日本共産党

2003年12月3日(水)「しんぶん赤旗」

「政府方針に違和感」「おれは死なぬ」 揺れる心

派兵“最前線” 北海道の自衛官衝撃

幹部の妻 「世論の力で絶対中止して」


外交官殺害

 日本の外交官二人がイラクで殺害された事件は、自衛隊の派兵の中心部隊のある北海道の各界に大きな衝撃を与えています。自衛隊員とその家族、道内各団体、道民のなかに「派兵してはならない」の声が広がっています。

自分に言い聞かせて

 イラクへの自衛隊の派兵は、北海道の陸上自衛隊第二師団(旭川)を中心に編成される第一陣、第一一師団(札幌)を中心に編成される第二陣とされています。道内約四万人の陸上自衛官から千四百人を選抜し派兵する予定です。

 航空自衛隊第二航空団(千歳)からも地上要員数十人の選抜が終わったとされ、派兵へ激しい訓練が始まっています。

 日本人外交官殺害事件は、隊員やその家族の間に衝撃となって広がっています。

 ある幹部自衛官(40)は「私は侵略を受けたら反撃する『専守防衛』の任務で北海道を守るために自衛隊に入隊した。だから、イラクに派遣するという政府の考えに違和感をもっている」と語りました。「いま選抜されている隊員は、激しい訓練をしている」といいました。

 派兵が決まったという複数の自衛官は、本紙の取材に「まだ閣議決定されていない」と声を荒らげ、「政府が行けと命令したら、行かなければならない」と苦しい胸のうちを語りました。「おれは死なない。部下も危険なところにはいかせない」と自分に言い聞かせるように語りました。

 派兵が決まっている、中学、高校生の子をもつ自衛官は、「子どもたちはイラク派遣を理解している」とのべました。一方で「いや理解させた」といい、揺れる心の内を語りました。

 学校現場にも影響が出始めています。自衛隊員の子どもが「平和のテーマの歌が歌えない」として授業を休むという事態も起きています。

 幹部自衛官の妻は「派兵に志願している人でも、喜んで出たいと思っている人はいない。事件があって、いまどんなに不安が募っていても、どういう風に意見を言ったらいいのか分からないのだと思う。隊員や家族は内部の様子を口外したら攻撃されると恐れています。官舎では、お互いの家庭の生活が手に取るようにわかるため、自分の思いを語れず悩んでいます」と語り、「国民の派兵反対世論の力で、いまの政府の無謀なイラク派兵計画を絶対中止してほしい」と力を込めました。

各紙も不安の声報道

 自衛隊イラク派兵の中心部隊があるだけに、道民、市民の関心は高いものがあります。

 イラクで日本人外交官殺害事件が起きた日、各マスコミは号外を発行しました。北海道新聞(道新)は一万八千部を札幌、函館、旭川、釧路の各市で配布。朝日新聞道支社や読売新聞道支社も札幌駅前や大通公園などで配布しました。買い物客や通行人が「えっ、本当!」と驚き、食い入るように読んでいました。

 「道新」読者センターは「海外のニュースですが、イラク情勢は道内では非常に関心が高いので発行した」といいます。

 その後も道内紙や全国紙道版は、道内自衛隊員、家族、市民の声を掲載するなどイラク問題に力を入れて報道。「自衛隊も狙われる=道内の家族、動揺=派遣できぬと言って!」(道新)、「『派遣有力』道内に波紋」(読売)など、道内の自衛隊員や家族、市民の不安の声を報じています。

 三十日午後、日本共産党が札幌市中心街で実施した街頭宣伝も、テレビ三社、新聞二社が取材し報道。「読売」は「演説とともに、派遣反対を訴える署名活動も行い、若者や主婦らが次々と応じていた」と報じました。

 社説でもイラク派兵問題を論評。「道新」は「(政府の方針が二転三転するのは)『最初に派遣ありき』で思考停止し、イラク人ではなく、米軍支援ばかり考えているからではないのか」(十一月十五日付)、「政府がやるべきは自衛隊派遣を急ぐことではない。…国連中心の復興支援体制を整え実行することがテロをなくすのにつながる」(一日付)と政府の方針を批判しています。

世論変化 広がる反対運動

 道内では派兵に不安を訴える道民の声や反対運動が広がっています。新婦人道本部の宣伝に足を止めた女性(63)は「日本は二度と戦争をしないといってきた。いまの戦争は大量殺人の戦争です。絶対に繰り返してはダメです」。札幌市北区の男子学生(27)は「(派兵は)やめた方がいい。(自衛隊が)行ったら狙われるし日本も報復されるかわからなくなる。恐怖を感じる」と署名します。

 各界の人々で組織する有事法制反対道民連絡会は、昨年三月から一年八カ月、毎週の宣伝(重要期は週二回)を百二十回、節々で二十回を超える昼デモ、退勤時デモなどの行動を続けています。

 「自衛官と市民をつなぐ人権ホットラインほっかいどう」(代表・坪井主税札幌学院大教授)は一日から電話「ホットライン」を開設しました。

 札幌弁護士会(伊藤誠一会長)は一日、緊急の声明を発表。「(自衛隊派遣は)アメリカ等占領者の協力者として格好の目標とされるばかりか、大使館員やイラク全土三十カ所以上で活動しているといわれるNGO関係者などのイラク国内の日本人が広く攻撃の標的とされる」と派兵に強く反対を表明しました。

 一日付「毎日」調査(全国)でも派兵反対派43%、慎重派40%、合わせて八割を超えるなど、世論が急激に変化しています。

 安保破棄道実行委員会の山下忠孝事務局長は「ただ『テロには屈しない』というだけの小泉首相には、真のイラク復興をどうしていくかの考えも方策もない。こういう政府に自衛隊員の命をどうこうする資格はない」と批判しました。


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