2003年12月7日(日)「しんぶん赤旗」
小泉首相が「三位一体改革」を進めるためにかけた“補助金一兆円削減”の大号令で、福祉・教育が狙い撃ちにされています。暮らしに欠かせない補助金(国庫補助負担金)を強権的に削り込む政府のやり方が、国民や地方団体などの反発を招いています。
生活保護 |
「削減されたら、たまらない」。三日、国会内で行われた全生連(全国生活と健康を守る会連合会)の厚生労働省との交渉で怒りの声があがりました。
いすが足りず、床に座り込んで話を聞く参加者。「生活保護が決まり、保護費を支給するとき、同時に(数カ月後には)辞退届を出すことを条件にしている」など、今でもひどい給付抑制の実態が告発されました。
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補助金一兆円削減方針で、厚労省に割り当てられた削減額は二千五百億円。これを達成するため、同省は、生活保護費と児童扶養手当の国庫負担率を四分の三から三分の二に切り下げること(削減額は千九百億円)を打ち出したのです。
生活保護は、憲法二五条の生存権に基づき、健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度です。病気や失業などで生活に困っている人たちに、月約十六万円(三人世帯、東京二十三区など都市部の場合)を基準に支給されます。長引く不況で保護世帯数は過去最高(九十三万九千世帯、今年九月)です。
「国として果たすべき役割が大きい」(厚労省保護課)ため、初めは国庫負担率八割、今も四分の三を負担しています。
ところが厚労省の削減方針は、憲法に根拠をもつ重要な国庫負担にもかかわらず、削減の是非をまともに検討した形跡は見えません。
「国の責任の後退を意味するものであり、単なる地方への負担転嫁」「弱い立場にある住民の生活に大きな悪影響を及ぼす」。全国知事会と全国市長会も、「緊急意見」でこう批判しました。
国庫負担率引き下げが強行されれば、保護費を減らすため、窓口での給付抑制や受給者への実情を無視した就労の強要がいっそう強まることが懸念されています。
生活保護では、老齢加算(七十歳以上)や、母子家庭の生活困窮者を対象にした母子加算の廃止を検討中で、扶助基準引き下げなどの圧力も強まっています。
先の厚労省交渉に福岡県飯塚市から駆けつけた藤原房恵さん(70)は、「夫婦で十三万円の保護費。老齢加算(二人で約三万円)が引かれたら生活できない」と訴えます。
保 育 |
生活保護での地方団体の反発を受け、補助金削減の「ノルマを果たせないのなら」と総務省が持ち出したのが、全国に二万二千カ所ある認可保育所運営費の国庫負担金削減です。このうち、千七百億円とされる公立保育所分を削れと迫っています。
保育料を除く費用の半分を占める国庫負担が削られたらどうなるのか。
「公立保育所の民営化がより加速されるでしょう。待機児解消など市町村の保育行政の拡充こそ必要なのに、ブレーキがかかる。市町村が独自に加算している分も削られるのではないか」
こう話すのは、全国保育団体連絡会の事務局次長、逆井直紀さんです。
実は、国庫負担は国の最低基準に基づくもので、多くの自治体では独自に予算を追加(加算)して、保育料を下げたり、保育士の手厚い配置で保育内容の充実に役立てています。国庫負担分の地方転嫁で負担が増す自治体は、独自加算分を減らしたりやめてしまう危険がある、というのです。
「そうなれば、今より保育料が値上げされたり、保育士が減らされることになるため、保育の水準が後退します。体制が取れないという理由で、いっそうの入所抑制も懸念されます」(逆井さん)
義務教育 |
公立小中学校の教職員の人件費の半分を負担する義務教育費国庫負担制度は、各省で削減の競い合いの様相です。
文部科学省は初め、教職員の退職手当など二千三百億円の削減案を示しました。
これに待ったをかけたのが総務省です。「将来、団塊の世代(の教職員)がどっと辞めていくので、退職金が急激に膨らむ」(麻生太郎総務相)と反発。給付を減らしにくい退職手当だけ地方に押しつけられても困る、というのです。代わりに総務省が提案したのが、少人数指導などのため別枠で配置している加配教員と事務職員の国庫負担削減(三千百億円)です。
義務教育費の国庫負担制度は、憲法の教育を受ける権利に基づき、全国どこに住んでいても同じ条件で義務教育を受けられるようにするためのものです。国の負担削減でしわ寄せを受けるのは、財政力のない地方で、教職員や給与の削減にもつながり、全国的な教育水準を子どもたちに保障するうえで大きな困難を抱えることになります。
「義務教育費国庫負担制度の堅持を」という声は、日本PTA全国協議会や全国連合小学校長会、全日本中学校長会など相次いでいます。全国市町村教育委員会連合会のアンケートでは、市町村教育委員会の九割が「義務教育費国庫負担制度は必要」と答えています。
「三位一体改革」 小泉内閣が、(1)国庫補助負担金の削減(2)地方交付税の見直し(3)地方への税源移譲を含む税源配分の見直し―の三つをセットですすめています。 国庫補助負担金 国庫負担金(法令にもとづき国に支出を義務付けているもの)と、国庫補助金(特定の事業・事務の奨励ですが、福祉・教育の制度として定着しているものが多い)があります。 |
“地方でできることは地方へ”と「三位一体の改革」をうちだした小泉内閣。笛吹けど各省の足並みがそろわず、小泉首相は補助金削減の先導で「三位一体改革」を軌道にのせようと大号令をかけたのです。ところがでてきたものは暮らし切り捨ての補助金削減がゾロゾロ。それも今回で終わりではありません。来年度から三年間で四兆円削減の大方針を立てているのです。
地方向け国庫補助負担金の八割は社会保障、文教関係で55%は厚労省の所管。四兆円削減なら厚労省の「ノルマ」は二兆円だ−−。こうはじいたのは、ほかならぬ坂口力厚労相。
「二兆円は厚生労働省で引き受けなければならないという話になる。覚悟しなければならない額だ。その中で保育所の問題も多分入ってくる」「生活保護も児童扶養手当も、この三年間、二兆円のことを考えると、どこかでは出さなければならない」(二日と十一月二十八日の記者会見で)
順番の違いはあれ、生活保護も児童扶養手当も保育所も、全部手をつけるというのです。同省の補助金にはほかにも、国民健康保険や老人医療、介護、障害者など、社会保障の根幹にかかわるものが大半を占めます。
それを、機械的に厚労省は二兆円削減と受け入れては、国民生活は大変なことになります。
「三位一体改革」といいながら、政府内で検討されている「税源移譲」は、たばこ税を軸に五千億円程度にとどめる方向です。これでは単純計算でも補助金削減分と差し引き、地方には五千億円ものマイナスになってしまいます。 地方への「税源移譲」とは、国税の一部を地方税に移して地方自治体の税収を増やすことです。移す税源は「基幹税の充実を基本に」(骨太方針第三弾)とされ、所得税などを中心におこなうとしていました。それを縮小・先送りしようという動きです。 もともと小泉内閣が掲げる「税源移譲」は、補助金削減分の「八割程度」しか地方に渡さない方針です。義務教育など地方で継続する事業についても「徹底的な効率化」が前提です。自治体による住民サービスを厳しい状況に追い込む「改革」となっています。 都市と農村にある税収の格差を埋めている地方交付税の「財源保障機能」(どの自治体でも標準的な行政ができるようにする)についても、「縮小していく」(骨太方針)としています。 こうした動きにたいしては政府主催の全国都道府県知事会議(一日)でも「地方へのツケ回しだ」「構造改革でも何でもない」と厳しい批判が集中しました。 三日の全国町村長大会は「国庫補助負担金の廃止・縮減を先行実施するなど、単なる地方への負担転嫁は絶対におこなわないこと」との緊急重点決議を採択。反対世論が広がるなか、強引な補助金削減は撤回・見直しを迫られています。 日本共産党は、住民サービスを守るために必要な国庫補助負担金の廃止や削減には反対です。 やめるべきは「ひもつき補助金」の中心になっているムダな公共事業への補助金です。これをやめて、自治体がみずからの基準と裁量で事業がすすめられる「総合補助金制度」を導入することを提案しています。 また、税源を移譲されても農村部などでは財源が不足する自治体も出てきます。そのため、地方交付税の「財源保障・調整」の仕組みを充実させて、自治体の財源を保障していくことを主張しています。 |