2003年11月13日(木)「しんぶん赤旗」
国民年金保険料の未納者が四割近くに上っている事態に、社会保険庁は、収納対策強化の一つとして、「強制徴収の手順」を定め、これに基づき、財産差し押さえに至る強権的徴収の方向に着手しています。強制徴収・差し押さえの本格実施は、年金制度ができて初めてのことです。
この「手順」(図)は、社会保険庁が作成したもので、九月十六日に開かれた全国社会保険事務局長打ち合わせ会議に提出されました。
社会保険庁によると、この「手順」にそって作業を進めており、保険料納付書を同封した催告状を送付している段階です。
ここで納付しない人を対象に、督促状を送付、戸別訪問による納付督励をした上、財産調査をして差し押さえに入る「手順」です。
社会保険庁は、「十分な所得や資産がありながら納付しない人が強制徴収の対象」としています。「十分な所得や資産があるかどうか」については、保険料免除に該当するかどうかで判断され、免除基準に該当しない人で「悪質な滞納者」とみられると、強制徴収・差し押さえの対象になります。
昨年度の国民年金保険料の納付率が62・8%に低下しました。この対策として厚生労働省に「国民年金特別対策本部」を設置。今後五年間で収納率80%という目標を立てて収納対策を強化、強制徴収を一つの柱としています。
もともと国民年金は、自営業者、農民ばかりでなく、近年増加している失業者・無職者など弱い立場の人を対象としている制度です。国民年金法自体が「督促・滞納処分」については「督促することができる」(同法九六条)としており、強制徴収はこの条項にもなじまないものです。過去には、一九八八年から九〇年までに、五件の滞納処分をしたにとどまっています。
ところが、日本経団連など財界は、「年金改革」の論議の中で強制徴収実施を主張。「保険料を納付していない人には、ペナルティーとして、自動車運転免許証やパスポートを出さないようにすべきだ」(五月二十日の社会保障審議会で、日本経団連会長の奥田碩委員)などと主張しました。
社会保障審議会年金部会の論議でも日本経団連の委員などから強制徴収の方向が強く出されました。
国民年金保険料の納付率が低下している原因は、なんといっても年金への信頼が低下していることです。この信頼を取り戻すには、老後に役立つ額の年金給付を確立することが先決です。
月額一万三千三百円という保険料負担が困難な人のための保険料免除基準が、昨年四月から改悪され、これによる未納者も増えました。
免除基準が厳しくなったために昨年度の全額免除者が前年度より百三十三万人減り百四十四万人にとどまったことが、日本共産党の小池晃議員の質問(十月九日の参院厚生労働委員会)で明らかになりました。さらに、小池議員の試算によると、免除対象から締め出されて全額納付対象となったために未納となった人が、百十万人にのぼります。
「手順」によると免除対象から締め出された人でも「払えるはずで、悪質」とみなされると、強制徴収の対象とされます。しかし、現実には、「払いたくても払えない」として免除申請したのに退けられ、十月になって「催告状」が送られてきた事例が出ています。
高負担、低給付に加えた強制徴収という方向は、国民の生存権と国の義務をうたった憲法二五条(注)に背くものです。(鈴木進一記者)
憲法二五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
国民年金法
第一条 国民年金制度は、日本国憲法第二五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。