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2021年4月2日(金)

デジタル関連法案の危険

「個人情報の保護」が欠落

衆院論戦で明らかになった問題点 塩川鉄也議員に聞く

 菅義偉首相肝いりのデジタル関連法案について、政府・与党は2日の衆院内閣委員会での採決を狙っています。日本共産党の塩川鉄也議員にこれまでの論戦で明らかになった法案の問題点を聞きました。


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(写真)塩川鉄也議員

本人の同意もなく「利活用」

 この法案は、デジタル化を利用して、あらゆるデータを集積しながら、行政が持つ膨大な個人情報を企業などが「利活用」しやすい仕組みにしようというものです。

 最大の問題は、個人情報の保護という観点が欠落していることです。プライバシー権を侵害するような内容となっています。

 個人情報保護法制には、2015、16年の法改悪で、匿名加工などをすれば、個人情報を本人の同意なく第三者に提供できる制度が設けられています。

 3月24日の衆院内閣委員会と総務委員会の連合審査では、日本共産党の本村伸子議員が、独立行政法人の住宅金融支援機構から民間の住信SBIネット銀行へ、年収・家族構成・職業・郵便番号など約118万人分の加工された個人情報が、住宅ローンのAI(人工知能)審査モデルの構築のために、本人の同意もなく提供されていた実態を明らかにしました。個人が特定されかねない情報です。

 今回の法案は、こうした個人情報の「利活用」をさらに促進するために、民間、国の行政機関、独立行政法人をそれぞれ対象とした三つの個人情報保護法を一元化し、自治体が独自に制定する保護条例にも縛りをかけるものです。

 特に問題となるのが、匿名加工した個人情報の利活用案の募集を都道府県や政令市に義務付ける「オープンデータ化」と、自治体の条例による個人情報のオンライン結合(情報連携)の禁止を認めないことです。

 現在、条例で匿名化条項をもっている自治体はわずかです。一方、多くの自治体の条例では、オンライン結合による個人情報の提供を原則禁止しつつ、必要な場合は各自治体の審議会などに諮問する規定を設けています。これらがデータの利活用を求める企業等にとって面倒な仕組みだというのです。

 法案の内容は、行政が特定の目的のために集めた個人情報を企業の「もうけのタネ」として利用し、成長戦略につなげようとするもので、個人情報保護を求める住民に応えた自治体独自の取り組みを掘り崩すものでしかありません。

プライバシー権は基本的人権

 個人情報は個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきであり、プライバシー権は憲法が保障する基本的人権です。

 就職情報サイト「リクナビ」が就活生の閲覧記録を分析し、内定辞退率を本人の同意なく採用企業に販売していた問題のように、現在の社会では、本人の知らないところで個人情報がやりとりされ、ビッグデータやAIを利用したプロファイリング(人物像の推定)やスコアリング(点数化)によって、個人の人生に大きな影響を与える事態を引き起こしていることがあらわになっています。今求められているのは、情報の自己コントロール権を保障する仕組みです。

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(写真)デジタル関連法案を通すなと、抗議行動する人たち=3月26日、衆院第2議員会館前

自治体の独自の施策を抑制

 デジタル関連法案では、(1)国や自治体が事務処理に使う情報システムの「共同化・集約」(2)マイナンバー制度の情報連携等の拡大(3)個人情報保護法制の一元化(4)強力な権限をもつデジタル庁の設置―という四つのツールを使って、さらにデータを集積し利活用を推進しようとしています。

 関連法案の中心をなすデジタル社会形成基本法案では、国と自治体の「情報システムの共同化・集約の推進」を掲げ、デジタル庁が整備し統括・監理する全国的なクラウドの仕組み(「ガバメントクラウド」)を、全省庁だけでなく全国の自治体に使わせようとしています。総務委員会で審議する情報システム標準化法案と相まって、自治体の業務内容を国のシステムに合わせていく問題をはらんでいます。

 現在、総務省が推進し複数の自治体が共同で使っている「自治体クラウド」でも、住民の多様なニーズに応えるためのカスタマイズ(仕様変更)を認めないことが問題になっています。例えば富山県上市町(かみいちまち)の町議会では、「3人目の子どもの国保税免除」などを求めた町議の提案を、「自治体クラウド」を使っていることを理由に、システムの仕様変更はできないと町長が拒否したことがあります。

 こうした事例を示して追及した私の質問(3月12日、内閣委)に、平井卓也デジタル改革担当相は「自治体の政策判断を制約するものではない」と答弁しています。しかし、政府は昨年「カスタマイズを無くすことが重要」とした方針を閣議決定しており、カスタマイズを抑えた自治体に助成金を出す仕組みまでつくっています。自治体独自の施策の抑制につながることは目に見えています。

なりふり構わずマイナンバー拡大

 マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みの3月下旬からの本格運用は、患者の情報を確認できないといった根本的なトラブルにより、半年間先送りされました。マイナンバーカードで何でもできれば便利なのか、いま一度立ち止まって考えるべきです。

 いま国は、政府が管理・運営しているウェブサイト「マイナポータル」を入り口として、行政だけでなく民間サービスも含めた個人情報の連携を進めようとしています。

 このサイトの利用にはマイナンバーカードのカギ機能が必要となるため、その普及策をなりふり構わず打ち出しているのです。法案では、このカードの機能のスマホへの搭載を可能とすることも盛り込んでいます。

 3月19日の私の質問に、平井大臣は、マイナポータルは「個人情報保護法やマイナンバー法に提供の根拠となる具体の規定があるわけではない」と認めながらも、マイナポータルを通じて行政機関から本人に提供された個人情報の民間事業者への提供は、国民が望めば「どんどん広がっていく」と拡大が当然であるかのように答弁し、連携が歯止めなく拡大する危険性があらわになりました。

デジタル庁で官民癒着拡大の恐れ

 法案で設置をうたうデジタル庁は、データ利活用を強力に進めるための司令塔で、国の省庁にとどまらず、補助金を出している自治体、医療機関、教育機関といった準公共部門に対しても予算配分やシステムの運用について口を挟むことができるようになることも明らかになっています。

 政府は発足時の人員約500人のうち100人以上を民間出身者とし、兼業・副業・リモートワークも可能としていますが、これでは、特定企業に都合のよいルール作りや予算執行など、さらに官民癒着が広がる恐れがあります。このような組織は必要ありません。

 菅首相は、行政のデジタル化で「住民サービスの向上を徹底していく」と述べています。しかし実際には、デジタル申請のみとした持続化給付金などでは支援を受けられない事業者が多数生まれました。自治体を含め、デジタル化を口実に窓口を減らしたり、紙の手続きを取りやめ、対面サービスを後退させる事例が相次いでいます。

 手続きの簡便化にデジタル化を生かすとともに、住民の多面的な行政ニーズに応える対面サービスを拡充し、住民の選択肢を増やしてこそ利便性の向上につながります。


 クラウド ソフトウエアやデータなどをインターネット上におき、さまざまな場所にある機器で活用する方法。


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