2004年1月19日(月)「しんぶん赤旗」
幼稚園と保育所を一体にする「幼保一元化」にかかわって、厚生労働省は、両施設の枠組みを超えた新しいタイプの「総合施設」を二〇〇六年度に創設することを打ち出しています。〇四年度中に新施設の基本構想をまとめ、〇五年度には一部の市町村でモデル事業を先行実施、〇六年から全国的に導入する計画です。
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十五日、新施設の具体策づくりをすすめていくための社会保障審議会児童部会(部会長・岩男壽美子武蔵工業大学教授)の初会合が開かれました。
厚労省は新施設について、地域のニーズに応じ、現在の幼稚園と保育園の機能や教育・保育内容を一体化すると説明。これにより、子どもの育ちを支え、子育て家庭の多様なニーズに応えるとともに、現在問題になっている保育所に入れない待機児童の解消に役立てるとしています。
「第三の施設ができることで、親の選択肢は広がる。子育てが困難になっているなか、地域の子育て支援施設として対応させたい」と担当者はいいます。
現在、幼稚園は文部科学省(学校教育法)、保育所は厚生労働省(児童福祉法)がそれぞれを所管し、別々の目的と機能を果たしています。利用できる子どもの対象年齢、保育時間や開設日数、保育・教育内容などは異なり、そのために職員一人あたりの子どもの数、運動場や調理室などの施設設備、設置主体の基準なども違います。
ところが、この異なるさまざまな基準が、新施設ではどうなるのかについて厚労省は「文科省とも検討中でまだ決まっていない」としています。
十五日の児童部会でも議論になりました。保育研究者の委員は新施設の基準について、「ただ子どもを預かればいいということではなく質の高い保育をするためには、いろんな意味で高いレベルの基準が必要だ」と強調。複数の委員が、幼稚園・保育所の現場では専門性をそなえた職員の確保・育成に苦労している実態にふれ、施設設備だけでなく人件費も含めた支援の充実を求めました。
一方、政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦経済同友会副代表幹事)は、新施設の基準について「現行の幼稚園と保育所に関する規制のどちらか緩い方の水準以下とすべき」と要求(最終答申、〇三年十二月)。財界の意向を受けて、経営主体に営利目的の株式会社を参入させることなどをねらっています。
「総合施設」の創設は、小泉内閣の「骨太の方針・第三弾」(〇三年六月)のなかで初めて打ち出されました。それまで、幼稚園と保育所の行政や基準の一元化(「幼保一元化」)が議論されていましたが、両関係者から批判をあび、折衷案として一元化でない第三の施設に形を変えたものといえます。
政府で議論されている「幼保一元化」は、国庫負担の少ない幼稚園に合わせて保育所予算を削減し、職員配置や施設設置は基準の低い方にあわせることにねらいがあります。
しかしこれには、文科、厚労の両省が「(幼稚園と保育所は)それぞれに異なる機能・役割がある」と反対。自民党内からも「お金から子どもの問題を議論するほど、政府はいつから落ちぶれたのか」(橋本龍太郎元首相)との声があがりました。
「総合施設」について、保育団体の関係者は「目的の違う幼稚園と保育所を融合するには課題も多く、だからこそ長い間、議論されてきた。『総合施設』はそれを無視して出てきたもので、基準も財源もあいまい。安易な一体化で新施設の基準が保育所以下ということになれば、保育所制度の形がい化にもつながる」と指摘しています。