2003年11月22日(土)「しんぶん赤旗」
政府が二十一日に了承した「国民保護法制」の「要旨」は、米国がアジアで起こす戦争で、米軍や自衛隊の行動を最優先で保障するため、国民や自治体を動員、統制する危険性を浮き彫りにしています。
「国民保護法制」は、どんな事態で発動されるのでしょうか。
「要旨」は「国民保護法制」について、日本への「武力攻撃事態等」に際し、「国全体として万全な態勢を整備し、国民の保護のための措置を総合的に推進することを目的にする」としています。
「武力攻撃事態等」は、日本への「武力攻撃が予測される事態」を含む概念です。政府はこの「予測事態」について、米国がアジアで戦争を起こし、日本が米軍支援を実施する事態(周辺事態)と「併存」することを認めています。
一方で、政府や与党の幹部は「大規模な国家間の戦争は非常に可能性が低くなってきた」(大森敬治官房副長官補)「北朝鮮が先に攻めてきたり、侵略してくることは現実的にはないと思う」(久間章生元防衛庁長官)と指摘。日本に対する武力攻撃の現実的可能性がないことを事実上認めています。
つまり、発動の危険が最もあり得るのは、米国が海外で戦争に乗り出した「米国有事」のときなのです。
「国民保護法制」が実際に発動されれば、どうなるのでしょうか。
「要旨」は、「避難」や「救援」などを口実に、刑罰規定を設けて、国民の統制、強制動員を定めています(表)。政府は当初、土地・家屋などの収用に従わない者への罰則は考えていないとしていました。しかし、今回の「要旨」では明記されました。
退避の指示、土地や建物などの一時使用、警戒区域の設定、車両の移動など通行確保のための措置を、軍事作戦を優先する自衛隊がみずから実施できる規定も盛り込まれました。
また、政府への協力が義務付けられる民間機関(指定公共機関)として、電気、ガス、運送、電気通信、日本郵政公社、医療、日本赤十字社、放送などの事業者を列挙。電気・ガスの供給、運送や医療の確保、必要な通信の優先的取り扱いなどの「措置を講じなければならない」と定めました。
放送機関には、「武力攻撃事態等の現状、予測」など「大本営発表」にもつながりかねない、政府の警報内容の放送を義務付けています。民放連は「報道の自由を侵害する」とし、「指定公共機関」から放送機関を除外するよう要請してきました。しかし、政府はその要請に応えませんでした。
また、「生活関連物資等の価格安定」など、国民生活と経済を統制する措置も盛り込こんでいます。
国民や民間機関の統制、動員は、災害対策とは違い、政府主導で行われます。
「要旨」は、避難路確保のための建物撤去などの応急措置や、「緊急通報」の発令の権限を都道府県知事に与えています。四月に国会に提出した「国民保護法制」の「概要」に比べ、知事の役割を拡大しています。
しかし、平時から自治体や民間機関に作成が義務付けられる計画は、政府が決定した「基本指針」に基づかなければなりません。政府主導のもとで国民統制、動員計画がすすめられ、戦争推進体制がつくりあげられることに変わりはありません。
●物資の保管命令に従わなかった者
●通行の禁止又は制限に従わなかった車両の運転者
●土地若しくは家屋の使用又は物資の収用に関し、立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
●物資の保管に関し、必要な報告をせず、又は虚偽の報告をした者
●警戒区域又は立入制限区域への立入りの制限若しくは禁止又は退去命令に従わなかった者
●原子炉等による被害を防止するための措置命令に従わなかった者
●危険物質等による危険を防止するための措置命令に従わなかった者