2003年11月25日(火)「しんぶん赤旗」
ロンドンで二十日に行われたブッシュ米大統領とブレア英首相の首脳会議は「多国間協力にかんする共同声明」を発表し、「効果的な多国間協力」の推進を宣言しました。しかしその内容からは国連の役割がすっぽりと抜け落ちています。(パリで浅田信幸)
宣言発表は、国際法を無視したイラク戦争の強行をはじめブッシュ米政権の「単独行動主義」への国際的な批判が高まるなか、それをなんとかかわそうとしたものといえます。
首脳会議の翌日に出たニューヨーク・タイムズ紙の社説は「ブッシュ氏は単独行動主義を、例外的な政策的選択としてではなく、支配的な国際的主題として選んだ。この誤りを続けることは米国をますます孤独にさせ、ますます危険にさらすことになりかねない」と書きました。
国内の主要メディアからも批判される単独行動主義ですが、では「多国間協力」をうたった共同声明はこうした批判への回答になっているでしょうか。
声明は、国際テロ、大量破壊兵器の拡散、敵対的な独裁体制など現代の世界が直面している「挑戦」を列挙し、「これらの挑戦に立ち向かい、より安全かつ公正な繁栄した世界を建設するために、行動をとり、国際諸機関を動員する特別な責任がわれわれにある」と宣言します。
続いて「大西洋同盟」、すなわち米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)の「達成」をたたえて、「すべての諸国民に、共通の目標に向けて合流し、一時的な不一致点を脇に置き、世界における共同利益のために活動する責任を認めることを求める」としています。
そのうえで、「単独主義でも国際的なまひ状態でもなく、効果的な多国間協力がわれわれの取り組みを導く」と強調し、中東和平の実現、国際テロとのたたかい、大量破壊兵器の拡散反対、エイズとのたたかい、アフリカ開発への支持などの課題を列挙しています。
この声明の最大の特徴は、「国際諸機関の動員」を促し、「効果的な多国間協力」をうたいながら、現代の国際平和秩序を律している国連と国連憲章への言及がまったくないことです。あげられているのはNATO、欧州連合(EU)、世界貿易機関(WTO)および主要国首脳会議(G8)だけです。
首脳会議の前日、ブッシュ大統領はロンドン市内の旧王宮バンケッティング・ハウスでの外交演説で国連に言及し、第二次大戦前に戦争突入を防止できず機能停止に陥った国際連盟と同じ運命をたどらないようにとの警告を発していました。
国連安保理の意向と国連憲章を踏みにじり、国際社会に逆らって対イラク戦争を強行し、結果として国連の役割を著しく損ない、国際テロの拡散ともいうべき事態を招いているみずからの行為への反省はまったくみられません。
同じ演説でブッシュ大統領は「侵略と悪を力で押さえ込む意思」の必要性を強調しています。
「多国間協力にかんする共同宣言」の内容は、今後とも国連を「迂回(うかい)」し、米英両国がみずからの判断だけに基づいて「予防戦争」「先制攻撃」に訴える可能性のあることを明らかにしたものといえます。