2003年12月22日(月)「しんぶん赤旗」
二十日夜放映のNHKスペシャル「シリーズ・安全保障」で日本共産党の市田忠義書記局長が行った発言(大要)を紹介します。同番組には、市田氏のほか、川口順子外相、石破茂防衛庁長官、自民党・久間章生幹事長代理、民主党・岡田克也幹事長、公明党・冬柴鉄三幹事長、社民党・又市征治幹事長が出席しました。司会は山本孝NHK解説委員。
イラクへの自衛隊派兵について、石破長官は「人道支援」のためで「アメリカの顔を立てるために出すのではない」とのべました。久間氏も、イラクで治安が悪化するなかでの派兵について「やむを得ない。行かないですますわけにはいかない」とのべました。
市田氏は、イラク派兵にどう反対していくのかと問われ、次のようにのべました。
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市田 いろいろな世論調査をみましても、自衛隊の派兵反対という声が多数を占めています。小泉首相が、“戦闘地域に(自衛隊は)行かない”とか、(記者会見で)説明をいろいろしました。いま、石破さんも、「人道復興支援」に行くのだと(言いました)。しかし、(自衛隊派兵の)「基本計画」には、米英がやる「安全確保活動」への支援(米英軍による不法な占領支配への支援)をやるということが書いてあるわけです。ところが、小泉首相は(記者会見での)説明のときにはそこをおっしゃっていませんでした。
“戦闘地域には行かない”ということも、だれがみてもきいても、イラクに「非戦闘地域」などない。米英の占領軍の司令官だって、そういう事態ではないということを言っているわけです。
人道に背く行為を「人道」の名で正当化する。首相は(記者会見で)憲法の前文を引用したわけですが、憲法をふみにじる行為を憲法をもってきて正当化する。国民がそれを見ぬいて、政府の説明がうそと偽りで固められていることを見ぬいた結果が、多くの(派兵反対という)世論調査に出ているわけです。
そういう国民世論を背景に、草の根からの国民の運動を大いに起こして、(派兵計画は)決まったけれども、実際の執行はこれからですから、世論を信頼してがんばっていきたいと思います。
“自衛隊は戦闘地域には行かない”という政府の主張が議論となり、市田氏は次のようにのべました。
市田 百歩ゆずって、かりに(イラクに)「非戦闘地域」があったとしましょう。しかし、そこに米英占領軍の側に立っている日本の武装した自衛隊が、たとえ名目は「人道支援」であっても、出かけて行くことは、(攻撃の)標的にされる可能性が非常に強い。
これは、中東研究の専門家でも、「非戦闘地域が、翌日には戦闘地域に変わる」と(言っています)。
人道支援というなら、むしろNGO(非政府組織)の人たちも言っているように、かえって自衛隊が行くことが人道支援を困難にさせる。“自衛隊は妨害物だ。人道支援に逆行する”と、現に(イラクで支援活動を)やっておられる方々が言っています。
冬柴氏は、公明党として陸上自衛隊の派兵を見送るべきだと政府に働きかけることはないかと問われ、「そんなことはない」と強調。久間氏も、陸上自衛隊の派兵中止の「可能性はない」とのべました。
市田氏は、米英軍の撤退でテロ行為が活発化するのではないかと問われ、次のようにのべました。
市田 テロリストが大手をふってイラクで蛮行をかさねている土壌をつくっているのが、米英軍の占領だと思います。
もともとあの戦争に大義がなかったわけです。国連憲章違反の明確な侵略戦争のうえに、不法な占領支配をやっている。これに対して、イラク国民が抵抗している。あるいは、それに乗じてテロリストがいろいろなことをやっている。(米英軍による)侵略と占領支配がテロと暴力の土壌を拡大する根源だと思います。
したがって、(米英の占領支配から)国連を中心にした枠組みに転換することが、米英軍が撤退する方向性をみちびき出せる道だし、ほんとうの人道復興支援もやれることになる。米英占領支配の枠組みを切り替えることに、日本も国際社会も全力を挙げることが一番のカギだ。それが人道復興支援の道でもある(と思います)。
市田氏の主張に又市氏も「同感」とのべました。岡田氏は「民主党は、いま米英軍に撤退しろといっているのではない」とのべました。
「日本の外交姿勢が日米同盟優先ではないか」という問題が議論になり、冬柴氏はイラク派兵について「一四八三という国連決議にもとづき加盟国にイラクの復興支援の要請があって、自主的・積極的に応じてやろうというのが、この法律(イラク特措法)だ」とのべました。市田氏は次のように反論しました。
市田 国連決議にもとづいていると今、冬柴さんはおっしゃったけれども、国連決議(一四八三)に自衛隊を出せなんて書いていない。各国が軍隊を出しなさいと書いていないですよ。
「人道復興支援」のためにいくとおっしゃったけれども、たとえば(自衛隊が行う)「安全確保支援活動」は、米英占領軍がやっている掃討作戦にも協力する、占領軍への抵抗や抗議を鎮圧する活動にも協力・支援するということになっている。「人道復興支援」のために行くんだというけれども、「安全確保支援活動」もやると、ちゃんと「基本計画」にも書いてあるわけですよ。これは、軍事占領に対する軍事力をもっての加担であり、今のイラクの状況をいっそうひどい状況にする。
小泉さんは国会の答弁で、あの戦争の正当性が説明できなくなったり、自衛隊の派兵の根拠がいえなくなると、「日米同盟が悪くなってもいいのか」(と言う)。結局、それを覆い隠すための道具に、日米同盟論が使われている。
後藤田さん(正晴元副総理)がさきほどおっしゃったけれども、“(安保条約は)軍事同盟じゃないか。もっと友好条約に切り替えるべきじゃないか”とおっしゃったのは、なかなか正論だと思うんですよ。アメリカしか頭にないという政府の外交を改めるべきだと思います。
これに対し冬柴氏は「(米国に)『米帝国主義』とかいったらダメですよ」とのべました。
市田氏は次のように発言しました。
市田 アメリカがこの間やってきたことをみますと、ベトナムへの侵略戦争もそうですし、国連総会から国連憲章違反だと糾弾された、いろんな侵略行為がありました。たとえば、ニカラグアへの侵略もありました。グレナダへの侵略もありました。
やはり、ブッシュ政権自身が、先制攻撃戦略を公然と打ち出しているわけで、国連憲章をないがしろにしている一番の侵略的行為をやってきたのがアメリカだというのは、これは多くの国民のみなさんが、安保賛成の方でも「ひどすぎるじゃないか」と見ていると思うんです。
さきほどNHKがやられた世論調査をみても、もっと国連を重視すべきだというのが54%で、アメリカとの関係をもっと強めろというのは、わずか10%ですね。
ある新聞の今年正月の世論調査をみましたら、日米関係が「対等」だと答えた人は7%。「迎合」は15%、「追随」というのは30%あるんです。一般の新聞がやった世論調査で、そういう答えが出ているわけです。
(日本政府は)外交とか安全保障というと、アメリカかサミット諸国しか頭にない。アジアではASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に、軍事に頼らずに、もっと紛争を平和的に解決していこうと(している)。アメリカ一辺倒でいくべきではないという声が世界の流れになっているもとで、(政府の態度は)むしろ、時代に逆行している。
(世界では)軍事同盟を結んでいる国の方が、いま少ないんですよ。非同盟諸国首脳会議に国連加盟国の六割が参加しているわけですからね。そういう側にくみしていくべきだと思います。
ここで、アーミテージ米国務副長官のインタビューが紹介されました。アーミテージ氏は「私は、憲法九条と集団的自衛権の問題が、日米間の障害になっていると考えている」とのべました。
また、NHKがおこなった集団的自衛権についての世論調査が紹介されました。「憲法改正するか憲法解釈を変更するなどして、集団的自衛権を行使できるようにするべきだ」が30%、「現在の政府の見解を守り、集団的自衛権を行使できるようにすべきではない」が35%、「集団的自衛権自体を認めるべきではない」が21%でした。
岡田氏は「憲法を改正し、国連の明確な決議があるときに、国際社会と一体となって、日本も武力行使に参加するということは、考える余地がある」と主張しました。
市田氏は集団的自衛権の問題について、次のようにのべました。
市田 私は認めるべきではないと思います。「集団的自衛権」というが、言葉と中身がまるで違うと思うんです。「自衛」という言葉があるから、外からの攻撃があったときに、もっぱら「力を合わせて、お互いに守りましょう」という印象で聞こえるわけですけれども、実際に「集団的自衛権の行使」ということで、これまでやられたのを、私は調べてみました。全部で九回です。
たとえば、どういうことが「集団的自衛権の行使」としてやられたかというと、アメリカのベトナム侵略戦争、それから旧ソ連のアフガニスタンへの侵略。国際司法裁判所が有罪だと判決を下したニカラグア侵略も、「集団的自衛権の行使」としてアメリカがおこないました。それから、グレナダ侵略も、国連総会がこれは侵略だときびしく批判したけれども、「集団的自衛権の行使」だと(説明された)。
ようするに、海外でのアメリカの干渉と侵略を合理化するため、覆い隠すために用いられている論理が「集団的自衛権の行使」です。
アーミテージ国務副長官が、憲法九条が(集団的自衛権行使の)足かせになっているというのは、アメリカがやる海外での干渉戦争に、もっと大手を振って、日本の自衛隊が、アメリカと一体となることを恐れないでやれるような条件をつくろうじゃないかという意思のあらわれだと思います。
自衛隊を海外派兵する「恒久法」を制定すべきだとする主張について話題が移り、久間氏は「恒久法で(海外派兵法を)整理しておいた方がいい」と主張。冬柴氏も「国際社会が行う安全保障措置には、日本は参加していかなければならない」とのべました。
市田氏は「何か起こるたびに、そういう(海外派兵のための特措法を制定するという)ことをやっていたら、まどろっこしいから、いつでも(自衛隊を)出せるようにするというのが狙いですから、恒久法はつくるべきではない」と批判しました。