領による主要戦闘終了宣言後だとし、さらに、神経上の問題ですでに四百七十八人の兵士が本国に送還されていると指摘しています。
そして、米国のメディアが報じるもう一つの問題は、イラクの現場で足りなくなった兵力を補うために、いま米軍は数千人の予備役兵士を動員しようとしていることです。動員の対象者は、一線を退きいまでは平和な家庭生活を過ごしている銀行員や会社員、学校の先生など。これらの兵士とその家族の間で、「なぜいま戦争にいかなければならないのか」との声が広がっていることを、ニューヨーク・タイムズ(九月十五日付)がリアルに伝えています。そしてUSAトゥデー(九月三十日付)は、このままでは「兵士らの間から脱走が起きるかもしれないというのが私の一番の懸念だ」とのヘルムリー陸軍予備役軍司令官のことばを伝えています。
これらのニュースが共通して物語るのは、一体何のための戦争か、何のために自分は生命を危険にさらすのかという疑問の広がりです。それは、かつてベトナム侵略戦争にかりだされた米国の若者たちの心のなかで、戦争のエスカレートに伴って広がり、敗北の道をすすむ米軍を内部からゆさぶっていった疑問でした。
最近、米国内では、イラクの戦場の兵士からの「ニセ手紙」が話題になっています。“イラクの現地では市民がみな米軍を歓迎し、復興支援はまったくうまくいっている”と書いた同文の手紙が、それぞれ別の兵士の名前で故郷の新聞社あてに送られ、それが十一の地方紙に掲載されていることがわかったのです。
イラク北部にいる大隊指揮官の中佐が部下の兵士の名を使って、やったことだとわかりました。すでに五百通の同文の手紙を出していたといいます。理由は「本国の人々と誇りをわかちあうためです」と中佐はいいます。
ニューヨーク・タイムズ十六日付は、この問題で「戦線からのニセ手紙」と題する社説を掲載。「イラクの真実についての情報がますます求められている中でニセ(情報)とは、考えうるなかで最悪の方法だ」と厳しく批判しました。
ブッシュ政権がイラク侵略戦争の口実にした大量破壊兵器、テロ問題での情報のほとんどがニセあるいは誇張であったことが明らかになりつつあります。戦場からのニセ手紙は次元の違う話かもしれませんが、その裏には、ニセの情報で国民をだまし、他国に戦争をしかけ、破壊と侵略をつづけるという共通の本質が顔をのぞかせています。
大義なきベトナム侵略戦争で米国は敗北しました。これらの事実は、ブッシュ政権がいま、同じように大義なき戦争の敗北の道に向かって歩んでいることを示唆してあまりあります。
(三浦一夫外信部長)