2003年12月4日(木)「しんぶん赤旗」
〈問い〉 政府は労災保険の民営化を検討しているそうですが、どんな問題がありますか。(兵庫・一読者)
〈答え〉 戦後、労働者の権利を定めた憲法のもとで制定された労働基準法は、労働災害への使用者の補償責任を明記しました。違反は懲役・罰金の対象です。労災補償は、はたらくものの当然の権利として保障されているのです。この人権保障を確実にするため政府が補償責任を代行するのが労災保険(労働者災害補償保険)で、事業主から保険料を徴収し、労働災害や通勤災害などに給付しています。労働者を一人でも使用する事業主は、原則として加入を義務づけられています。
いま政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、労災保険の「民営化」「民間開放」を検討中です。十月七日、同会議は「規制改革推進のためのアクションプラン」の「重点検討事項」に「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」などを追加しました。十一月十日の同会議の提出資料では、保険収支が黒字で介護補償・障害補償・遺族補償も給付していることを「本来の趣旨を逸脱」と非難、同じ強制加入の自賠責保険(自動車賠償責任保険)のように、保険の運営を民間保険会社などに委ねるべきだと主張しています。
しかし、民事上の損害賠償などのリスクを分散する自賠責保険と、労働者の人権保障が目的の労災保険は根本が違います。調査・監督権限をもつ政府が保険業務も行うことで迅速な労災認定も可能となりますが、民間会社では被災者に過度の立証責任を課しかねず、経営破たんすれば給付も危うくなります。
現在の労災保険は、被災者への給付を極力制限したり、必要のない施設を造り官僚が天下りするなどの問題があり、補償充実など人権保障の目的に立ち返らせることが課題です。逆に補償制度の一定の前進も「逸脱」とする「民間開放」論は、保険会社などの利益優先で弱者を切り捨てるものです。
(清)
〔2003・12・4(木)〕