2004年1月22日(木)「しんぶん赤旗」
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二十一日の衆院本会議で始まった代表質問は、野党第一党の民主党・菅直人代表と小泉純一郎首相がそろって改憲の「国民的議論」を呼びかけ合う、異常なものとなりました。
菅氏は、イラクへの自衛隊派兵について「戦地に自衛隊を戦争目的で海外に送らないとしてきた憲法の原則を大いに破るものだ」と批判。小泉首相は「憲法に違反するものとは思っていない」と答えました。
このようにイラク派兵では違憲、合憲で分かれた両氏が、改憲では「新しい憲法をつくることを国民運動として呼びかけた」「国民の中で広く議論する」(菅氏)、「国民的議論を喚起して、日本にふさわしい憲法改正案ができればいい」(首相)と一致したのです。
イラク派兵で問われているのは、日本が戦後掲げてきた憲法の平和原則を守るかどうかという重大な問題です。それなのに、なぜ派兵賛成派も、批判派も改憲を主張するようなことになるのでしょうか。
それは、イラク派兵を批判する民主党が「わが国にとって必要なら、自衛隊の派遣も行わなくてはならない」(松本剛明議員)というように、自衛隊派兵そのものに反対ではないことが根底にあります。
菅氏は、イラク派兵は憲法違反だと言う一方で、「自衛隊をイラクに派遣できるような憲法改正を提起するのが筋だ」とのべ、ドイツがNATO(北大西洋条約機構)の域外派兵のために憲法である「基本法」を改定した例をもちだしました。
この論法でいけば、憲法にあわせて派兵という違憲の事態を改めるのでなく、派兵の現実にあわせて憲法を変えることにもなりかねません。
小泉首相も派兵を強行する一方で、改憲案のとりまとめを自民党に指示しました。その狙いが憲法九条にあることも明言しています。
菅氏は「官僚丸投げの自民党政治が続いているので国民主権になっていない」と、官僚政治まで改憲の理由にあげました。しかし、現実の政治が「官僚丸投げ」になっているのなら、それを正せばいいわけで、憲法に原因を求めるのは筋違いです。
さらに菅氏は「国民主権の立場にたった新しい憲法をつくる」と主張。小泉首相も「憲法改正が国民合意でできればいい」とのべました。あたかも改憲が国民主権の実現であるかのようにいいますが、いまの改憲論は、米国の圧力が最大の推進力になっています。
アーミテージ氏(現米国務副長官)らが中心になってまとめた対日要求報告(二〇〇〇年)では、「日本が集団的自衛権を否定していることが同盟協力を束縛するものとなっている」と主張し、その撤廃を求めました。米国への忠誠を憲法以上の基準とし、自衛隊のいっそうの海外派兵と集団的自衛権の行使を可能にするところにその狙いがあります。
菅氏が“国民主権の徹底だ”“市民革命だ”とあれこれの理由をもちだして改憲を主張することは、結局、九条改悪にむけての“外堀”をうめる役割を果たすことになります。改憲によって、憲法そのものが米国の世界戦略を補完する道具となってしまえば、日本の主権そのものが踏みにじられることになってしまいます。(山崎伸治記者)
自民・民主の質問から |
21日の衆院本会議では自民、民主両党の施政方針に対する代表質問が行われました。
経済問題 |
自民党の額賀福志郎政調会長は、小泉「構造改革」路線について「一定の成果が表れつつある」と評価。その一方で「中小企業や地域経済は厳しい状況で、景気回復の格差が拡大し二極化現象が起きている。国民と企業の大半が『負け組』に属し、構造改革の成果が『勝ち組』の独占物になったのでは失敗につながる」と“懸念”を表明してみせました。
しかし、その対策については「労働力の流動化」など従来と変わらない政策をあげるだけで、「これまで進めてきた構造改革を完成させていく」よう求めました。
民主党の松本剛明議員は、「景気は着実に回復している」(一月月例経済報告)という政府の経済状況認識について、「都合よくつくられた統計値で失政だ」と述べました。
年金問題 |
民主党の菅直人代表は年金問題で「『抜本改革』というが、厚生年金の数字あわせにとどまっただけで、崩壊寸前の国民年金については何も触れられていない」と批判したうえで、国民年金、厚生年金、共済年金の一本化、基礎年金の財源に消費税増税をあてる同党の立場を強調しました。
額賀氏は「給付と負担の見直しをはじめ不断の改革を行うことが必要だ」とのべ、基礎年金の国庫負担の二分の一引き上げの財源として年金課税を含めたさらなる負担増を示唆しました。
道路公団問題 |
道路公団民営化に関し額賀氏は「残念なのは高速道路建設がいかにもムダな公共事業を実施するような印象で語られることだ」「目先の利害関係で国家の大きな目標を失ってはならない」とのべ、建設を続ける姿勢を示しました。
菅氏は「高速道路無料化が最も必要な政策である思いを深くした」と総選挙で掲げた無料化論を強調。道路予算九兆円のうち二兆円を公団負債の返済にあて、七兆円で高速道路を建設する立場を強調しました。
イラク・安全保障 |
額賀氏は、イラクに派兵する陸上自衛隊について「一般国民にはできない活動が要望されている」と派兵を評価した上で、自衛隊がオランダ軍と行動している最中に攻撃された場合に「自衛隊は自分の隊を守る以外にぼうぜんと見守ることになるのか」と尋ねました。
また、PKO法やイラク特措法など個別の法制に代わる自衛隊派兵の恒久法の必要性を主張。武器輸出三原則については「幅広い議論が必要だ」と述べました。
衆院比例定数 |
松本氏は「衆議院の小選挙区の一票の格差是正と比例定数の八十議席削減」を主張。民主党分だけでも百十五億円(二〇〇四年分)に増額されたばかりの政党助成金に関しては言及を避けました。