2003年10月23日(木)「しんぶん赤旗」
二十一日までバンコクで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は、貿易自由化とテロ対策、北朝鮮問題が焦点となりました。経済が中心だった最近のAPECに比べて、安保、政治色が前面に出され、各国からこうした方向に懸念が表明されたのが特徴でした。対テロ戦略の演出の場にしたかったブッシュ米大統領の思惑通りにはいかなかったのが注目されます。(バンコクで小玉純一)
北朝鮮の核問題では、議長国タイのタクシン首相の口頭議長総括で「平和的解決の追求」「六カ国協議の継続支持」をAPECとしての態度表明としました。昨年の首脳会議が朝鮮半島の非核を求める特別宣言を採択したのに対し、今回は日本政府が拉致問題もとりあげて強く要求した特別宣言が退けられ、また首脳宣言にも盛り込まず、口頭での議長総括で触れた形となりました。
そこには、この間に北朝鮮の核問題で六者協議が行われたという昨年とは違う情勢があり、この問題を突出させる必要はないとの中国・ロシアの意向がありました。
そのかわりにタクシン・タイ首相の議長総括で、六カ国協議の必要性を強調。「北朝鮮が提起している安全保障上の懸念を含む、関係者のあらゆる懸念に対処しつつ、対話を通じた平和解決を追求する」と表明しました。
テロ対策で今回の首脳宣言は、一昨年の上海での首脳会議以来のテロ資金などの対策に加え、ブッシュ政権の要求を反映して、「大量破壊兵器拡散の脅威の除去」や携行式ミサイルの製造・移転の規制をうたい軍事色のある分野に踏み込みました。
経済協力の場のAPECに軍事分野の問題を持ち込むことには批判的な声もあり、マレーシアのマハティール首相は首脳会議後の会見で「われわれは軍事行動のような面には興味はない」と述べました。そうした空気を反映してか議長総括はテロの「根源に注意を向ける」必要性も言及。APECは軍事的手段によるテロ対策に同意を与えてはいません。
今回の首脳会議は国連安保理がイラク復興決議を採択した直後に開かれ、会議前にAPECでブッシュ大統領がイラク復興協力を訴える方針という政府高官の言明も伝えられました。しかし首脳宣言、議長総括ともイラク問題は触れられませんでした。水面下では米国がイラク支援を各国に働きかけた向きもあります。パウエル長官はマレーシアにも財政支援を呼びかけましたが、米占領を理由に拒否されています。
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首脳宣言は、貿易自由化推進へ向けて、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)の再開を強くアピールしました。その際、九月にメキシコ・カンクンでのWTO閣僚会議で示されたデルベス議長案を基礎にすることを指摘しました。
しかし、APEC加盟国には、カンクンでの議長案に農業問題その他で批判的だった国、中国、マレーシア、フィリピン、インドネシアも含まれています。
この点、議長総括は「農業分野は重要」「開発がラウンド(貿易交渉)の重要な面であるべきで、発展レベルの違いを無視してはならない」とし、貿易自由化での途上国への配慮の必要性を示しました。
WTOで先進国が従来型の貿易と投資の交渉を進めるなら、途上国側からの反発は不可避です。マハティール首相は、バンコクでのAPEC関連の経済人の集まりで、乱暴なグローバリゼーションに警告を発し公正な貿易を求めました。
タイのタクシン首相がおこなったアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長総括のうち、朝鮮半島の情勢にふれた部分は次の通り。
朝鮮半島情勢について討議した。われわれは北朝鮮が提起している安全保障上の懸念を含む、関係者のあらゆる懸念に対処しつつ、対話を通じた平和的解決を追求する。これらの安全保障の懸念に対処しようとする努力を歓迎する。
われわれは朝鮮半島の平和と安定の維持を固く決意しており、六カ国協議の継続を支持し、完全かつ半永久的に核兵器のない朝鮮半島にむけた、具体的かつ検証可能な進展があることを期待する。