2003年12月4日(木)「しんぶん赤旗」
イラクで日本の外交官二人が襲撃を受け殺害されたのを機に、荒廃したイラクの復興支援と、日本の自衛隊派兵についての議論が、マスメディアでも一段と高まっています。
全国紙の社説でも、「二人の外交官の死――『たじろぐな』では済まぬ」と論じた「朝日」一日付や、自衛隊派遣に「反対」が43%、条件付きの「慎重」が40%になったという独自の世論調査をもとに「八割の国民の懸念に応えよ」と論じた「毎日」二日付などは、マスメディアとしての見識を示したものといえるでしょう。
ところが一方で、「イラク支援の戦列から退くな」という「読売」(一日付)や、「テロに屈してはならぬ」という「産経」(同)など、自衛隊派兵を急ぐよう求める、露骨な論調も強まっています。ブッシュ政権や小泉政権の主張をおうむ返しにした内容です。
日本人外交官の殺害を機にイラクの現状と自衛隊派兵への不安がいっそう高まっているとき、どうすれば荒廃からイラクが立てなおせるか、国際的な復興支援に何が必要かを検討しないで、「テロに屈するのか」とどう喝するだけでは、ジャーナリズムの名に値しません。派兵をあおる論説の貧困さは明らかです。
イラクで旧政権の残党や流入したテロリストが活動を活発化させ、事態がいよいよ泥沼化している根本原因は、米英の無法な戦争と不当な占領支配です。米英占領軍とイラク国民との矛盾が高まり、テロと暴力の土壌が広がっているのです。だからこそ、国連でさえバグダッドから撤退したように、国際的な復興支援も進まないのです。
自衛隊の派兵はそうした米英軍の占領支配を支援するものです。それは米英軍の占領とイラク国民との矛盾を拡大こそすれ、テロの根源を取り去ることにもイラクの復興を支援することにもなりません。事態を悪化させることは目に見えています。
「読売」や「産経」などの社説は、なぜこうした明白な道理を見ようとしないのでしょうか。
イラクの事態を打開に向かわせ、国際社会の復興支援を軌道に乗せるためには、米英主導の占領支配をやめ、国連中心の枠組みでの支援に切り替えること、そのもとでイラク国民に主権を返還し、米英軍が撤退することです。
この点では前出「朝日」の社説が「復興支援が進むような確かな土台を国際社会とともにつくる」ようもとめていることとあわせ、「毎日」が二日付一面で、「『立ちすくむ』勇気を」と題した外信部長名の論評を載せ、「この状況では、国連の復権が対立の構図を変える契機になるのではないか」と書いているのは注目されます。
「読売」や「産経」の社説には、イラクの事態の根本原因についての分析がないだけでなく、そこからどう抜け出すかの処方せんもありません。見通しもなく自衛隊の派兵に踏み出せばそれこそ事態を悪化させ、日本をテロと暴力の連鎖にひきこんでしまいます。同時にそれは日本自身が憲法を踏みにじり、戦争に参加していくことになります。
泥沼化するイラク問題は、マスメディアにとっても、その言論の質が試される重大事態です。事態の深刻化に慌てふためき、「テロに屈するな」と感情的に叫ぶだけでは、国の進路を誤導することにしかなりません。
(宮坂一男記者)