2003年12月22日(月)「しんぶん赤旗」
日本経団連の奥田碩会長(トヨタ自動車会長)は、『文芸春秋』の二〇〇四年一月号で憲法改定を求める発言をしています。これまで、財界総本山である日本経団連は、旧経団連時代を含め、憲法問題についての発言は極力控えてきました。そうした意味でも、今回の改憲発言は、“財界史”に残るものです。
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奥田会長は、同誌に掲載された「緊急提言」で、「憲法改正問題も同様だ。大事な問題を先送りしているうちに、にっちもさっちも行かないような状況に見舞われる」と指摘しています。つまり、改憲問題を先送りせずに決着をつけろと居丈高に要求しているのです。
小泉内閣と自民、公明の与党は、テロ特別措置法、有事法制、イラク派兵法を相次いで成立させ、海外派兵国家づくりに向けた新たな段階に踏み込みました。そしてついに、米国のブッシュ政権に求められるまま、イラクに自衛隊を派兵する「基本計画」を九日に閣議決定しました。これは、戦後初めて現に戦争がおこなわれている地域への自衛隊派兵計画です。米英占領軍支援のために憲法を蹂躙(じゅうりん)し海外での武力行使に道を開く暴挙です。
奥田会長がいう「にっちもさっちも行かない状況」とは、いよいよ日米軍事同盟と憲法との矛盾が抜き差しならない状況に立ち至っているということです。そうした事態を前にして日本経団連会長として改憲を求める発言を強く打ち出したことは重大です。
先の総選挙では、小泉・自民党は、「二〇〇五年、憲法改正に大きく踏みだします」として、党として「憲法改正案」をまとめることを政権公約に掲げました。さらに、民主党も財界の求めに応じる形で「『論憲』から『創憲』へと発展させます」としました。
奥田発言には、総選挙の結果を受けて、政界での改憲の流れを後押しし、加速させる意図があることは明白です。
奥田発言では、改憲の中身ついて具体的には触れていません。しかし、財界が求める改憲の中身は明らかです。
財界人個人の資格で発言している経済同友会がおこなった同会会員へのアンケート調査(〇二年三月に実施)では、自分が攻撃されていなくても、同盟国が攻撃されれば武力攻撃ができるとする「集団的自衛権の行使」について、76・9%が認めるべきだと回答。自衛隊を違憲と考える人のうち、「憲法を改正して軍として改組する」と回答したのは、84%に達しています。
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もともと改憲論は、日本国民の要求から生まれたものではありません。日本共産党の第二十三回党大会議案は、日本に集団的自衛権の行使を求めた米国のアーミテージ報告(二〇〇〇年十月)が「自民党・財界の軍国主義復活をめざす志向と結びついて、あいつぐ海外派兵立法の強行と改憲論横行の起動力となった」と指摘しています。
財界が改憲をもとめる背景には、こうした米国からの圧力と同時に日本の大企業が多国籍化の道を急速に進んでいることがあります。
イラク派兵問題では「中東に(エネルギーの)多くを依存している以上この地域の治安の安定はわが国にとって重要な課題」(経済同友会の北城恪太郎代表幹事)などエネルギー問題が指摘されます。しかし、これだけにとどまりません。
経済同友会の高坂節三憲法問題調査会委員長が「グローバル化とは、日本の資本や人材が世界中に広がっていくこと。これを守るためには何らかの方策が必要だ。だから米国と提携するのだが、ここだけは自分がやる、というところがないといざというときも言いたいことが言えない」(「朝日」五月二十七日付)と指摘していることからも明らかです。実際、日本企業の海外生産比率(国際協力銀行調査の〇三年度海外直接投資アンケート調査)は〇二年度で25・9%です。とくに、基幹産業である電機・電子産業は38・6%、自動車は26・6%にのぼっています。
このような状況の中で、財界が軍事大国化、海外派兵への衝動を隠すことなく、むしろ昂然(こうぜん)と前面に押し出してきた動きとみることができるのではないでしょうか。
日本共産党の綱領改定案が「日本独占資本主義と日本政府は、アメリカの目したの同盟者としての役割を、軍事、外交、経済のあらゆる面で積極的、能動的に果たしつつ、アメリカの世界戦略に日本をより深く結びつける形で、自分自身の海外での活動を拡大しようとしている」と分析しているとおりです。
圧倒的な日本の世論は憲法改悪に反対しています。外務省の世論調査(〇二年三月)では、憲法違反の集団的自衛権の行使を求める声はわずか8・7%にすぎません。憲法九条については「朝日」の世論調査(〇一年五月二日付)で74%が「変えない方がよい」としています。また、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を求める世界の世論と運動は大きく広がっています。
いま日本に求められているのは、自衛隊の戦場への派兵や改憲などではなく、「九条を持つ国」として憲法を生かし、平和の国際秩序確立のために積極的な役割を果たすことにあります。
(金子豊弘記者)