日本共産党

2003年12月5日(金)「しんぶん赤旗」

「ミサイル防衛」特需

日米軍需企業 売り込み攻勢

武器輸出の緩和、集団自衛権迫る


 総額6兆円に達するという試算がある「ミサイル防衛」――。政府は近く、導入を正式決定する方針を固めており、「特需」を狙う日米軍需企業が売り込みの大攻勢に出ています。与野党の国防族議員と連携し、武器輸出三原則の緩和や集団的自衛権行使の容認まで迫っています。(竹下岳記者)


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地対空誘導ミサイル・パトリオットPAC3を発射した瞬間(米ロッキード・マーティン社「ミサイル防衛」宣伝ビデオから)

 十一月二十五日まで東京都内の憲政記念館で政・財・官の関係者多数を集め、「日米安全保障戦略会議」(以下、戦略会議)が開かれました。日本の「新防衛戦略」や「ミサイル防衛」などをテーマに、自民、民主、公明各党の国防族議員でつくる「安全保障議員協議会」などが主催したものです。

 なかでも目を引いたのは「ミサイル防衛」の特別展示でした。弾道ミサイルを撃ち落とすための米国製迎撃ミサイルの実物大模型が登場。モーターショーさながらに、ロッキード、ボーイング、グラマン、レイセオンなど米国の主要軍需企業が展示場にブース(出展者ごとの専用区画)を設け、担当者が自社“製品”を宣伝しました。

 ブースでは、迎撃ミサイルが仮想敵のミサイルや航空機を撃墜するビデオも流れ、画面には時折、北朝鮮の金正日総書記の姿も。担当者いわく「日米は共通の脅威にさらされている」。石破茂防衛庁長官は会議初日と最終日の二回も会場を訪れ、説明に聞き入りました。



■米国家プロジェクト

 「ミサイル防衛」システムは、敵対国家・勢力のミサイル攻撃を無力化することによって、核兵器を含む米国の軍事的優位をいっそう揺るぎなくし、報復の心配なく先制攻撃を可能にしようというものです。ブッシュ米政権は、世界覇権主義戦略の重要な柱に位置付けています。

 その推進のために米国防総省のミサイル防衛庁に設置された「ミサイル防衛ナショナルチーム」には、今回展示をした米主要軍需企業が参加。国家プロジェクトとして、軍産一体で世界的に「ミサイル防衛」の売り込みを展開しています。

 「戦略会議」に先立つ六月には、米国と同盟国の国防・財界関係者が毎年開催している「BMD(弾道ミサイル防衛)国際会議」を、日本で初めて開催しました。日本が「ミサイル防衛」導入に動き始めた「今が好機」(同会議の関係者)と判断したためです。二十カ国から八百人が集まり、図上演習なども実施。当時の赤城徳彦防衛庁副長官も出席しました。

 今回の「戦略会議」の開催も、「ミサイル防衛への世論の理解を得るため」(同)といいます。


■軍事費拡大の要求も

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「戦略会議」で配布された米軍需企業の「ミサイル防衛」のパンフレット

 一方、日本国内の軍需企業も「ミサイル防衛」の“市場”確保に向け、動きを強めています。米国から装備やシステムを輸入するだけでは、みずからの利益につながらないためです。

 「戦略会議」のシンポジウムでは、国内最大の軍需企業・三菱重工の西岡喬会長が、「武器輸出三原則の見直し」と「ミサイル防衛」関連装備の「ライセンス生産」を求めました。

 政府は、憲法の平和原則にもとづく武器輸出三原則で、兵器の輸出を事実上全面禁止しています。これを緩和すれば、「ミサイル防衛」関連装備で、米企業との共同開発・生産が可能になります。「ライセンス生産」は、米国からライセンス(認可)を得て、国内で生産する方法です。

 「ミサイル防衛」には巨額の予算を投じるため、国内軍需企業には「既存の防衛関連分野の予算が削減されるのでは」(企業関係者)という危機感もあります。日本防衛装備工業会の佐々木元会長(NEC会長)は、約五兆円にのぼる既存の軍事費とは別に、「ミサイル防衛」のための「特別枠」を設けるよう主張(『経済界』十一月十八日号)。新たな軍事費拡大を求めています。


■米軍指揮下に組込み

 「ミサイル防衛」推進のため、政府も、憲法上許されないとする集団的自衛権の行使を認めるべきだという声も強まっています。

 防衛庁は「ミサイル防衛」について「第三国の防衛に用いるものではないため、集団的自衛権の問題は生じない」「主体的に計画を進める」と説明し、導入を正当化しようとしています。

 これに対し、「戦略会議」のシンポジウムで、ウィリアム・シュナイダー米国防長官顧問は「北朝鮮が米国を狙って撃ったミサイルが、日本に着弾することもある。集団的自衛権の問題をどう考えているのだ」と迫りました。日本防衛装備工業会の木下博生理事長も、集団的自衛権の問題について「今後、日本として検討すべきだ」と主張しました。

 シュナイダー氏は、防衛庁が弾道ミサイルを海上自衛隊のイージス艦で独自に探知可能だとしていることについても「(米国の)探知衛星が不可欠だ。これがなければ、イージス艦のレーダーを照射する方向が分からない」と否定しました。

 米ミサイル防衛庁はすでに、「ミサイル防衛」のために、「統合国家インテグレーションセンター」を設置しています。米本土や同盟国を単一の指揮下におくシステムです。日本がいったん「ミサイル防衛」に参加すれば、米軍の指揮・統制のもとに完全に組み込まれ、集団的自衛権の行使は避けがたいものになります。


■自・公・民議員後押し

 「安全保障議員協議会」は、米国や日米軍需企業の意向を全面的に後押ししています。同協議会が「戦略会議」で公表した提言は、「ミサイル防衛体制の推進−集団自衛権行使論議の克服」や「武器輸出三原則の見直し」を打ち出しています。

 「ミサイル防衛」は、憲法の平和原則を破壊し、アジア地域での新たな軍事的緊張を引き起こすものです。同時に、日米軍需企業の利益のために莫大(ばくだい)な国民の税金を投入するもので、政府は導入計画をただちに中止すべきです。


 武器輸出三原則 事実上、国産兵器の輸出を全面禁止した原則。1967年に(1)共産圏諸国(2)国連決議で武器輸出が禁止されている国(3)国際紛争の当時国を輸出禁止対象としました。加えて76年、「三原則対象以外の地域は、憲法の精神に則って、武器の輸出を慎む」との政府統一見解が出されました。


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