日本共産党

2003年12月4日(木)「しんぶん赤旗」

イラク派兵国で強まる撤兵要求

米同盟国に広がる犠牲


 日本の外交官二人がイラクで殺害される痛ましい事件の後も、小泉政権は自衛隊派遣強行の姿勢を崩していません。スペインなど米国に同調しイラクに派兵している国では、派遣兵士や民間人に犠牲が生まれるなか、撤兵を求める世論・運動が急速に高まり、政府を揺さぶっています。それぞれの国の国会では政府の責任追及が強まっています。四百人余の医療・工兵部隊を派遣しているタイはスラキアット外相が二日、撤兵も検討すると語りました。

 もともと、イラク派兵国は世界百九十一カ国中、米英両国を除いて三十カ国の少数にすぎません。イラクで戦争状態が続くなかで、戦争に反対した安保理常任理事国フランス、ロシア、中国、およびドイツなどは、米英軍の占領の早期終結と国連中心の枠組みによる復興支援とイラク国民への主権移譲を求めています。派兵国の政府は世界でますます孤立を深めています。


スペイン

7人死亡で撤退論急増

 以前から反戦世論が強かったスペインでは、イラクで十一月二十九日に七人の情報機関員が殺害された事件後、派遣部隊の撤退を求める声が急速に高まっています。

 事件前日に発表されたエルカノ研究所の世論調査によると、イラク戦争は行われるべきでなかったとの回答者が85%を占めていました。事件直後から有力紙ムンドがホームページで行っている世論調査によると、二日までの集計で二万五千人の回答者のうち一万六千人、ほぼ三分の二が派遣部隊の帰国を要求しています。

 メディアでは、事件後に現場のイラク人が遺体を足げにして気勢をあげる写真が流され衝撃を与えています。二日付ムンド紙は社説で、襲撃はもはやテロではなくイラク人の意思の表明だとし、「どの任務よりも自衛を中心とする部隊をイラクに派遣し続けることは、ますます無意味になっている」と、部隊の撤収を求めました。

 殺害された七人の国葬がとり行われた二日、イラク問題論議のための特別国会が開かれ、アスナール首相が出席して弁明し、「撤退はテロへの屈服だ」と改めてイラクに部隊を派遣し続ける意向を表明しました。

 これに対し最大野党の社会労働党ロドリゲス書記長はアスナール政権の「米政権への追従」を批判、「一面的な新国際秩序への支持、予防戦争概念への支持、国連の委任なき侵攻支持、大量破壊兵器という虚偽の口実、国連の委任なき占領、国会論議抜きの派兵、誤りの固執」をあげ「七つの誤り」を犯していると追及しました。

 また統一左翼の指導者リャマザレス氏は「首相は失敗した。いまイラクには安全も安定もない」と派遣部隊の「即時帰国」を要求しました。(パリで浅田信幸)


イタリア

即時撤退求めデモ各地で

 十一月十二日にイラク南部ナシリヤでの自爆テロで兵士十八人を失ったイタリアでは、即時撤兵を求める世論と運動が広がりをみせています。

 十一月中旬に発表された世論調査によると、68%の人が、今後数カ月のうちにイラクに駐屯するイタリア軍に再び同様の襲撃事件が起きると考えています。

 「ナシリヤの事件を受けて軍警察は帰国するべきか」という問いには56%が賛成。山岳地帯での戦闘に備える「山岳兵」のイラク駐留に反対という人は69%で、賛成の25%を大きく上回りました。

 ベルルスコーニ右派政権は「テロに屈しない」などと述べて撤兵を拒否していますが、野党の共産主義再建党、左翼民主(党)の一部や共産主義者党、緑の党が即時撤兵を強く求めています。

 十一月二十二日には、ローマ、ミラノ、ボローニャ、フィレンツェなどでイタリア軍の即時撤退を求めるデモ行進が行われ、それぞれ数万から数千人が参加したと伝えられます。

 ミラノのデモに参加した「イタリア社会フォーラム」のアニョレット代表は、戦争とテロは軍の撤退でこそ撲滅できると述べ、「撤兵は逃避でもテロへの屈服でもない」と強調しました。


デンマーク

野党が公聴会要求

オランダ

増派の審議は難航

ポーランド

駐留反対が67%に

 現在イラクに派兵しているデンマーク、オランダ、ポーランドなどでも派兵反対の動きが強まっています。

 ●デンマーク

 イラク南部のバスラで八月半ば、デンマーク兵一人が死亡しました。同国の野党、社会人民党は「なぜデンマークが戦争に参加したのか。大量破壊兵器を持っていたのか」とのテーマで公聴会を要求しています。

 イラク南部ナシリヤのイタリア警察軍への自爆テロ攻撃直後には、ラスムセン首相が「むずかしい判断」としながら派兵の継続を言明。その一方、一部に出ていた増派の意見は「兵士の安全が第一、状況をきちんとみきわめる必要がある」と否定せざるを得ませんでした。

 有力紙ポリティケンは「デンマークの政治家は国連の承認のない、いつまで駐留するかもはっきりしていない戦争に自国の兵士を派遣していいのかどうか真剣に再検討する機会だ」と派兵撤回を求めました。

 ●ポーランド

 ポーランドはイラク中部に兵士約二千三百五十人を派遣し、二十一カ国約九千人の兵士の指揮を米軍から任されています。十一月初めに派遣軍の車列が攻撃され、兵士一人が死亡しました。最新の世論調査でイラクでのポーランド軍駐留に反対するとした人は67%とポーランド兵の初の死者が出る前の十月調査時から10ポイントアップ、三分の二に達しています。

 イラク駐留継続をいう政府に対し、議会では議員グループ「自衛」とポーランド家族同盟が派兵に反対を表明。「自衛」のアンジェイ・レッペル氏は「イラクはわれわれの土地でもなければ、この戦争はわれわれの戦争でもない」と批判、ポーランド家族同盟も「憲法と矛盾している」と議会で追及しました。

 自国の兵士の死者が出た後、週刊誌『ニー』は「ポーランド人の犠牲者が出ることは目に見えていた。当局は国民に相談することなく、米国の侵略戦争を支持し、イラク占領に参加している」と非難。「政府はサダム・フセインが大量破壊兵器を持って使用しようとしているとウソをついた。テロリストは米兵がイラクに現れたときからイラクに集まり始めたのだ」と論じています。

 ●オランダ

 自衛隊の派遣予定地のイラク南部サマワに千百人の部隊を派兵しているオランダは十一月二十八日、政府がイラクに駐留するオランダ軍の駐留期限を延長し、部隊の安全のためとして約七十人の特殊部隊の増派を決定しました。しかし、議会内外での反対意見は強く、五日に予定される議会の承認を得るには審議の難航が予想されています。

 十一月三十日にはマーストリヒトで、オランダ部隊の帰還と米軍のイラク撤退を求めるデモが行われました。国内で「オランダ兵の命を保障できるのか」との意見は強く、野党の労働党は「米国がもっと治安情報を提供すべきだ」と米国の秘密主義を批判しています。(ベルリンで片岡正明)


ウクライナ

部隊引き揚げの法案提出

 イラク南部に千六百人余りを派兵しているウクライナでも、派兵反対の声が広がっています。十月末に機械化部隊の兵士七人が攻撃を受け負傷したあとの世論調査では、反対が八割近くに達しました。

 「イラクにいるわが国の軍隊は(復興に)役立っていないと、ますます多くの人が考えています。何より、派兵は国連決議にも基づいていません」。ウクライナ最高会議(国会)のイーゴリ・アレクセーエフ国際小委員会委員長(ウクライナ共産党)は二日、強調しました。

 同議員らは先月、イラクでの自国兵士に対する攻撃をうけて、部隊引き揚げのための法案を提出しました。

 「政府は米国の圧力で派兵を強行しましたが、私たちは他の野党とともに反対を続けています。派兵はウクライナの国益とはまったく関係ありません」

 同議員らは現在、引き揚げ法案の審議入りと採択を目指して他会派に働きかけています。(モスクワで田川実)


韓国

「派兵方針の撤回」が56%

 十一月三十日にティクリット近郊で二人の韓国人電気技師が武装勢力に殺害された事件後、韓国ではイラクへの派兵撤回を求める世論が急増しています。韓国は現在、六百七十五人の医療・工兵部隊をイラク南部に派遣中。さらに米国の求めに応じ、三千人規模の追加派兵計画を策定中です。

 全国ネットテレビ局MBCが二日に実施した世論調査によると、「派兵方針を撤回すべきだ」が56・8%で、「推進すべきだ」の40・4%を大きく上回りました。注目されるのは、撤回すべき理由として「米国の侵略戦争に加わる必要はない」が45・7%でもっとも多く、「現地の治安悪化」の33・6%より多いこと。大義のないイラク戦争そのものへの批判が根底にあります。

 盧武鉉大統領は三日、イラクから戻った国会議員調査団との朝食会で、「国会で派兵同意案が採決されるまで多くの議論があるだろうが、政府としては遅滞なく(追加派兵を)推進する考えだ」と言明。派兵の理由を「北朝鮮の核問題など安保上の重要な懸案があり、これを解決するためには米韓関係を強固にしなければならない」と主張しました。

 政府が派兵を強行する姿勢を見せていることに対し、ソウルでは三日、三百五十一の民間団体でつくる「イラク派兵反対国民行動」が米大使館近くで、殺害された技師の追悼式を行いました。参加者は政府に対し、追加派兵計画を撤回し、すでに派兵している医療・工兵部隊を撤退させるよう求めました。


派兵をしなかったインド、パキスタン、トルコ

「賢明な決定」「劇的な決断」

 ●インド

 米国からイラク派兵を強く要請されていたインドは七月半ば、「国連の委任がない」として派兵要請を拒否しました。その後、イラク情勢が泥沼化するなか、シンハ外相は、十一月二十四日付フィナンシャル・エクスプレス紙のインタビューで、イラク派兵を拒否したことは「極めて賢明な決定だったとだれもが敬意を表している」とのべ、派兵拒否決定の正しさに自信を示しました。

 ●パキスタン

 パキスタンも派兵を見送った国の一つですが、その決断は劇的でした。ムシャラフ大統領は九月半ば、国連総会出席のため訪れたニューヨークでブッシュ米大統領と会談し、「国内は派兵に完全に反対している」と発言、イラクへの派兵拒否を明確にしました。

 ●トルコ

 イスラム圏の有力国として米国がイスラム諸国の派兵の呼び水になると重視していたトルコは、国会が十月、いったん一万人規模の派兵を決定しました。しかし、イラク統治評議会とトルコの国内世論の激しい反発にあった結果、「無理に派兵しない」(エルドアン首相)ことを決めました。


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