2004年1月1日(木)「しんぶん赤旗」
二〇〇四年をどんな年にしたい? 青年四人が、日本共産党の志位和夫委員長とざっくばらんに話し合いました。平和や雇用で大きな運動をつくってきた〇三年を振りかえり、見えてきたキーワードは――。司会は「しんぶん赤旗」青年のページ担当の和田肇記者です。
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司会・青年一同 あけましておめでとうございます。
志位 おめでとうございます。私は、新しい年は、平和でも暮らしでも明るい希望のもてる年に、そして参議院選挙でかならず勝利をつかむ年にしたいと決意しています。まず、今年をどういう年にしたいか、みなさんのいろんな思いを聞かせてもらいたいですね。
司会 では、イラク戦争、平和の問題から。堀江さんは、高校生たちといっしょにやってきましたよね。
堀江 はい。自分の国でおこっていることではないんですけど、みんなとても敏感です。自衛隊をイラクに送るということは、人が殺されることだからあぶないし、また人を殺しにいくことにもなるんじゃないか、とすごく心配していて。私たちの宣伝チラシやホームページをみてピースウオークにきてくれました。
「憲法九条」のことも、最近では「九条を変えるのはおかしいよ」という声をたくさん聞きます。高校生は「命は一つしかない」ということを痛切に感じてるんです。
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河野 「イラク派兵反対の署名をやると、どこでも列ができる」といわれているでしょ。ホントかよ、と思って地元の駅前でやったら、本当でした。署名ボードに一人並び、二人並び、三人並び。おじさんたちが「がんばれよ」と励ましてくれるんです。僕らの運動は大きな影響を与えてるんだな、と肌で感じました。
志位 ことしは、自衛隊が重武装して戦地に行くという、日本の進路を大きく変えてしまうような大問題を許していいのか、なかなか重大な年です。それに対して若者たちが、自分の問題として立ちあがろうとしているのは、本当にたのもしいですね。
昨年十二月、東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会で、恋人の自衛官から突然別れてくれといわれた、という女性の手紙が読み上げられた。いてもたってもいられなくて、「彼をイラクに出さないでください」という切々たる訴えでした。私が住んでいる千葉県には、陸上自衛隊習志野駐屯地がある。そこに第一空挺団、パラシュートで降りてきて陣地を制圧するという非常に危険な任務につく精鋭部隊があって、これが北海道の部隊とともに、派兵される部隊のなかに組み込まれるのではないかといわれています。
神部 その自衛隊基地の近くにあるJR津田沼駅前で、“折り鶴宣伝”というのをやったんです。「あなたの平和の思いを折り鶴に」と折り紙を配って、折ってもらう。翼に平和のメッセージを書いてもらうんです。
志位 メッセージだけ書いてもらうの?
神部 折ってもらってから、「じゃあ署名も」というと、書いてくれるんです。折っている間に話もできる。時間はかかっちゃうんですけどね。
志位 僕に鶴が折れるかな?(笑い)
神部 折れない方には一緒におりましょう、って。実は、初めて宣伝にきた高校生が四人くらいいたんです。「こんなことやっても意味がないんじゃないか」といってたのが、しばらくすると一人でどんどん動き始める。道ゆく人の平和への思いが励ましになったんだと思いました。自分も励まされて。
河野 最初は「もう変わらない」なんていってたのに、しまいにはこっちが「もう休ませてくれ」というくらいがんばる(笑い)。そのくらい変化します。
神部 お母さんと娘さんが「お兄ちゃんが自衛官でイラクにいく可能性がある」と相談してきたことがありました。お兄ちゃんは退職届を出したんだけど、受理されなかった。で、家族で会話もなくなっているとか。「自分の父親は自衛隊員なんです」といって名前を書いた後に「ごめんなさい」と謝られたこともありました。その人は「平和の運動をしたい」といってました。
窪田 私は友だち百人くらいにメールで「ぜひ、どっかで署名してたら協力して」と訴えました。「どうしたら自分の思いを行動に移せるのか」とすごく悩んでいた友だちがいたんやけど、署名からやっていこうっていったら、そうやねって。一人で悩んでいる人は多いと思うから、学習会なんかも定期的にやっていけたらな、と思っています。
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志位 いまお話きいても、去年のみなさんの行動というのは、これまでにない画期的なものだと思います。折り鶴の話もメールの話もあったけど、「イラク戦争反対」の高校生全国平和大集会、「戦争あかん」の人文字など、いろいろな形で若い人が平和を守る声をあげた、画期的な年になった。若い力、平和を願う力が発揮されたという点では、記録に残る年じゃないかと思います。
去年、アメリカによる一国覇権主義の横暴勝手がまかりとおるような世界をつくろう、という動きが、猛威を振るいました。一方で、“国連憲章にもとづく平和の秩序をつくろう”という動きがものすごい力をもって対抗しました。この二つの流れがぶつかりあった一年だったんです。
アメリカは軍事力が圧倒的に優れているから、戦争では勝つことができました。でも私は、アメリカは三つの敗北、失敗をしたと思っているんです。
一つ目は、イラク戦争を始めるにあたって国連のお墨付きをえられなかった、ということです。
とくに、フランスやロシア、ドイツ、中国が反対した。中間派といわれる国々も結局、国連安保理のなかで賛成票を投じないということになって、アメリカは孤立した。これは、外交的な大敗北です。
二つ目は、戦争がやられた後も、国際社会はついに「あの戦争はよかった、正しかった」という追認をしなかった。アメリカは最初、「勝てば官軍」で世界はついてくると思ったんだけど、国際社会は今にいたるも追認を拒否しています。
三つ目は、そういうなかで占領支配が行き詰まって、破たんがすすみつつある。
これだけ失敗がはっきりしているのに、そのなかに自衛隊を出そうというのは、これは本当にむちゃ、無謀なことだと思います。
河野 よく出る疑問なんですけど、小泉内閣はなんであそこまでアメリカにくっつくんですか。
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志位 小泉さんと論戦したり、討論したりしてきましたが、世界を見るときにアメリカ式の“逆さメガネ”をつけてしか見ない人なんです。
一同 大笑い
志位 世界は「一極」が支配するのでなく、たくさんの「極」があって、その「極」が相互に尊重しあい、平和的に共存する。国連憲章というルールのもとに平和を守る。「これが本当の二十一世紀の世界なんだよ」という声が圧倒的多数の国の立場なんですね。実際に、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、アフリカなどの「極」があるし、イスラムという「極」もある。世界は多極的な構造になっているんです。
ところがアメリカはそういうふうに世界を見ていない。アメリカという「一極」を極点に世界はできている、自分の軍事力があれば世界を支配できる、と思いこんでいる。小泉さんもブッシュ大統領のこの“逆さメガネ”で世界を見るから、アメリカが頂点にいる一極世界だと見えている。そのなかで、どれだけおほめの言葉にあずかるか、とそればかり考えている。
でも国際社会は、フランスのドビルパン外相が昨年三月の国連安保理で、イラク戦争に反対の大演説をしたとき、わーっと拍手が起こったように、世界の民衆の運動と多極的な世界を目指す動きが響きあって大きな流れをつくっている。みなさんのやってきた運動は、まさにそういう世界の未来ある流れにたった立派な仕事なんだし、大きな値打ちがあることなのです。
窪田 いつも忙しそうですが、いつ勉強してるんですか?
志位 私も十分、やれているといえない面があって、今後努力していきたい、と努力項目で話しますね。(笑い)
国会の質問などでは、現場のみなさんに話をうかがって、そこからヒントを見つけながらです。例えば、医療費が上がったらどういう事態になるのか。患者さんにずっと聞いて、それから勉強します。
それと、「科学の目」で日本の社会のあり方を見定めて、展望をつかんでたたかう方針を打ち立てる。その土台は日本共産党の綱領です。
今度の大会(十三日―十七日)で綱領改定の大きな仕事が待っています。きょうのテーマになったイラク問題でも、雇用の問題でも、アメリカにこんなに追随の日本でいいのか、大企業・財界の横暴を許していいのか、という二つのことに突き当たったでしょう。この二つの横暴な支配を打ち破って、本当に「国民が主人公」の日本をつくろう、というのが日本共産党の綱領路線。
それを今度、二十一世紀型に、国民のみなさんが読んでよくわかるように全面的に改定する作業をやります。
それから、この綱領の立脚点にあるのは、科学的社会主義という世界観です。歴史をつくるのは、一部の偉い人や英雄ではなくて、それこそ人民のたたかいがつくるんだと。経済でいうと資本主義という制度は生産力をどんどん無限に増やしていくという衝動を持ちながら、それがもうけのために使われている。そのためにいろんな避けがたい矛盾が起こってくる。生産力を本当に社会全体のために生かすという方向への社会の発展が必要なんです。それが私たちの呼んでいる社会主義・共産主義。
そういうところまで含めて勉強をやる。やっぱり全体やらなければだめですね。(笑い)
司会 就職とか雇用の問題についても話を聞かせてください。神部さんは労働基準監督所(労基署)にかけこんだことがあるっていうけど。
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神部 高校を卒業してデザイナーとして働いていたんですけど、「不景気だから売り上げがない」という理由で試用期間を延ばされて。賃金も安く、社会保険にも入ってなかった。「条件が悪いのは、お前の力の問題なんだ」とまでいわれた。文句があるなら辞めてもかまわない、という態度で、雇っておきながら都合が悪くなると青年の責任にするというのが許せなくて、労基署に訴えて、裁判を起こしたんです。生き方を否定されたら、自分の存在意義を見失ってしまうんじゃないかと非常に思って。
窪田 私は大学四年生なんで、「若者に雇用を」の署名を持ってゼミとかを回るんですけど、この時期になっても半分くらいは就職活動でゼミにもこられない状況なんです。卒論も書けない。学校にきても、就職課やそのセミナーだけに行く。で、家に帰って内定の通知を見て、落ちてるのを知って落ちこんで。部屋のなかに閉じこもりがちになってしまうんです。
そういう人たちに署名を広げようと宣伝カーを借りてきて、マンションの前とかで宣伝してます。何時からどこどこで宣伝活動やってますからどうぞきてください、って。その後、自分たちで作った署名はがき付きパンフレットをがーっと配ったり。でも、学校にこれへんから、周りの状況が分からない人は多いです。
司会 宣伝した後の反応はどうだった?
窪田 すごいよかったです。「がんばってね」とか。シール投票などもしたんです。サービス残業(ただ働き)が違法だってことを知らない人もすごい多いし。サービス残業をなくしたら百六十一万人の雇用が増えると言ったら、すっごい驚いてました。「片っぽで働けない人がいるのに、片っぽで二人分の仕事をやらされてる」って。
志位 宮下公園の集会(昨年十月十九日の「若者に仕事を」全国青年大集会」、東京)はすごかったね。あのときは僕の腕に署名がどんどんどんどん積み重なって、とうとう頭の上までいっちゃった。
窪田 そう、私は最後の方だったもんで、握手できなかった。(笑い)
志位 あの署名は重かった(笑い)。あそこですごくうれしかったのは、僕が昨年七月二十三日の党首討論で使ったグラフが、署名にちゃんと入っていたこと。この六年間で中小企業は三万人くらい雇用を増やし、大企業は百八万人減らしている、大企業の責任は大きいっていう。
河野 あれは、すごいヒントになるグラフですから。説得力があるし、わかりやすい。
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志位 ひとつ、情報提供をします。UFJ総研という総合研究所での試算なんです。若者のフリーターがどんどん増えて、正社員になれないことで生ずる所得の損失額が年間十二兆円にもなるっていうの。
一同 ええっ、すごい!
志位 大企業が青年を正社員として雇い、社会保険料も賃金もちゃんと払うという一定のルールに即した雇用を保障しないで、使い捨ての不安定雇用にすることで、十二兆円を青年から、毎年毎年奪っているっていうわけなんです。大企業の横暴の姿ですね。こういう若者を使い捨てにするやり方を正す政治っていうのが必要ですよね。
堀江 私も大学四年ですけど、就職が決まってない人が多いです。決まってるのはクラスの中でも一人か二人。(「ええっ」という声)
最初は、自分たちがやりたい仕事を探すんだけど、最近はもう選べなくなって、「やりたい仕事じゃないけど」なんて話を聞いたりするし…。体に障害をもっている友だちは、応募しても面接の前に落とされてしまった。それからけっこう引きこもっちゃっていたんです。でも「あなたのせいじゃないよ」と励ましたら、いま、雇用署名でがんばって、一人で五十人から集めたりしています。「あなたのせいじゃない」といえる人たちがいるっていうのが、その人の励ましになってる。
志位 やっぱり、この運動をすすめるキーワードは「あなたのせいじゃない」「あなたが悪いんじゃない」。これだね。
堀江 本当にそうですね。
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志位 私も党首討論を準備するときに若い人から話を聞いたんだけど、「人間性を否定されているような気持ちになる」「社会に必要な人間じゃないと言われている思いがする」っていってました。「自分が悪いから、就職先が見つからない」、みんなそう思わされているんだけれど、「そうじゃない」「あなたのせいじゃない」と。悪いのはいまの財界・大企業の横暴であり、それを応援している政治のシステム。それを変えようじゃないか、というのがみなさんのつくったキーワードですよね。
河野 あともう一つ、志位さんが宮下公園の雇用集会で言った「人間はモノじゃない」という言葉。これがまた、すごいヒットなんですよ。僕らも「そのとおり、だ」と共感する。雇用署名は、この二つのキーワードから青年の実態が出てきて、それを変えていこうじゃないか、という展望がつかめたすごい運動なんです。
志位 大企業による下請けいじめの“カンバン方式”というのを知ってる? いつまでにこの製品をつくれ、ジャスト・イン・タイムで納めろ、とむちゃをいって下請けをいじめるやり方です。必要なときに使って、いらなくなったらポイッと捨てる。若い人たちにたいするやり方は“人間のカンバン方式”だよね。セメントや鉄とは違うからね、人間は。心をもってるんだから。若い人たちを人間扱いしないというのは許せないですよ。
神部 派遣の仕事をやってたことがあるんです。派遣先で仕事をしているときも、夜中でも、「あしたできる?」って電話がくる。それがパッとなくなって、こっちから電話すると仕事がない。
志位 こんなのがまんできない、というのもありますね。ヨドバシカメラへの派遣社員で、たった十分遅れたら上司から殴るけるの暴行を受けた。「これはがまんできない」と裁判に訴えて謝らせたけれど、やむにやまれず、という部分も出てきているんじゃないかな。そのときみなさんの運動があれば、すごく広がる。経済の仕組みを大きく変えるような、息の長いたたかいとしてやっていきましょう。
河野 青年の就職難をなくすまで、泣く泣く働く実態をただすところまで、ずっと続ける必要があると思っています。
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志位 サービス残業の問題でも、勇気を出して告発していけば道はひらけるんですよ。この間、厚労省にサービス残業根絶の通達や指針を出させた。これは職場でのたたかいと、日本共産党が国会でがんばったことでそこまでもっていった。いま通達をよりどころに、どんどん労基署で是正させています。二年半で二百五十三億円を払わせているんです。
もう一つ、数字で調べてひどいと思ったのは、日本は青年の雇用予算が二百五十億円。政党助成金が三百億円だからそれより少ないんですよね。GDP比で見るとドイツは日本の二十六倍、イギリスが五十倍、フランスは、なんと百三十三倍、日本になおせば三兆円近い予算です。この背景には、やっぱりたたかいがあった。
フランスでは、一九九〇年代の中ごろに高校生たちや若者が何十万人ものデモをやった。大学生もデモをする、ストライキをする、と国民的な運動をすすめて二十五万人分の雇用を増やした。
雇用のたたかいを、今年はヨーロッパに負けないくらい画期的に広げていきたいですね。
神部 青年が一人ぼっちにされているという状況、管理と競争の社会のなかで苦しめられている。それは「あなたのせいじゃない」「人間はモノじゃない」と声をあげて日本民主青年同盟の全国大会、夏の参院選とがんばっていきたいです。
志位 ことしは一ケタ多い運動を、というのはどう? 人数だけでなく、多面的な、二回り三回り、バージョンアップしたたたかいができることを願っています。
一同 がんばります。
司会 みなさん、きょうはどうもありがとうございました。
河野 気分転換は?
志位 僕は音楽が好きで。車で移動するときなんかに聴くんです。一生のうちに聴く音楽ってそんなに多くないだろうから、できるだけ多くの作曲家のものを聴くようにしています。
いろんな作曲家を丸ごと知るのは楽しいですよ。音楽というのは時代を映す鏡という面があって。ベートーベンなんかフランス革命の薫りというものがしてきます。「第九」なんて詩そのものが自由万歳! だから。
そういう時代のものもあれば、ショスタコービッチなどはスターリン体制下の特徴が全部の曲のなかに刻み込まれています。スターリンのつくった社会というのがどんなに恐るべき社会だったか、ということです。私たちは、ああいう社会は社会主義でもなんでもなかった、暴圧は許さないという立場ですが、ショスタコービッチをきくと、旧ソ連の社会のなかでの矛盾やかっとうや、そのなかでの人間の強さを感じますね。