2003年11月11日(火)「しんぶん赤旗」
総選挙で争点となった二〇〇四年「年金改革」。小泉純一郎首相は、「必ず年内には具体案をまとめる」とのべ、選挙後は急ピッチで政府・与党内の調整が進められることになります。これまで、担当省庁である厚生労働省だけでなく、財務省や経済界からも「改革案」が出されました。「保険料をどこまで上げるか、年金の給付をどう削るか」の競い合いとなっています。
坂口力厚労相が九月に試案を公表した厚労省は、十一月中旬にも「坂口試案」に沿った形で同省の「改革」案を発表することにしています。
「坂口試案」は、保険料を厚生年金で現行の13・58%(労使折半)から段階的に20%まで一・五倍に引き上げるというもの。国民年金の保険料も、いまの月一万三千三百円から一万八千円台まで、年間約五万六千円も値上げします。
しかも、老後に受け取る年金は、現役世代の所得の59%を保障するいまのやり方を変更。少子化や賃金の変動に応じて、国会の審議もなく自動的に削減するしくみを導入し、将来は52%程度まで引き下げるとしています。夫婦二人分のモデル年金(夫は四十年加入、妻は専業主婦。現行は月二十三万六千円)なら、年間で三十四万円の削減にあたります。
さらに大幅な給付の削減を求めているのが財務省です。九月に「年金改革についての基本的な考え方」を発表しました。そこでは、国の支出を抑えるため、年金は高齢者の生活の「最低限」を支給できればいいという考え方を強調。将来だけでなく、現在の年金受給者を含めた給付カットが必要だとしています。
塩川正十郎前財務相は「生産性のない者に60%(の給付)を保障しているから、保険料が高くなり公的負担も大きくなる。40%でよいのではないか」(四月)とのべていました。
小泉首相は選挙中に、厚生年金の給付水準は現役所得の50%程度、保険料負担は労使で20%程度をめざすと、坂口試案と同様の考えを示しました。これについて谷垣禎一財務相は「程度というのは、上もあるかもしれないけど下もあるという意味」(十月三十一日)と発言。「過大な給付を出そうとすれば(財政の)能力を超えてしまう」と、できるだけ給付を抑制する必要があるとの考えを示しています。
同じく給付の大幅削減を提案しているのが経済界です。日本経団連が九月にまとめた「今次年金制度改革についての意見」では、一定の期間をかけて給付水準を現行より二割カットする必要があるとしています。保険料の引き上げによる企業負担の増加を避けることが目的で、「厚生年金の保険料率は15%が限界」だという主張です。
経済産業省も、「企業負担の増加は、企業の雇用コストを増大させ、正規雇用の削減、失業率の上昇につながる」と同調しています。
年金の支給開始年齢をさらに遅らせるべきだという意見も出ています。
小泉首相は九月の自民党総裁選で、年金がもらえるようになる年齢を六十五歳からさらに遅らせることを検討課題にする考えを打ち出し、坂口厚労相に検討を指示しました。
財務省では、六十七歳にすることも検討しています。
基礎年金への国庫負担は現在三分の一ですが、これを〇四年から二分の一に引き上げることは、法律ですでに決まっていることです。しかし、これについては先送りする姿勢が強まっています。
小泉首相は「一年間で上げる必要もない」(十月十四日)と先送りする考え。坂口厚労相も「二分の一への引き上げについては、数年かけて段階的に実現したい」(八月二十二日付「公明新聞」)と発言しています。財務省は「具体的な安定財源が確保されることが検討の大前提」と、引き上げに難色を示しています。
現 行 | 厚生労働省 (坂口試案) |
財 務 省 | 日本経団連 | |
年金給付 | 現役世代の賃金の59% | 現役世代の賃金の50%〜50%台半ば | 現在の受給者を含めて削減。「40%でいい」(塩川前財務相) | 一定期間で2割程度削減 |
保険料(労使合計分) | 年収の13.58% | 年収の20% | 国民が税金と合わせて負担できる水準にする | 現行を極力上回らない。15%が限度 |
国庫負担引き上げ | 「数年かけて段階的に実現」(坂口厚労相) | 具体的な財源確保が検討の大前提 | 04年に実施。財源は公的年金控除の廃止、消費税の活用 |