2003年12月14日(日)「しんぶん赤旗」
来年度年金「改革」の政府案づくりに向けた動きに高齢者も不安いっぱいです。年金受給者からは「いま、私たちが受けている年金額は、生活にぎりぎりの額」「これ以上給付減、負担増されたら、高齢者は生きていけなくなる」の声があがっています。その実情を川崎市にみてみました。
|
市内川崎区の山本庄平さん(69)は、若いころ鉄骨建築職人でした。当時鉄骨建築職人は、活気ある京浜工業地帯で引っ張りだこ。大企業の孫請け、ひ孫請けといった会社を転々として働いていました。
多くは年金など社会保険に入れてもらっていませんでした。
結婚後「年金も無いんじゃ」と将来不安から鋳物工場に転職、ここで厚生年金に入りました。
鉄骨建築職人の期間に一社だけ三年間厚生年金に加入していた期間があり、これを含め、厚生年金加入期間が二十八年になりました。いま月額十六万円の老齢厚生年金を受けています。
妻のよし子さん(65)は厚生年金と国民年金の加入期間がありますが、加入期間が短いため年金額は月約十万円です。
マンション住まいでローンも払い終わっていますが、出費は多い。マンション管理費と積立金に二万円、国民健康保険料七千円、介護保険料二人分で六千六百円、庄平さんの腰痛症とよし子さんの高コレステロール治療に一万数千円。これら五万円近くを毎月支出しなければなりません。
これに光熱費、電話代、交際費…。年金だけでは生活できず、よし子さんは、時給八百円のパートで働いています。
庄平さんは「年金生活に入ったら、旅行をしよう、好きな海釣りにも行こうと思いをめぐらせていたが、夢と消えている」といいます。
全日本年金者組合川崎みなみ支部の執行委員、桜井重夫さん(73)はいいます。
「年金生活者には、年金だけに頼った独り暮らしの高齢者がたくさんいます。わずかな額でぎりぎりの生活の人が多い」
桜井さんは、アパート家賃を息子に仕送りしてもらってやりくりしている年金生活の女性、午後六時以後に食料品を値下げする店を探し、その時刻にだけ買い物をする人などの苦労を見聞きしています。
山本さんの近くに住む野中栄美子さん(80)の年金は月額四万五千円。長男と一緒にくらしています。
野中さんは「私のように子どもと暮らす人はいいのですが、国民年金だけを受けている独り暮らしの人は大変。病気になっても医者に行けない人もいる。戦前、戦後と大変な混乱の中を生き抜いて、老後だけは不安無く過ごしたいと思ったのにとんでもない」といいます。
庄平さんは「いまの年金の水準で多くの高齢者が苦しんでいる。この上もっと悪くするような政治は許せない」と憤ります。
桜井さん、野中さんもいいます。
「年金ばかりでなく、医療とか社会保障もどんどん悪くなっています。こんなことを許しておけば、未来は暗たんたる社会になります」
年金「改革」に向けた政府案づくりが大詰めを迎えていますが、その方向は、負担増と給付削減です。保険料を年々引き上げて厚生年金13・58%(労使折半)を20%にする、国民年金1万3300円を1万7300円にする、などが検討されています。給付についても、少子化、経済情勢などで自動的に引き下げる装置(マクロ経済スライド)が導入され、厚労省のモデル年金で、現在現役世代の年収の59・4%の給付を50%程度に下げられます。
年金額は今年4月から「物価が下がったから」として0・9%引き下げられました。政府は、来年4月から、今年の下落分だけでなく過去の物価下落分を含め2・1%の引き下げの方向を打ち出しています。それに加え「改革」案では、既に年金を受けている人にも、年金自動削減装置のマクロ経済スライドを適用する、としています。
(注)老齢年金の平均月額 厚生年金十七万四千八百三十九円 国民年金五万千六百八十四円(二〇〇一年度末現在、社会保険庁「事業年報」から)