2003年11月5日(水)「しんぶん赤旗」
小泉純一郎首相は十月三十日、報道各社のインタビューに答え、「教育基本法は改正した方がいい」として、来年の通常国会に教育基本法改定案を提出する意向を明らかにしました。自民党は総選挙の政権公約で教育基本法「改正」を打ち出していますが、首相が法案提出時期にまで言及したことで、総選挙の焦点の一つとなっています。
自民党の教育基本法「改正」論の大きな特徴は、「国の基本を見直す」として憲法「改正」とセットで提起されていることです。憲法改悪のねらいは、日本をアメリカと一緒に戦争できる国にするために九条を取り払おうというものです。基本法をめぐっては、「国を愛する心」を教育の目的に盛り込むことが、すでに中央教育審議会答申(今年三月)で明記されています。自民党も政権公約で「国を誇りに思う心」を強調、「愛国心教育」を強要する姿勢を明らかにしました。憲法九条を骨抜きにする一方、子どもに「愛国心教育」を徹底する−−自民党の「国の基本の見直し」の骨格が見えてきます。
さらに自民党は、基本法に「教育振興基本計画」を盛り込み、「わが国の目指すべき教育の具体的方向づけを図る」としています。「教育振興基本計画」も中教審が答申していたものですが、同計画が単なる教育条件整備でなく、教育の国家的な「方向づけ」であることが明確になりました。
現行の教育基本法は国などによる教育の「不当な支配」を禁じています(第一〇条)。政府がこの原則を踏みにじり、教育への介入を繰り返してきたことが、教育現場に困難や混乱を持ち込んでいます。それを大手を振ってできるようにしようというのです。
財界も教育基本法の改悪を言い始めたのが、最近の特徴です。
経済同友会は昨年十二月、基本法「改正」を求める「意見書」を、財界団体として初めて発表しました。その主張は「日本人としての自覚を持つ個人を育てる」「国をはじめ…どのようにして教育に関与していくべきかを、明確にする」など、自民党の改悪計画の方向と一致しています。
教育基本法改悪をめぐる新しい危険な情勢のもとで、各党の態度が問われます。
与党三党は、今年三月に中央教育審議会が基本法「改正」を答申したのを受け、法案提出に向けた意見調整を進めてきました。法案提出に前向きな自民党と保守新党に対し、公明党はこれまで「論議不足」などとして慎重姿勢を示してきましたが、今回の総選挙マニフェストでは基本法への言及を避けました。十月二十七日の日本記者クラブ主催六党首討論会では、基本法「改正」について、公明党の神崎武法代表が「国民的議論を巻き起こしながら、与党三党で結論を出したい」と、踏み込んだ発言を行いました。
民主党の菅直人代表は、同討論会で「基本法そのものが間違っているとは思わない」としながらも、「いろんな議論がわが党の中にある」「『不磨の大典』ではない」とのべ、改定に含みを残しました。
この背景には、自由党との合併があります。自由党はもともと、基本法改定が持論で、六月には改定案を国会に提出しているのです。
消費税や憲法改悪の問題で、民主党は財界の要求にこたえ、自民党と同じ土俵に上がりました。同様のことが教育の分野でもおきるならば、ことは重大です。
日本共産党は、総選挙政策で「教育基本法改悪のたくらみをやめさせ、基本法を教育に生かす」ことを強調。教育荒廃の原因を基本法に求めることは根拠がなく、反対に自民党が長年、基本法の「人格の完成」などの理念を踏みにじってきたことが教育荒廃をつくりだしたと指摘しています。
そして、基本法を生かし、▽政治の仕事の中心を教育条件整備にきりかえ、三十人学級実現、父母負担軽減など教育条件を欧米並みに引き上げる▽政府ではなく、父母・子ども・教職員・住民が中心に教育のあり方を決める▽学力の保障や市民道徳の教育を重視する▽競争と管理の教育を改革する−−ことなどを提案しています。
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