2004年1月17日(土)「しんぶん赤旗」
イラクへの陸上自衛隊先遣隊の派兵は、強力に武装した地上部隊を戦後初めて戦闘がおこなわれている他国領土に送り込む歴史的な暴挙です。憲法違反の自衛隊海外派兵を、戦地派兵という、これまでとはまったく質的に異なる危険な段階に引き上げるものです。(榎本好孝記者)
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歴代政府はこれまでも、憲法を踏みにじり、自衛隊の海外派兵を重ねてきました。このうち陸自部隊の派兵は、すべてPKO(国連平和維持活動)法(一九九二年成立)にもとづいておこなわれてきました。
PKO法は、紛争当事者間の停戦合意と自衛隊の受け入れ同意、活動の中立性などを派兵の建前(PKO参加五原則)にしています。戦争が終わり、すべての紛争当事者の同意のもとで中立の立場で活動するというのが、派兵を正当化する口実になってきました。
二〇〇一年には、米国の対テロ報復戦争を支援するテロ特措法の成立、同法にもとづく海上自衛隊艦隊のインド洋派兵が強行されました。米軍が戦争を続けているさなかの、戦後初めての戦時派兵でしたが、直接の戦場になったアフガニスタンは派兵先として除外され、陸自部隊の派兵はありませんでした。
しかし、今回、陸自部隊が派兵されるイラクでは、政権打倒を目的にした米国の無法な侵略戦争によって不法な軍事占領が続いています。そもそも停戦合意が成り立つ余地はなく、占領軍当局者自身が言明しているように、「全土が戦闘地域」の状態です。こうした戦場に空や海の自衛隊はもちろん、まして陸自部隊を派兵することはいまだかつてなかったことです。
政府は、陸自部隊を送り込むイラク南部サマワを「非戦闘地域」だとして、派兵を正当化しようとしています。しかし、これは、イラクで頻発しているテロやゲリラなどによる襲撃は「戦闘」ではないからというもので、世界ではまったく通用しない議論です。
政府は、サマワの治安状況は「比較的安定している」とも繰り返しています。しかし、最近、来日したマイヤーズ米統合参謀本部議長は、「旧フセイン政権の忠誠者」や「外国からのイスラム聖戦戦士」は米国以外の連合軍メンバーも標的にしていると述べ、自衛隊も「危険から免れることはできない」(十二日)と強調しています。
しかも、イラク派兵法(イラク特措法)は、占領当局の同意だけで派兵を可能にし、占領軍への軍事支援(安全確保支援活動)を明記しています。「人道復興支援活動」も、占領軍の事実上の指揮下でおこなわれます。占領軍への支援、参加、合流が、イラク派兵の本質です。
いま、不法な占領支配に対するイラク国民の怒り、憎しみが大きく広がっています。「治安は比較的安定している」といっても、自衛隊が派兵されれば、占領軍の一部とみなされ、攻撃対象になることは避けられません。
政府は、PKO法にもとづく海外派兵で、停戦合意などの「参加五原則」について「憲法で禁じられた武力の行使にあたらないようにするために設けた」と繰り返し説明してきました。この建前さえ無視したイラク派兵は、政府の説明からいっても、違憲の武力行使に踏み出す現実の危険があるということです。
このことは、陸自部隊の装備にも現れています。
これまでのPKOでは、陸自部隊が携帯する武器は拳銃、小銃、機関銃に限定されてきました。ところが、サマワに派兵される陸自部隊の本隊は、拳銃、小銃、機関銃に加え、敵の戦車などを破壊するための無反動砲や個人携帯対戦車弾まで装備します。
これまでのPKOでは携行武器の数量も上限が定められていましたが、今回は「安全確保に必要な数」として制限がありません。
車両も初めて、戦場での人員輸送などを目的とした装輪装甲車や軽装甲機動車を使用します。
多くの国民が不安を抱いているように、イラクへの陸自部隊の派兵は、日本の軍隊が戦後初めて他国民を殺し、また、戦後初めて自衛隊員から戦死者を出すことになりかねないのです。