2003年12月11日(木)「しんぶん赤旗」
イラクへの自衛隊派兵の基本計画決定を受け、小泉純一郎首相は記者会見(九日)で「(自衛隊は)武力行使はいたしません。戦争に行くんではないんです」と語気を強めました。しかし、政府自身が、憲法で禁じる海外での武力行使を行わないための制度的担保だとしている「非戦闘地域」が、イラクのどこにあるのかの説明はいっさいありませんでした。
イラク特措法は、自衛隊の活動について「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施する」とし、いわゆる「非戦闘地域」での活動を定めています。
記者会見で「イラクではテロが相次ぎ、非戦闘地域がいつ戦闘地域に変わるかわからない」と問われた首相は「可能性をいわれればきりがない」というだけでした。
政府は、イラク特措法の審議で、「非戦闘地域」について「わが国が海外において武力の行使をしないということを明確にするための制度的担保」(石破茂防衛庁長官、衆院イラク特別委員会、六月二十五日)だと説明。そこでの活動は「憲法上、当然の要請」(同、六月二十六日)だと繰り返してきました。
ところが、九日に閣議決定された基本計画では、自衛隊の活動は「非戦闘地域」で「実施されるものである」と書いているだけです。「イラク南東部」といった活動区域の「範囲」は決めたものの、そこに「非戦闘地域」の要件を満たす地域があるのかないのかの説明はまったくありません。首相も記者会見で「武力行使はいたしません」と声を張り上げたものの、「憲法上、当然の要請」である肝心要の問題について説明を避けたのです。
「非戦闘地域」の定義でいう「戦闘行為」について政府は「国または国に準ずる者による組織的、計画的な武力行使」と説明しています。これ自体、「戦闘行為」の範囲をきわめて狭く定義したものです。しかし、政府は、「夜盗、強盗のたぐい」による襲撃は「戦闘行為」にはあたらないとしつつ、旧フセイン政権残党勢力による組織的、計画的な攻撃は「戦闘行為」にあたるとの見解を示してきました。
いまイラクで激化している米占領軍などへの攻撃が、旧フセイン政権残党勢力などによる組織的、計画的なものである可能性を、米軍当局者を含め多くの関係者が共通して指摘しています。
政府自身も「(イラク)国内における戦闘が完全に終結したとは認められない」(二日閣議決定の答弁書)とし、同国内で「戦闘行為」の発生が続いていることを認めています。しかも、イラク特措法は「非戦闘地域」について、現に「戦闘行為」が行われていないだけでなく、活動の全期間を通して「戦闘行為」が予測されない地域としているのです。
米占領軍の現地司令官が「戦闘地域」と「非戦闘地域」の「区分は困難」、「全土が戦闘地域」と言明するイラクの現状に照らせば、同国にイラク特措法が定める「非戦闘地域」が存在しないことは明らかです。
イラクへの自衛隊派兵は、憲法はもちろん、政府みずからがつくったイラク特措法にさえ反することになります。このことにまったく口をつぐんだまま、「自衛隊は武力行使はしない。戦争には行かない」というのは、国民をだまし、あざむくものです。(榎本好孝記者)