2003年12月1日(月)「しんぶん赤旗」
イラクで活動していた日本の外交官が攻撃を受けて亡くなりました。厳しい状況のもとで活動してきたお二人が犠牲になったということに心が痛みます。
二人の犠牲を前に、いま日本人が考えるべきことは、このような悲劇を繰り返さないためになにをなすべきかということでしょう。
今年三月以来、イラクで犠牲になった人々の数は実に膨大です。数百人の占領軍の米英の兵士、米英軍に協力する各国の兵士と外交団などの職員、国連や国際赤十字職員などなど。そして忘れてならないのは、最大の犠牲者はほかでもない何の罪もないイラクの一般市民だということです。その数は万をこえるといわれています。
今回の襲撃の背景や目的などはまだ明らかではありません。しかし、政府は「テロリストに狙われた可能性がある」とものべています。ほぼ同じ頃、バグダッド南方で、米英占領軍に協力して兵士千人余を派遣しているスペインの情報機関要員が攻撃され、七人が死亡しました。偶然の符合ではないでしょう。
罪のない市民を犠牲にするテロ活動には絶対に賛同できません。しかし、イラク市民が行なっていることのすべてが、こうしたテロとはかぎりません。さまざまな事態が、多くのイラク人にとっては侵略者による占領がつづき、さらに事実上、米軍による新たな戦争(「鉄のハンマー」作戦)が行われている中で起きているのです。
テロとは断固としてたたかわなければならないといいます。たしかにその通りです。しかし、であればこそ、いま必要なのは、なぜいまテロなのか、何がテロを生み出しているのか、その土壌、テロが頻発する理由について真剣に考えることです。そこにこそ問題を明らかにする原点があるはずです。
いまイラクを「泥沼状態」といいます。しかし、イラクの人々にとっては、「泥沼」ではありません。
米国や日本政府は「復興支援活動にたいする妨害」といいます。イラク国民の生活を安定させることは緊急に必要です。しかし、不当な占領と軍事作戦のもとで、本当の「復興」はありえません。
テロと暴力の連鎖は、侵略戦争と軍事作戦、不法な占領の産物にほかなりません。
米国防総省とブッシュ米大統領は、いまイラクの治安を脅かす「敵」は、フセイン政権の残党と外国人、「人口二千三百万人のうちのわずか数千人のテロリストであり、これをせん滅すれば、平和がくる」と主張します。間違いです。彼らが相手にしている大多数は「生き残ったテロリスト」ではなく、占領支配が生み出しつづけているアメリカに反対する普通の市民なのです。テロの土壌を生み、無数の「敵」をみずからつくりだしながら、それをせん滅するという、その愚かさを知るべきです。
ブッシュ米大統領は十一月二十七日の感謝祭の当日、こっそりとバグダッドの空港に入り米兵を「激励」しました。短いあいさつの中で大統領は、米兵らが米国の平和と安全に貢献しているとたたえましたが、イラクの平和と安全については一言もふれませんでした。兵士らにたいそうな料理を振る舞いましたが、イラクの人々には何を振る舞ったのでしょう。野蛮な「鉄のハンマー作戦」の継続でしかありません。
イラクの人々はもともときわめて親日的です。しかし、そうした対日感情も、小泉政権がアメリカに追従して戦争と占領を支持し、さらにその占領と支配にたいする軍事的支援にほかならない自衛隊派遣まで行なうというにいたって急速に、大きく変わりつつあります。日本への失望です。それが、怒りにかわってきているといいます。
問題の根本は、イラク戦争そのものが間違っていたということです。何の大義もなく、国際社会のルールを無視し、イラク国民の思いを踏みにじって行われた侵略の戦争だったということです。その戦争の結果をいま眼前にして、世界がいま緊急になすべきことは、イラクの現場に国際正義と道理を確立することです。一日も早く、戦争と占領、軍事力による支配をやめ、国連の主導権のもとでの解決という軌道を確立し、イラク国民に主権を返還し、占領支配の停止と占領軍引き揚げのプログラムを明確にすることです。
日本政府に求められているのは、自衛隊の派遣ではなく、こうした国際正義にたった解決に努力することです。悲劇を二度と繰り返さないためにも。
(三浦一夫外信部長)