2003年11月25日(火)「しんぶん赤旗」
総選挙から二週間、小泉純一郎首相の言動が右往左往、揺れが目立ちます。「国民の信任を得た」「与党は絶対安定多数」と小泉首相は強気のことばを吐いていますが、「小泉政権のピーク(最盛期)は去った」という評価は永田町の定説。小泉政権の今、を担当記者で話しました。
A 総選挙の結果、小泉政権は強くなったのか、それとも弱くなったのか。先週、東京都内のホテルで自民党、民主党、無所属の衆院議員十人ばかりが集まる政局懇談会が開かれた。話題は総選挙後の小泉純一郎首相の右往左往ぶり、腰の定まらない政治姿勢だった。
B 総選挙後の第二次の政権づくりでも千鳥足だった。合併した保守新党との政策合意では九条改憲を念頭におく「新憲法制定、教育基本法改正、消費税」も明記した。しかし公明党との政権合意書では改憲、教基法「改正」、消費税のことばを書きこむのを避けた。二股膏薬(ふたまたごうやく)で政権をスタートさせた。
C 自民党の長老政治家は「数の上では与党安定政権だが、今後の政権運営の不安材料はたくさんある」といっている。
A 第二次内閣発足の記者会見で小泉首相は「あらゆる困難に耐え」「あらゆる困難にめげず」と“困難”を繰り返していた。小泉首相自身が先行きに不透明感を抱いているからだろう。
C イラク問題でも大揺れだ。自民党の堀内光雄総務会長との二十日夜の会談では「自衛隊派遣の時期を年内にとは一度も言っていない」といったものだ。小泉首相は十月二十四日のNHK番組で「早いほうがいい。年内にできるなら年内にしたほうがいい」と年内派遣へ強い意欲を示したのに…。
B アメリカ・ブッシュ大統領べったりの当初からの対応が誤算を招いた。“ブッシュ・ブレア・コイズミ”の米英日の好戦派三人組はイラク情勢の泥沼化で国際的孤立を深めている。自民党橋本派の閣僚経験者は「イラクへの自衛隊派遣問題は今後の政局に容易ならざる影響を及ぼす」といっている。
A 自民党三役経験者は「ブッシュに従うだけではすまなくなった。小泉さんは本気で外交を考える時期がきた。自分の頭で考えられるかどうかは別にして」と話している。
C 福田康夫官房長官に近い政界関係者は「イラク国内の情勢が悪化してきたから自衛隊は行かなくていいということにならない。日米同盟が崩れてしまう。ブッシュにとって来年の大統領再選がかかっているテーマだし」と苦り切っている。
A 内政もブレが大きい。総選挙が終わるまで表に出さずに抱え込んでいた悪政メニューを息せき切ったように吐き出している。
B 厚生労働省は負担増と給付減がセットの年金制度「改革」、政府税制調査会は年金財源について消費税増税を軸に検討する方向を確認した。有事法制にもとづいて国民を統制・処罰する「国民保護法制(要旨)」を決めた。改憲のための国民投票法の早期制定を小泉首相自ら促した。
C 厚労省の年金制度「改革」案は財界、自民党の反発を招いている。対立をあおりながら、「負担をどれだけ増やすか」だけに議論の枠をはめる効果も狙った、政府の国民向けの心理作戦という一面もある。
B 地方補助金の来年度一兆円の削減ないし縮減方針も小泉首相は突然打ち上げた。国庫補助負担金のほぼ八割は社会保障・文教関係だ。衆院予算委員会の自民党幹部は「来年はえらいことになる」と、予想される国民の反発を恐れていた。
A だから、特別国会で小泉首相は所信表明を避けた。衆参各一日の、それも四時間半の予算委審議だけですませ、逃げ切ろうとしている。
C 今度の総選挙で自民党は従来の各種団体を動員する組織型選挙が通用しなくなったことを思い知った。中小建設業ほか医療、福祉、文教関係の各種団体は自民党のためには動かない。小泉路線が続くほど崩壊は早まる。
B その分創価学会・公明党依存を深め、「自民党の身体に創価学会が内臓移植された」と政界では語られる。自民公認候補が「比例は公明党へ」と連呼する事態に、自民党は総選挙の投票日五日前に安倍幹事長名で「比例代表選挙における自民投票獲得運動の徹底」を通達したが、すでに焼け石に水だった。
A 青ざめているのは青木幹雄参院自民党幹事長だ。来年の参院選で勝つため橋本派を割ることも辞さず九月の総裁選で小泉首相の支持へ走った経過があるからだ。自民党のドン、政局キーマンになった青木氏だが、二カ月足らずでその座も揺れ動く事態だ。
C 内閣支持率は総選挙のあと「朝日」の12ポイント下落など軒並み大幅に落ち込んだ。自民党議員は「自民党内には小泉にたいして飽き飽き感の雰囲気が漂ってきている」といっていた。