日本共産党

2003年12月16日(火)「しんぶん赤旗」

フセイン元大統領拘束

イラク問題 解決の道は

戦争と占領の継続でなく いまこそ国連の枠組みで


 フセイン元イラク大統領が米軍によって拘束されたニュースが世界を駆け巡りました。その反応はイラク国民を苦しめた独裁者の拘束を喜ぶ半面、米国がこれを戦争と占領の正当化に利用するのではないかとの警戒の声です。戦争と占領の継続でイラク国民が苦しみ、中東と世界の平和が脅かされている今こそ、問題の解決を国連の手に委ねるべきだとの声があがっています。(伴安弘記者)

正当化の根拠なし

 「ハッピーなニュースだ。しかし、米軍でなく、イラク人が彼を捕まえるのをわれわれは望んでいたんだ」(バーレーンのビジネスマン)

 英ロイター通信のエドモンド・ブレア記者はエジプトの首都カイロからアラブ人の反応を伝えています。先にあげたフセイン拘束歓迎の声はわずかで、多くは「(中東)地域をじゅうりんした米国」を非難していると伝えています。

 ブッシュ米大統領は十四日の全米向けテレビ演説で「元独裁者」の「拘束は自由イラクにとって重要だ」「イラクの歴史のなかで、暗黒と苦痛の時代は終わり、希望の日が訪れた」と述べました。

 しかし、フセイン元大統領の独裁をいくら告発しても、国連憲章と国際法を無視した戦争と不法な占領の継続を正当化する根拠にはなりません。

 ブッシュ大統領は「フセインの拘束はイラクでの暴力の終わりを意味しない。われわれが対峙(たいじ)しているのは、無数の人々を殺害し続けているテロリストたちだ」と述べ、「対テロ戦争」を理由にイラク占領を継続する姿勢を改めて示しました。

 しかし、開戦前のイラクと米英による戦争・占領を通じて明らかになっているのは次のことです。

 第一に、フセイン政権下では国際テログループ・アルカイダと同政権のつながりはまったくなく、米政府自身、これを認めていたこと。今年八月の国連や赤十字国際委員会などに対する自爆テロの発生は米英の占領下で初めて起きたことです。戦争と占領こそがイラクにテロを呼び寄せたのです。

 第二に、米国はテロリストとフセイン政権の結び付きを戦争正当化の根拠にできなかったため、同政権の大量破壊兵器保有疑惑を理由にしたものの、大量破壊兵器は、戦争開始から九カ月近くたっても発見できていないこと。

 第三に、戦争の正当化をはかることに窮した米国が掲げたのが「イラクの解放」「民主化」だったこと。ブッシュ演説でも「自由イラク」を口にしています。しかし、イラク人がフセイン独裁政権の崩壊を歓迎したのはわずかな時期だけで、民間人を犠牲にしてはばからない「米軍はフセインと同じ」「それ以上」という声が広まっています。

 イラク戦争前30%だった失業が現在では約50%にも跳ね上がっている(世界銀行・国連の十月報告)なかで、イラク国民の不満はいっそう強まっています。

撤退の要求強まる

 米軍に対する攻撃を行っている武装勢力は、フセイン政権残党やイスラム原理主義勢力、外国テロ組織などさまざまだとみられています。これらの勢力の攻撃は米英の不法な占領のもとで起きているものです。フランスのドビルパン外相は、こうした勢力の結びつきを断つためにも政治的解決が必要だと主張していました。

 ブッシュ大統領が演説で打ち出した「対テロ戦争」の強化は、これとは逆にイラクの混乱の長期化・拡大を促す危険なものです。

 それだけに、軍事占領をやめ、一刻も早く米英とその「同盟軍」が撤退し、国連の下で主権をイラクに返還すべきだという声が強まっています。

 アナン国連事務総長は十日に国連安保理に提出したイラク現状報告で、占領軍による「軍事的な手段」でなく「政治的な解決」をはかることによって占領を短期に終わらせるよう主張しました。

 フセイン元大統領の罪は明らかです。独裁政権の下でイラクはイランとクウェートを侵略し、フセイン政権に反対する人々を拷問にかけ、クルド人を含め大量の人々を殺害しました。しかし、その罪を裁く権利は不法な戦争と占領を続けている侵略者の米国にはありません。

 イラク統治評議会はイラク人道犯罪特別法廷で裁く意向を明らかにしていますが、米当局は「今のところ決まっていない」(サンチェス駐留米軍司令官)として、フセイン元大統領の身柄の引き渡しを明確にしていません。法に基づく厳正な裁判ができるのかどうか、世界が注視しています。

「フセインを憎んでいる。しかし米国への抵抗は続く」

バグダッドの声

 フセイン元大統領の拘束というニュースが十四日に流れたイラクの首都バグダッドでは、多くの市民が自動小銃で“祝砲”を上げ車のクラクションを鳴らし、喜びをあらわしました。一方で、フセイン拘束が占領軍の手で行われたことに不満を述べたり今こそ米軍は撤退をという声もあがっています。

 ロイター通信は、フセイン元大統領に抑圧されてきたイスラム教シーア派の地域では、「独裁者に対する同情はみられなかった」としています。

 パン職人のハミド・アリさんは、「家族のほとんどはサダムのために死亡したか陸軍に強制入隊させられた。イラク人は、彼を裁判にかける権利があるはずだ」「もし、米国がわれわれに権力を渡さなければ抵抗運動が形成されるだろう」とのべました。

 モスクの警備をしているニューマン・アデル・カリムさんは、「もし、フセインの拘束で抵抗の士気が下がると米国が思っているならば間違いだ。抵抗は、愛国心や宗教的理念によるからだ」と米軍に警告しています。

 給油するための行列に並んでいた運転手のサラ・アドナンさんは、「われわれはフセインを憎んでいる。しかし、われわれが求めているのは秩序だ」と話しました。


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