2003年12月16日(火)「しんぶん赤旗」
自衛隊派兵が強行されようとしているイラクはどうなっているのか。子どもたちが犠牲になるなど、戦闘の続いているアフガニスタンは? 現地を訪れたNGO(非政府組織)のメンバーや平和団体の人たちは、異口同音に「自衛隊が派兵されれば、日本にとってとりかえしのつかない失敗になる」と警告しています。
女性の人権擁護を求めるNGO「VAWW―NET(バウ・ネット)ジャパン」の細井明美さんは、十一月二日までイラクを訪れ、支援金を届けてきました。帰国後、細井さんが平和団体「9条の会」が開催した学習会(九日、東京・明治学院大学)で講演した内容の一部を紹介します。
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米軍への攻撃は、本当に日常茶飯事です。
夜は機銃の音が毎晩聞こえます。昼間は米兵の姿を見ませんが、ヘリコプターがかなり低い位置で上空を飛んでいます。そうやってイラクの人たちを常に監視しているのです。夏の夜、暑いとイラクの人たちはよく屋上で寝ていたりするのですが、それで勘違いされて銃撃された子どももいます。本当に迷惑な話だなと思いますね。
病院に行くときも、アメリカ人はイラクの人が怖いのです。私が見たときも、車の前後を米軍のジープが警護していました。女性でさえ手に銃を持っています。それほど怖いのです。
私は、ヘンな話ですがぜんぜん怖くないです。イラクの人(案内をしてくれた男性)といつも一緒ですから。イラクの人はとっても親切なんです。基本的に日本人が大好きですからね、にこにこにこにこ笑顔で迎えてくれます。
こんなに親切な人たちになぜ銃をむけなければならないのか、私、本当に腹が立ちます。メディアは民衆の側からの声を拾ってほしい、流してほしい。アメリカ側からの情報ばかりでなく、きちんと民衆側の声を報道していたら、今回のように簡単に(自衛隊派兵の)「基本計画」を出せるわけないじゃないですか。そう思いますでしょ。
イラクの人は「ジャパニーズ・アーミー(日本軍)」が来ると言っています。「セルフ・ディフェンス・フォース(自衛隊)」じゃないのです。
日本軍ということは銃を持ってくる。何をしにくるのか、支援じゃない、という認識です。小泉首相が日本国民に何を言おうと、それはアメリカ軍の支援でしかないということを現地の人が一番よくわかっているわけです。
「日本軍に来てほしくない」「日本とは仲良くしていたいのに」「いまだかつて中東で戦争をしたことのない日本が、なぜわざわざ今回戦争しなければならないのか」――。それは、イスラム圏の人たちがみな言っていました。タクシーの運転手さんさえ言いました。「ジャパニーズが来るのはクレイジーだ」と。私もそう思います。取り返しのつかないことをしていると痛切に思います。
日本がおこなうべき支援は、劣化ウラン弾の被害の救済などです。
今回、アメリカ軍はまったく普通の弾薬のように劣化ウラン弾を使いました。雨が降ると道路に撃ちこまれた弾痕から放射能が溶けて地下水を汚染します。また爆発したときに出たウランの粉じんは肺に入り、体内で放射線を出し続けるといいます。
これから自衛隊がサマワに行きますね。サマワは激戦地でした。劣化ウランがたくさんあります。そのことを考えないのでしょうか。
イラクの人たちは、日本の広島・長崎に原爆が落とされたことをよく知っています。被ばくについても最先端の治療があると思っています。そこでの支援の希望、というか望みを持っています。「そういう形で助けてくれたらいいのに」とイラクのお医者さんたちはみんな思っています。被ばく者のために医療センターを造ること、これが日本のできる最大の支援ではないか、と思います。
それと、電力とか水道…、今回(自衛隊は)水をきれいにすると言いましたが、イラクの人は言いました。「そんなの自分たちでできる」って。日本から軍隊がきてやらなくとも、お金さえあれば、施設・整備さえあれば、電気技師もいるし、水道技師もいるって。「働き場所がないのだから、そんなの、自分たちに働かせてほしい」。私も、その通りだと思いました。そういうところで雇用を生み出す知恵を出す、それが日本のできる支援ではないかと思います。
「支援」なのになぜ現地の人の声を聞かないのでしょう。そんなの分かっていますよね。アメリカの支援だからですよね。アメリカにもきちんと言わなければいけないと思います。憲法がいちばん上、憲法が許してない行為はできない、と―。
1996年、フリージャーナリストの故松井やよりさんのアシスタントに。医療支援や空爆被害調査のためにアフガニスタンを2回訪問。ことし6月と10月、医療支援や子どもたちへの支援のためにイラクを訪問。「VAWW―NETジャパン」所属、女たちの戦争と平和人権基金理事
日本平和委員会の布施祐仁(ゆうじん)さん(26)=「平和新聞」編集長は、八月十七日から二十一日までアフガニスタン東部のジャララバードと首都カブールを訪れました。「アフガンの人々は、びっくりするくらい親日的で、温かくもてなしてくれた。でも、自衛隊がイラクに派兵されたら、(親日感情が)変わってしまうかも」といいます。
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アフガニスタンはイラクより一年半早く米軍の攻撃が始まりました。そしてタリバン政権が崩壊してから二年がたった今も、「テロリスト」掃討作戦を続けています。
こういう話を聞きました。ある村で、米軍が「テロ掃討」を口実にいきなり家に土足で上がり、女性のブルカ(顔布)を次々とめくっていったそうです。アフガンの女性は、自分の家族以外の男性に素顔を見せることはまずありません。慣習を無視した行動に逆上した女性が米兵を刺す、という事件が起きました。米軍は村に女性の引き渡しを求めましたが、村の長老は拒否。その後、米軍は空爆で村を焼き払ったそうです。生き残った人はどうなるか。そういう中から、新たな憎しみが生まれているのです。
話には聞いていましたが想像以上にアフガニスタンの人たちは親日的でした。街を歩いていると、あちこちから「ジャパニー、ジャパニー」と声をかけてきます。目が合ってあいさつをすると、「お茶でも飲んでいけ」というんです。
イスラム教には、客人を歓待するという教えがあるのですが、特別日本人に好意的なのは理由があります。一つは、経済大国を築き上げたことに対する尊敬とあこがれ。街には日本の中古車や家電製品があふれています。そして、イスラムの国に対して一度も侵略や干渉をしたことがない、ということです。
ジャララバード近郊の小さな村を訪問する機会がありました。そこで学校の先生をしている青年が言っていました。
「アフガニスタンのリーダーたちは二十年以上も戦争ばかりしてきた。大国の力を利用して国を支配しようとして失敗したのだ。その点、日本は戦争が終わった後、軍事よりも経済や教育に力を入れて豊かな国になった。だから今度こそ、自分たちの力で日本のような豊かな国をつくっていきたい」
米軍について聞くと、「アメリカはイスラムを支配しようとしている。来年予定されている選挙が終わった後は、米軍には出ていってほしい」と。僕は、日本では占領終了後もずっと米軍基地が置かれていることを説明し、「アフガニスタンにはそうなってほしくない」と伝えました。
話の最後に、「なんで日本はイラクに軍隊を送るのか」と質問されました。イラク特措法が成立したことをラジオで聞いて知っているんです。広島・長崎を体験して、戦争をしないと決めた日本がなんで? それが率直な疑問だったようです。
正月にまたアフガンに行ってきます。小泉首相がイラクに自衛隊を送ることを決めたことで、アフガンの人々の親日的な感情が変わりつつあるとしたら、すごく残念なことです。前回の訪問で、本当に日本人で良かったと思いました。治安が悪いと聞いていたけど、全くそんなことは感じなかった。でも、僕がもしアメリカ人だったら、違っていたかもしれません。自衛隊のイラク派兵で、日本が「敵」だと見られたら、日本人にとってすごい損失です。
日本としてすべきことは、武装した軍隊を送るのではなく、現地で必死に生きている人たちの目線にたって彼らの生活と復興を支援することではないでしょうか。軍事力では問題が解決しないことは、アフガンの現実が証明しています。
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