2004年1月21日(水)「しんぶん赤旗」
自衛隊のイラク派兵承認案が、通常国会冒頭から大きな焦点になっています。先遣隊、本隊を含め陸海空三自衛隊の派兵承認を一括して国会に求めるもので、政府・与党は本会議での趣旨説明や各党質疑もせず、来週中にも衆院で通そうとしています。戦後日本の歩みを根底から覆す重大問題をこんなやり方で強行するなど許されません。
「イラク復興支援」費を含む補正予算案を審議したうえで、二十八、二十九の両日に衆院イラク特別委員会を開いて派兵承認案を通す−−十九日の衆院イラク特別委員会の理事懇談会で与党側はこんなスケジュールを示しました。「(施政方針演説など)政府四演説にイラク派遣について言及しているので、速やかに委員会審議入りをしてほしい」(自民党の中川秀直国対委員長)というのが理由です。
しかし、その施政方針演説は、派兵計画を「テロとのたたかい」のかけ声で押しつけるだけ。憲法違反の戦地派兵がもたらす危険性や国民の不安にはまったく答えたものではありませんでした。
イラク派兵承認案は、歴史的な重大案件です。それは、武装した地上部隊を戦後初めて戦闘が行われている他国領土に送り込むという、国の基本にかかわる安全保障政策の大転換だからです。少なくとも、政府が全国会議員を前に本会議で派兵承認案の趣旨説明をし、質疑をするのはことの重大性からみて当然です。
しかし、政府・与党は、派兵の根拠と内容、憲法やイラク特措法との関係、国際社会の流れのなかでの派兵の是非などについて、国会と国民に明確な説明を何一つしていないのです。
派兵の実施要項に至っては概要が発表されているだけで、派兵部隊の人数、輸送機数も書かれておらず、すべての閣僚が全文を読んでいないのが実態です。国民と国会にきちんと計画の全容を明らかにしないで、是非を求めることほど説明責任を果たさない乱暴なやり方はありません。NHKの世論調査で八割を超える国民が小泉純一郎首相の「説明不足」としています。
派兵承認は、政府が明確な説明をしてこそ審議ができ、その是非が決められる性格のものです。本会議も開かず、その手続きさえ行わないならば、他の重要法案でも本会議審議を省略できる既成事実をつくりあげることになり、政府・与党が一方的に国会運営をすすめることにもなりかねません。
見過ごせないのは、政府・与党がこれまで繰り返した自らの言い分をあっさり投げ捨てて派兵承認案を通そうとしていることです。
公明党の冬柴鉄三幹事長は陸自先遣隊の派兵を了承した際、「(了承したのは)あくまで先遣隊についての判断だ。本隊にかんしては先遣隊の調査報告を党首会談で聞いてから改めて判断する」と強調。陸自先遣隊の調査報告を受け、本隊の派兵の是非を「慎重に対応する」というのが、政府、自民・公明両党の国民向けの“約束”でした。
ところが、先遣隊が帰国しその報告を踏まえた党首会談もまだ行われていない段階で、国会に派兵承認の答えを急げと迫るのは、まったく筋が通りません。「調査報告を待ってから」といいながら、一方で数の力で派兵を押し通す−−国民だましにもほどがあります。
国民と国会にきちんと説明せず、ただ派兵承認を求める政府・与党には、一辺の道理もありません。徹底審議を行うべきです。(高柳幸雄記者)