2003年11月29日(土)「しんぶん赤旗」
イラクではテロや武力事件が頻発し、日本国内では自衛隊派兵反対の世論が高まっています。小泉・自公政権はこうした矛盾に直面しながらも、日米同盟優先の立場から、イラク派兵にあくまで固執。十二月上旬にも基本計画を閣議決定し、年内派兵も視野に入れて準備を急いでいます。
福田康夫官房長官は二十七日の記者会見で、「状況が許せば、年内に(自衛隊を派遣したい)」と述べ、自衛隊派兵の遅れにいらだちを隠さない米国の顔色をうかがって、あくまで年内派兵を追求する考えをあらためて示しました。
そのために、防衛庁・自衛隊は、政府が正式決定をしていないにもかかわらず、イラク派兵のための準備を着々と進めています。
米英占領軍への空輸支援のためイラクへの派遣が検討されている航空自衛隊小牧基地(愛知県)のC130輸送機はすでに、従来の緑を基調とした迷彩色から、地対空ミサイルによる攻撃を避けやすい空色に塗り替えられました。イラクの暑さや砂じんに耐えられる防暑用の衣類、特殊作業手袋などの入札もすでに行われています。
一方、イラクでは米英占領軍などへのテロや武力攻撃が続いています。陸上自衛隊部隊の派兵先とされるイラク南部の都市サマワに近いナシリヤでも、イタリア軍がテロ攻撃を受けています。
石破茂防衛庁長官は二十八日の記者会見で、前日にイラクの現地調査から帰国した専門調査団の報告を受け、「イラク南部の治安の状況は、他地域に比べて相当安定している」と述べました。
しかし、ナシリヤでのイタリア軍へのテロ攻撃について、イスラム世界の専門家は「南部の村落地帯での攻撃実施のためには地元の協力者が不可欠であり、地元に根ざした存在が必ずかんでいるはずだ」(エジプトのアハラム戦略研究所のディーア・ラシュワン研究員、「朝日」二十日付)と指摘。「自衛隊がイラクに派遣されれば、それは『占領軍』の一部とみなされ、確実に攻撃対象となる」と警告しています。
小泉首相も「部隊が派遣されるとなると、これを標的にしようとするテロリストの動きが出てくる」(二十五日、衆院予算委員会)と認めています。
こうした状況の中での派兵強行は、イラク特措法の「戦闘地域には行かない」という建前にさえ反するものです。
日本の国民世論も多くが派兵に反対しています。産経新聞とFNNの合同世論調査(二十一─二十三日)では、「現状でも(自衛隊の)派遣が望ましい」とした人は、わずか10・0%にすぎません。
そのため、政府は、実際にいつ派兵するかについては明言できない事態にも追い込まれています。
イラク特措法では、派兵前に部隊の規模や派兵期間を盛りこんだ基本計画を閣議決定しなくてはならないことになっています。しかし、福田官房長官は、派兵時期を盛り込まない基本計画の決定も「問題ない」(二十七日)と発言。派兵時期については、基本計画決定後に防衛庁長官が策定する実施要項に盛り込み、事実上先送りする案も浮上しています。
これには「米国に派遣方針に揺らぎがないことをアピールする一方で、治安悪化を受け、時期の決定はできるだけ先送りしたい政府。こう考えた末の『苦肉の策』」(「東京」二十八日付)との批判があがっています。
イラク問題を打開するには、不法な米英軍主導の占領支配から、国連中心の枠組みにきりかえ、一刻も早くイラク国民に主権を戻すことこそ必要です。米英の占領支配を支援する自衛隊派兵は、それに逆行するものです。