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2020年8月11日(火)

主張

コロナと山小屋

登山と自然環境を守るために

 10日は「山の日」でした。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨として2016年に施行されました。今シーズンは新型コロナウイルスの感染拡大で営業をやめた山小屋が少なくありません。厳しい経営がさらに悪化することが懸念されます。登山者や市民が呼びかけた山小屋支援運動には目標額を超えるお金が寄せられています。問題は山小屋の維持をはじめ登山をめぐる環境整備が個人の努力に委ねられていることです。多くの国民が親しむ登山と自然環境を守るために公的な支援の拡充が求められます。

宿泊にとどまらない役割

 登山愛好者は約600万人といわれ、日本のスポーツ文化の一つとなっています。重要な役割を果たしているのが山小屋です。登山者に宿泊場所を提供するだけではありません。登山道の保守、水場の管理、天候急変時の避難場所の提供、遭難者の救助活動の支援と、まさに登山の支えです。

 山小屋は、国民の財産である自然環境を守るためにも欠かせません。山の恵みは景観、観光、水資源、食物などを通じて多くの国民が享受しています。自然環境は人が整備することによって守られます。国、自治体、研究機関による環境調査や保全の活動は山小屋が拠点となります。山を熟知した山小屋関係者の知見も環境保全に生かされます。

 ところが近年、山小屋の存続を揺るがす事態が起きています。昨年来、山小屋経営者が物資輸送の危機を訴えています。主力は民間航空会社のヘリコプターです。天候が不安定で険しい山奥へのヘリ輸送は危険が多く、採算の難しさもあってほとんどの航空会社が撤退しつつあります。昔のように物資を人が背負って運ぶことは人手の確保や費用を考えればほぼ不可能です。小屋が老朽化してもヘリがなければ建て替えの資材を運べません。最近の異常気象も山小屋の負担を増やしています。

 この夏、コロナ下で営業している山小屋は宿泊定員を大幅に減らし、完全予約制にして「3密」を避ける努力をしています。これを機に、混雑時に宿泊者を詰め込む営業を見直してはどうかとの声も経営者から上がっています。

 ただ、今シーズンの売り上げは例年の2~3割程度と見込まれ、かつてない経営難です。事業者の努力に頼るのは限界に達しつつあります。廃業すれば復活は困難です。登山の対象となる山の多くは国立公園と国定公園にあります。国立公園は国、国定公園は都道府県が管理しています。山小屋を今後も維持していくための支援が財政上も位置づけられるべきです。

公的支援の拡充へ議論を

 環境省の20年度予算で国立公園などの施設利用環境整備事業は6億円余にすぎません。自然公園の事業費を合わせても104億円です。一方、「国立公園満喫プロジェクト」に179億円を計上しています。20年に外国人訪日客を4000万人に増やすことを目的とした事業です。この目標はコロナ危機で達成の展望がありません。

 予算の使い方がこれでよいか考えるべきでしょう。先人が守ってきた自然環境を次世代に引き継ぐことは私たちの役割です。どういう公的支援を強める必要があるか、国民全体で議論を深めることが求められます。


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