2003年11月6日(木)「しんぶん赤旗」
「逃げるな、お茶会でない」と米国から迫られて、イラクへの自衛隊派遣をすすめる自民・公明勢力。ところがイラクでは抵抗勢力による米占領軍への攻撃が激化、無法なテロも加わって全土が戦場化する泥沼状態になっています。国連や赤十字に続いてスペインが外交団の引き揚げを決めました。派兵している三十カ国近い国にもタイなど「撤退」を検討する国が相次いでいます。
国連のアナン事務総長は「占領が続く限り抵抗が続く」と強調。世界は米軍占領をやめて早くイラク人に主権を返し国連主導の復興に切りかえるべきだとの主張が大勢をしめています。
大量破壊兵器のウソがばれ、無法な戦争と軍事占領の破たんが明らかになり、ブッシュ政権はますます窮地に。野党の民主党や世論の批判をあびて来年の大統領選挙での再選に赤信号がともっています。
イラク戦争への態度が総選挙での重大な争点になるなか、憲法違反の自衛隊派兵が取り返しのつかない誤りになることを示しています。
「米軍ヘリ撃墜作戦は、米軍にたいする抵抗そのものである。米軍はその巨大な力を持ってしても、この抵抗を止められない。それどころか抵抗のレベルを高めている」
イラクの隣国ヨルダンの代表的日刊紙アルライ四日付はこうのべ、米軍占領は破たんと指摘しました。
米軍ヘリへの攻撃は、十月二十五日にも北中部ティクリットで発生し米兵五人が負傷しました。その際に使用されたのはロケット弾でした。今回は携帯用の地対空ミサイルが使用された可能性が濃厚です。
十月二十六日にウルフォウィッツ米国防副長官が宿泊中のバグダッドのホテルへのロケット弾攻撃。三、四の両日は、占領軍当局の拠点に連夜の迫撃砲攻撃がおこなわれました。
駐留米軍司令官によると、九月までの一日あたりの交戦回数はイラク全土で二十〜二十五回でしたが、十月以降は最大三十五回に増加。これに比例して米兵の死者数も激増。五月一日の「戦闘終結宣言」から九月末までの戦闘による米兵死者が八十一人だったのに比べて、十月一日以降の一カ月余の死者はすでに五十七人に達しています(四日現在)。
攻撃は米軍以外の外国軍にも急速に拡大しています。最近だけでも、イラク南部バスラで十月二十八日、路上にしかけられた爆弾でニュージーランド兵二人が負傷。同日南部のクート近郊で同じ路上爆弾攻撃でウクライナ兵七人が負傷しました。仏AFP通信によると、二日にはバグダッド西部でエストニア軍が手りゅう弾攻撃をうけ兵士四人が負傷しています。
米占領軍によるイラク人への弾圧や強制捜索は日ましに過酷になり、民間研究団体「イラク・ボディ・カウント」によると、主要戦闘終結後、バグダッドだけで千五百十九人以上の民間人が米軍の銃撃などで死亡しています。エジプトの政府系有力紙アルアハラム四日付は次のような分析記事を掲載しました。
「米英による占領継続と欧州各国軍などの駐留はイラク国民の感情を逆なでている」「抵抗はもはや、旧バース党残存勢力や旧軍部によるものではない。イスラム教スンニ派、シーア派勢力や国家主義者のグループ、これらイラク人自身によって組織されている」
市民を犠牲にするテロにはイラク市民から抗議の声が上がり、地域では占領を終結して国連主導のイラク復興を求める声が地域でも高まっています。シリアの首都ダマスカスで一日、二日の両日開催されたイラク周辺七カ国外相会議(トルコ、イラン、クウェート、サウジアラビア、シリア、ヨルダン、エジプトが参加)は、国連や赤十字を狙った爆弾テロを非難すると同時に、事態打開の方策としてこう強調しました。
「われわれはイラクでの国連の死活的役割を促進することの重要性を確認する。国連の死活的役割とはとくに、憲法制定、選挙の実施、占領終了にむけた時間表を設定するために発揮されるものである」「イラク人の権利や国家主権を回復するため、主権がイラク人の手に速やかに引き渡されることが必要である」
前出のアルアハラム記事は強調しました。
「占領軍が撤退すれば、国際社会はイラク人との建設的対話の窓を開くだろう。さもなければ、占領軍はいたるところで、爆発、自動車爆弾、そしてあらゆる抵抗作戦に取り囲まれている自らを発見することになる」(カイロで小泉大介)
「多くの国民の目には、イラクは戦争の真っただ中だと映っています」。四日、山火事被災の視察でカリフォルニア州を訪れたブッシュ大統領に記者団から質問がとびました。
米軍ヘリの撃墜など、イラクは戦争状態に「逆戻りしたのではないのか」との問いです。
ブッシュ大統領は「敵の狙いは米国の撤退だ。だが、われわれは仕事をやり遂げる」「逃げ出したりしない」と最近の決まり文句を繰り返し、打つ手に窮している姿を印象づけました。
「報道機関は(イラクでの)前進面をほとんど無視し、テロリストの爆弾事件や破壊工作ばかりを報じている」。ラムズフェルド米国防長官も三十日の記者会見で、いらだち気味に語り、情勢悪化に手を焼く内状をのぞかせました。
長官は、ヘリ事件直後の会見でも、治安維持に携わるイラク人を、現在の十万人規模から早急に倍増させる計画を強調。「自由イラクの立場に立つ数え切れない個人がいる。一方では、テロを仕掛けるごく少数の連中がいる」(四日、ウルフォウィッツ国防副長官)と繰り返しました。
しかしイラクからの報道は、撃墜されたヘリの周りで、手をたたいて喜ぶ住民の姿を映し出し、米国内の懸念をさらに強めています。
ブッシュ政権は戦前、米軍は「解放者」であり、イラク人から「熱烈な歓迎」を受けると主張していたのです。しかし「バグダッドの路上では、米国人は歓迎されているとは感じない」。『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』誌最新号はこう書きました。実際、米軍を攻撃している勢力はわずかであっても、その周囲には、占領に反感を抱く膨大な数の人々がいます。
地球規模での対テロ戦争を推進するブッシュ大統領は、イラクを「自由で民主的な国」に変えることが、米国をより安全にすると主張し、米国民に「忍耐」を迫ります。
ところが、ラムズフェルド国防長官はそのメモで、対テロ戦争では、「勝っているのか、負けているのか」、判断のしようがないと述べています。一方、ウルフォウィッツ国防副長官は、「イラクで勝利することは重要だが、それは(対テロ戦争の)一部でしかない」と強調します。対テロ戦争で勝利しようとすることは、終わりのない侵略につながっている、そんな不安を国民に広げています。
侵略の口実とされた大量破壊兵器が見つからず、「大量のウソ兵器」を使ったと非難されているブッシュ政権。行き詰まりが強まる中で、居直りやウソが常態化しています。米軍への攻撃が強まる中で「任務完了」のスローガンが問題になり、ホワイトハウスは弁明に追われました。
ブッシュ大統領は二十八日の会見で、小泉首相と「きわめて緊密な関係を築いた」ことに、「感動した」と述べました。ウソをうのみにし、積極的に協力してくれるまれな政権に、内外で孤立している大統領が、強い「感動」を覚えたことは想像にかたくありません。(ワシントンで浜谷浩司)