2003年11月24日(月)「しんぶん赤旗」
財界が仕掛けた「政権選択選挙」の狙いは、財界の意向を代弁する、自民党がだめになっても心配がないような「保守二大政党」の仕組みに、政界をつくり変えることでした。総選挙で自民、民主両党が具体的に動き出したことに、国内外の識者から危ぐの声があがり始めています。
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総選挙で国会議員のアンケート調査を行った蒲島郁夫・東京大学教授は、「二大政党」化の問題点に注意を促しています。
「スムーズな政権交代のために望ましいという立場もある。一方で、二大政党化が進むことで社民、共産両党のような国会全体の多数意見に対するチェック機能を果たす勢力が無くなる。そういうメカニズムが果たして良いのかという問題もある。憲法や安全保障についてのアンケート結果を重ね合わせて見ると分かりやすい。いわゆる第三極が無くなると、残るのは『二極』ではなく、むしろ『一極』になる傾向だ」(「朝日」十一日付)
「『二大政党』に向けては、財界団体の仕掛けが目についた。政治献金再開の動きの一方、マニフェスト選挙と『政権交代可能な体制』を推し進めた」。「朝日」十日付でこう論じたのはコラムニスト・早野透氏です。
早野氏は、「果たして民主党が財界の求めるような自民党のスペアとなるのか、それとももっと広い国民的価値観を持ちうるか、これからの課題」としたうえで、「イラクへの自衛隊派遣や北朝鮮問題をめぐって日本のあり方の議論が起きている。新しい世代の新しい国家意識も芽生えている。『二大政党』はどうかかわるのか、多様な意見を反映できるのか危惧も感ずる」とみます。
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「二大政党」化で対決点がなくなる傾向は、アメリカの現実が教えています。
米誌『ニューズウィーク』コラムニストのデーナ・ルイス氏は、同誌日本語版(十一月十二日号)で、米大統領選のたびに、第三党政党の候補者が共和党と民主党の支配に「向こうみずな戦いをやめようとしない」のは、「アメリカ国民が、二大政党制も万能でないことに気づいたからだ」と強調します。
「二つの政党が交互に権力を握り続ければ、議員は一党支配のときと同じように、公益よりも自分の再選や特定利益の保護に熱心になる。政治資金を供給する側は両党の議員に金を出し、リスクを分散させることを覚えてしまった」
ルイス氏の目には、「自民党と民主党の『マニフェスト(政権公約)』は、政党の名前がなければ、ほとんど区別がつかない。これではアメリカと変わらない」とうつっています。
米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は『フォーサイト』十二月号で今回の総選挙について、「有権者は政策の違いがほとんどない中で選択を迫られた」と総括し、「自民党も民主党も各論を語るばかりで総論がない。個々の政策は書いてあっても、日本の将来像を描き出すような『大きなストーリー』はどこにも見当たらない」と政策論争の不在を指摘しました。そのうえで「何か大きな問題に直面した時、政策にほとんど違いのない中道二大政党政治であった場合、ブレーキをかける反対勢力がなければ、ひとつの方向に一気に流されていく恐れも生じることになる」と警鐘を鳴らしています。