2003年12月6日(土)「しんぶん赤旗」
米英による占領下のイラクでは、「武装組織掃討」の名で米軍が軍事作戦を展開し多数の一般市民の犠牲者を出す状況が続いています。こうしたなか、小泉政権は米国の要求に応えて、自衛隊のイラク派遣計画を強引にすすめようとしています。イラク問題の解決は中東と世界の平和のためにも急がれています。日本共産党は、この問題が国連安保理などで取り上げられるなかで、平和的解決を主張し、そのことを世界各国に訴えてきました。戦争が始まったときにも大義のなさを指摘し、戦争の停止を求め、また占領をやめるよう主張してきました。そして三日、日本共産党中央委員会として、国民への訴え「イラクへの自衛隊派兵 この歴史的暴挙をくいとめる行動に立ちあがろう」を発表しました。
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ブッシュ米大統領は五月一日、「大規模戦闘の終結」を宣言しました。しかし今では、米当局者自身が「戦争状態」(十一月十一日、サンチェス占領軍司令官)と認めています。
米軍は六月中旬以降、大規模な掃討作戦を進め、一般市民の家宅捜索などを行い、十一月十二日には「鉄のハンマー」作戦を開始し、首都をはじめ各地で空爆も再開しました。十一月三十日にはバグダッド北方のサマラで武装住民からの攻撃をきっかけに米軍が一般市民に無差別発砲し、多数の死傷者を出しています。
英紙フィナンシャル・タイムズはサマラ発の記事で、この半年で市民はすっかり反米になったと詳しく報じています。
英国の独立調査機関が最近イラク国内で行った世論調査によれば、今やイラク国民の八割が「占領軍を信頼していない」といいます。まさに、国連のアナン事務総長が「占領が続く限り、抵抗は拡大する」(十月十四日)と指摘した通りの状況になっています。
占領が続くなか、八月にはバグダッドの国連現地本部が爆弾テロに襲われ、十月には赤十字国際委員会事務所付近で連続爆弾テロが起きました。
国際テロリストがからむとみられるテロは、さらにイラク国境を越え、サウジアラビア、トルコでも発生しました。とくにトルコのイスタンブールで十一月十五日に続いて二十日に起きた自爆テロは、米国のイラク占領体制を支える英国の総領事館と同国系HSBC銀行を狙ったものでした。
イラクの混迷についてドビルパン仏外相は、テログループや民族主義的な抵抗派、イスラム原理主義が混然一体となって(米英などの)「連合軍」とたたかっていると述べ(仏紙ラクロワ)、米英の占領がテロリストの策動の場を提供していると指摘しています。
レバノンのサマハ情報相も「正義なくしてテロの根源と原因を取り除くことはできない」と警告しました。
米国の新聞も「米軍の占領がアルカイダを元気づけている」(ボルティモア・サン)と指摘しています。
米国は十一月十五日、来年六月末までに占領統治を終わらせ、イラクに主権を移譲することでイラク統治評議会と合意しました。これは米国が自らの占領支配の矛盾を認めた結果です。
しかし、多くの問題があります。
第一に、合意は米英占領軍は暫定政府発足後も、「イラクの治安確保に必要で広範な裁量を維持」するとし、駐留を継続、暫定政権とその後に発足する正式政府への実質的コントロールを定めています。これは「主権の移譲」といえるものではありません。
また主権の移譲にあたって国連の役割についてまったくふれていません。米国は国際世論に譲歩したように装いながら、形を変えて占領を続けようとしているのです。
合意にはイラク国内からも批判の声があがっています。イスラム教シーア派の有力組織・イスラム革命最高評議会議長で統治評議会議長でもあるアブドル・アジズ・ハキム師は「国連の役割が減じられている。私はそれがイラク国民にさらなる困難をもたらす結果になることを恐れている」と述べました。
暫定政権を選出する暫定国民議会の選出についても、「直接選挙で民主的に選出するべきだ」との声がイラク人口の過半数を占めるシーア派勢力からあがっています。米国はこれに応えていません。
小泉首相は十一月三十日にいいました。「日本はイラク人道復興支援に責任を有する国だ。どんなテロにも屈しないという方針は変えない」
無論、テロは許せません。しかし、不法な占領支配そのものが暴力とテロの土壌を広げる原因となっています。
「復興支援」のためといいますが、事実上「全土戦争状態」のイラクへの派兵は、米英占領軍を軍事的に支援し、無法な侵略戦争に参戦することで泥沼化をいっそう進めることにしかなりません。
そもそも自衛隊の派遣は、戦争を放棄し、軍隊をもたないと宣言した憲法九条を踏みにじる行為です。
政府は「戦闘地域にはいかない」といっていますが、そんな場所はありません。ある自民党政治家も「自衛隊がゆくところが戦場になる」と指摘しているほどです。
イラク派兵は、「自衛隊に入ったのは日本を守るためで、他国の戦争に協力するためではない」という多くの自衛隊員の思いを無視するものです。それは、イラクや中東諸国との友好関係を一挙に悪化させることにもなるでしょう。
イラクの状況が深刻化している根本原因は、米英両国が国連憲章と国際法を無視して戦争を始め、その後も不法な占領を続けていることにあります。その解決には、占領支配を一日も早くやめ、国連中心の復興支援の枠組みに移し、そのもとでイラク国民にすみやかに主権を返還し、米英軍を撤退させる必要があります。それがテロ問題を解決する唯一の道でもあります。
国連のアナン事務総長は九月の国連総会で、イラクに対する米国の先制攻撃戦略を国連憲章に違反するものだと非難。フランス、ロシア、中国の安保理常任理事国やドイツをはじめ、大多数の国が一貫して「国連中心」による解決を主張しています。
アラブ連盟のムーサ事務局長は十月末、カイロで会談した川口外相に「イラクの主権回復と外国軍の撤退をいかに行うかの提案がいま必要だ」と強調しました。
五十六カ国とパレスチナ解放機構が加盟するイスラム諸国会議機構(OIC)は十月の首脳会議で、(1)国連が中心的役割を果たす(2)完全にイラク国民を代表する政府の樹立(3)イラクの完全な主権回復─を強調しました。
占領下で米企業がイラクの経済を牛耳り、石油資源がイラク国民に還元されないまま失業問題なども深刻化している状況や、スンニ派とシーア派、クルド人などとの和解など、イラク国内の「混乱」の要素をなくす展望も、占領支配の終結によって開けます。
テロリストの策動も、イラク独立を求める愛国勢力をすべて結集して孤立させることこそ最善の策です。そのためにも、イラク人主体の国づくりへのすみやかな移行が求められます。
イタリア政府から派遣されて十月から暫定行政当局(CPA)の任務についていたマルコ・カラマイ氏は十一月十六日、占領体制に抗議してCPAの職を辞任しました。同氏はイタリア紙にその動機を語り、イラク復興を国連主導へ転換することを主張しています。
コリエーレ・デラ・セラ紙によると、同氏は「CPAは非効率、近視眼的であり、経済的視点からも政治的視点からもイラクを再建する能力がない」と指摘。イラク国民の所得が低くなっている中で、CPAが「財政問題を口実に」、医療、教育分野で活動するイラク人を解雇したことを批判しています。
別のインタビューでカラマイ氏は、CPA資金のほとんどが米国企業に向けられていると告発。CPAの運営が「(国民の)幻滅、社会的迷惑と怒り」を生みだし、「テロが行われやすく」していると指摘しています。さらに、「CPAは機能していない。国連が必要だ」「国連によって運営され欧州の特別の役割を伴った国際的シナリオだけが、事態を改善できる。これまで米国が追求してきた政策の根本的転換が必要だ」と述べています。