2003年11月25日(火)「しんぶん赤旗」
在宅で療養するALS(筋委縮性側索硬化症)患者のたん吸引は、医師・看護師か患者の家族しかできませんでしたが、患者団体の強い要望でホームヘルパーなど家族外でも医師らの指導のもとでできるようになりました。ところが、七月に厚生労働省がだした通知が市町村に徹底されていないために、せっかくの改正制度を利用できない患者がいます。
北九州市のAさん(66)は全身の筋肉が衰え、ベッドに寝ついて十年。介護者がたんの吸引を一時間おきに行います。のどの切開部から管をいれ、機器で吸い出します。
吸引は妻(59)と訪問看護師しかできません。妻は平日、看護師がいる三時間の間に外出して買い物など用をたします。連休で訪問看護がないと、数日間も家にしばられて何もできません。
妻は、平日の午前中きてくれるヘルパーが吸引できればどれだけ楽になるか、と思っていただけに、「ヘルパーも吸引できる」の報に、喜びいさんでヘルパーの事業所に申し込みました。
しかし、「ヘルパーの業務外だから、できない」と断られてしまいました。妻は「がっかりした」と肩を落とします。
同じ北九州市で訪問介護事業をするケアワーカーズステーション帆柱の丹羽美知子さんも戸惑います。やはり市に問い合わせると「ヘルパーがボランティアでするもの。業務時間外ですること」といわれました。
忙しいヘルパーが時間外にできるだろうか、報酬は介護保険で認められないのか、もし事故がおきたら責任はヘルパー個人がとるのか、など疑問ばかり。同事業所のヘルパーはたんの吸引に二の足を踏んでいます。
厚労省での検討会の報告に「ヘルパーの業務として位置付けない」とあるため、北九州市は「ヘルパーが家族と個人契約し、介護時間外でやること」と事業者に説明していました。同市の解釈は誤りで、厚労省の見解(表)によれば、患者の同意書、医師、看護師などによる教育・指導などの条件つきで、介護の業務時間も、ヘルパーが吸引することができるようになっています。
この問題を扱う北九州市の介護保険課は厚労省通知を見ずに事業者に説明し、同じく障害福祉課は通知が出たことを「知らない」といいます。
日本ALS協会の金沢公明事務局長は「厚労省通知が県にとどまって市町村に徹底されていないところもあるようなので、調査してみたい。今回の通知は第一歩でまだまだ不備があります。通知の徹底とあわせて、筋ジストロフィーなどALS以外の患者や施設で療養している患者にも適用できるよう運動をしていきます」と話しています。
●おもな条件
・患者の同意書
・医師や看護師による教育・指導
・医師、看護師と密な連携
●ヘルパー業務との関連での取り扱い
・時間―介護の業務時間内にしてもかまわない
・報酬―ヘルパー個人と患者・家族の間で取り決める
・事故の責任―条件を守っていれば司法責任は問われない▽状況により連携をとっている医師、看護師、家族と責任は分担される▽損害賠償保険の約款に、たん吸引の項目を追加した損害保険会社も。ヘルパーが保険に入る場合、事業所が保険料を支払うことも可能
(厚労省の通知および見解から)