2004年1月23日(金)「しんぶん赤旗」
二十二日の衆院本会議で日本共産党の志位和夫委員長がおこなった代表質問の大要は次のとおりです。
|
日本共産党を代表して、小泉首相に質問します。小泉政権がすすめているイラクへの自衛隊派兵は、いまなお戦争状態がつづいている他国に、重火器で武装した自衛隊を派兵するという、戦後初めての道にふみこむものです。これは二十一世紀の日本の進路、日本国民の命運にかかわる重大問題であり、国会の場で事実と道理にたった冷静な議論がつくされる必要があります。私は、今日は、時間の制約もあるので、イラク問題にしぼって、四つの角度から首相の認識の根本を問うものであります。
イラク戦争の性格をどう認識しているのか |
第一は、首相が、米英軍によっておこなわれたイラク戦争の性格をどう認識しているのかという根本問題です。イラク戦争にひきつづく占領に合流するために、自衛隊を派兵する以上、はたしてこの戦争に「大義」があったのかという根本問題への認識をあいまいにすることは許されません。
首相は、昨年三月二十日に開始されたイラク戦争にさいして、「イラクが大量破壊兵器を保有している」と繰り返し断言し、それを戦争を支持する最大の「大義」としました。ところが、いまにいたるも大量破壊兵器は発見されていません。さらに、この問題にかかわって、今年に入って米国で二つの重要な動きがありました。
一つは、今年一月八日付の米紙ニューヨーク・タイムズが、イラクで大量破壊兵器を捜索していた約四百人の米軍チームが、大量破壊兵器の証拠を何も見つけることができないままイラクから撤収したと報じたことであります。
いま一つは、ブッシュ政権の下で二〇〇二年末まで財務長官をつとめていたポール・オニール氏が、一月十一日付の米誌タイムで、「二十三カ月間の在任中、私は一度も大量破壊兵器の証拠とみなせるようなものを見たことはなかった」と証言したことであります。オニール氏は、更迭されるまでは国家安全保障会議に出席するなど最高機密を知り得る立場にいた人物であり、この証言はきわめて重いものがあります。
首相にうかがいたい。戦争開始から十カ月、大量破壊兵器がみつからず、米軍の捜索チームも捜索をあきらめ、ブッシュ政権の元高官も「証拠はなかった」とのべている事実をどう説明するのですか。「イラクが大量破壊兵器を保有している」と断言し、それを戦争支持の最大唯一の「大義」にしたことは、明らかに誤りであったと認めるべきではありませんか。明確な答弁をもとめます。
もともとこの戦争は、国連安保理の承認なしに米英軍が勝手にはじめた先制攻撃の戦争であり、無法な侵略戦争であります。その戦争が占領という形で継続しているイラクに自衛隊を派兵することは、どんな形であれ、侵略戦争への加担そのものとなるということを、まずきびしく指摘しなければなりません。
イラクの状況悪化の原因をどう認識しているのか |
第二は、首相が、イラクの“泥沼化”ともいうべき状況の悪化の原因をどう認識しているのかという問題です。
イラクの状況は、とくに昨年の八月以降、急激に悪化しました。米英占領軍への攻撃が激化しただけではなく、八月には国連のイラク事務所が攻撃され、国連は撤退を余儀なくされました。十月には赤十字の事務所が攻撃され、赤十字も撤退を余儀なくされました。今年に入って、バグダッドの暫定占領当局への大規模なテロ攻撃もおこなわれました。
首相は、施政方針演説のなかで「テロに屈してはならない」とのべ、自衛隊派兵を合理化する理由にしました。もとより民間人を無差別に殺傷するテロを許してはならないことはいうまでもないことであります。同時に、なぜイラクが、テロと暴力の横行する国になったのか、その原因をつくりだしたのは何であったのかが、問われなければなりません。
昨年十二月、国連安保理のテロ対策委員会が報告書を発表しました。この報告書は、「イラクは、フセイン政権の崩壊直後から、テロ集団の活動に、機会を提供するようになった」とのべ、さらに外国軍の大量駐留によって、イラクはテロ集団にとっての「理想の戦場」となったと指摘しています。戦争と占領が、テロリストをよびよせたという指摘は否定できない事実だと思いますが、首相の見解をもとめるものであります。
首相は、「テロに屈してはならない」といいますが、イラクを、テロと暴力が横行する国に変えてしまったのは、米英軍の無法な侵略戦争とそれにつづく不法な占領支配なのであります。米軍は、武装勢力への「掃討作戦」と称して、イラクの一般国民の家屋の乱暴な捜索や破壊、民衆のデモへの発砲などをおこなっています。こうした乱暴な占領支配が、イラク国民の怒りと憎しみを広げ、民衆自身の抵抗を引き起こすと同時に、テロ勢力と民衆が結びつく土壌を広げる結果となっているのであります。
首相、テロ勢力をよびよせた根本原因である戦争と占領に加担しながら、「テロに屈してはならない」というのは、はなはだしい自己矛盾ではありませんか。
さらに、重大なことは、米英軍による占領統治がつづいていることが、国際社会の人道支援にとっても最大の障害になっていることであります。赤十字国際委員会は、昨年十月の攻撃のあと、バグダッドやバスラからの撤退を余儀なくされました。赤十字国際委員会は、アフガニスタンやチェチェンの紛争、ルワンダやブルンジの内戦でも、撤退することなく活動をつづけています。その赤十字国際委員会がなぜ撤退を余儀なくされたのか。赤十字国際委員会のケレンバーガー委員長は、その理由について、「イラクでは最大の人道組織である赤十字国際委員会さえ攻撃の対象とされている」とのべています。そして米軍による警護の申し出を拒否して、「赤十字は、いかなる軍事力の下でも活動することはできない。中立で独立した人道組織として活動することが死活的に重要だ」とのべています。さらにケレンバーガー委員長は、イラクの現状では赤十字の再開はありえないこと、その原因は米英軍主導の占領統治がつづくかぎり状況の改善は望めないことにあると言い切っています。首相は、きびしい戦争下で人道支援の活動に従事してきた赤十字国際委員会の委員長のこの言明をどう考えますか。
イラクの現状は、国連はおろか赤十字さえ撤退せざるをえない状況なのです。その直接の契機となったのはテロ勢力による攻撃ですが、そのテロと暴力を横行させる根本原因となったのは、米英軍による戦争と占領であります。
人道支援と占領支配は両立しないのであります。首相は、自衛隊派兵の最大の理由に「人道復興支援」をあげていますが、国際社会の人道支援を不可能にした戦争と占領に加担しながら、「人道」を語るとは、偽善と欺まんそのものではありませんか。
アナン国連事務総長は、「占領が終結すればすぐに、暴力や抵抗活動は減るだろう」とのべました。占領支配を終結させてこそ、国際社会が安心してイラクへの人道支援をおこなう条件がつくれます。
いま日本政府にもとめられているのは、米英軍主導の占領支配を一刻も早く終結させ、国連中心の復興支援に枠組みをうつし、イラク国民の手にすみやかに主権を返還するための、憲法九条をもつ国にふさわしい外交努力であります。首相の見解をもとめるものです。
占領軍参加と日本国憲法は両立しうるか |
第三は、自衛隊の占領軍への参加と、日本国憲法が両立しうるのかという問題であります。二つの点について、首相の見解を問うものです。
一つは、占領軍への参加は、憲法が禁止した「交戦権」の行使にあたるのではないかという問題であります。
昨年十二月十二日付で、連合国暫定当局(CPA)のブレマー行政官から、日本政府にあてて書簡がだされ、そこには、「自衛隊は連合国要員として、CPA命令第一七号に定められたように、処遇される」と明記されています。CPA命令一七号とは、イラク占領軍の構成員は、刑事・民事・行政のいかなる裁判権からも免除され、逮捕、拘禁もされないというものですが、自衛隊にもこれが適用され、法的に占領軍の一員としての地位をもつことが認定されたのであります。
さらに自衛隊が実際におこなう任務も、占領軍の一員そのものの活動です。首相は、もっぱら「人道復興支援活動」を強調しますが、「基本計画」や「実施要項」には「安全確保支援活動」もおこなうことが明記されています。首相は、「安全確保支援活動」のなかには、「武装した米兵の輸送」、「イラク人による米占領軍への抗議・抵抗運動の鎮圧への支援」、「フセイン軍残党に対する米軍の掃討作戦への支援」など、米英占領軍がおこなう軍事作戦への支援もふくまれることを、認めています。すなわち、実態的にも自衛隊は、占領軍がおこなう占領支配の一翼を担うことになるのであります。
しかし、これまでの政府の見解でも、「相手国の領土の占領、そこにおける占領行政などは、自衛のための必要最小限度を超える」とされ、憲法九条第二項の「交戦権」にあたるものとして、禁止されるとされてきました。この見解にてらせば、法的にも占領軍の一員としての地位が保障され、実態的にも占領支配の一翼を担うことになる自衛隊は、まさに憲法で禁止された「交戦権」の行使をすることになるのではありませんか。はっきりと答弁していただきたい。
二つ目に、さらに重大なことは、派兵された自衛隊がイラクの一般民衆を殺傷しかねない立場におかれることです。政府は、「相手が国又は国に準ずる組織であろうが、物取りであろうが、テロリストであろうが、急迫不正の侵害があった場合に正当防衛……として武器を使用できる」と答弁しています。首相自身も、自衛隊員が「相手を殺すかもしれない」と答弁しました。
しかし、占領軍の一員としての自衛隊を攻撃対象としてくる可能性があるのは、テロ集団などだけではありません。一般のイラク人によっても武力抵抗がおこっていることは広く指摘されていることです。イラク戦争直前まで国連イラク査察団の報道官をつとめた国連広報官の植木安弘氏は、「一般のイラク人の中にも反米、反占領感情が強い人たちが多くいる。この強い反感から、武力抵抗に出る人たちもいることを理解しなければなりません」とのべています。こうした一般のイラク人にたいしても、自衛隊が銃口をむけ、殺傷することがおきかねないのであります。
首相は、これも「正当防衛」だから仕方がないというのでしょうか。他国に占領軍としてのりこんだ軍隊にたいして、その国の国民がやむにやまれぬ気持ちで抵抗する、そうした国民を武器をもって殺傷する――これが憲法で禁止された武力行使でなくて何だというのでしょうか。
日本の国は、戦後、ただの一人も他の国の国民を殺傷してきませんでした。これは、憲法九条が海外での武力行使をかたく禁止してきたからにほかなりません。このことが、世界やアジア、中東の人々にとって、日本へのどれだけの信頼の源泉となってきたかは、はかりしれないものがあります。
首相、自衛隊のイラク派兵は、この貴重な財産を一気に破壊しかねないものではありませんか。あなたは、自衛隊がイラクの民衆を殺傷するという事態にかりにたちいたったときに、わが国の国益をどれだけ深刻に損なうことになるという認識をおもちでしょうか。しかと答弁していただきたい。
首相のいう「国際社会」とは何か |
第四は、首相は施政方針演説で、イラクへの自衛隊派兵を「国際社会の一員としての責任」として合理化しましたが、首相のいう「国際社会」とはいったい何かということであります。
現在、米英軍主導のイラクへの占領支配に、軍隊を派兵して合流している国は、政府の説明でも、日本もふくめて世界でわずか三十八カ国、国連加盟国百九十一カ国の五分の一にすぎません。非同盟諸国首脳会議に参加する諸国、アラブ・イスラムの諸国の圧倒的多数は、派兵を拒否しています。世界平和に重要な責任をおっている国連安全保障理事会の理事国のなかでも十五カ国のうち軍隊を派兵している国は五カ国にとどまっており、フランス、ロシア、中国、ドイツをはじめ、派兵を拒否している国が多数派であります。
首相は、施政方針演説で、自衛隊など「人的貢献」をおこなわない国は、「国際社会の一員としての責任を果たしたとは言えません」と言い切りましたが、この論理にしたがえば、フランス、ロシア、中国、ドイツなどの国々、さらには非同盟諸国首脳会議やアラブ・イスラム諸国の圧倒的多数の国々は、「国際社会の一員としての責任」を果たしていない国ということになるのでしょうか。はっきりと答弁願いたい。
結局、首相のいう「国際社会」とは、アメリカの一国の利益を世界平和の利益のうえにおいたアメリカ中心の「国際秩序」ではありませんか。
しかし二十一世紀の世界の動きは、アメリカが、どんなに強大な軍事力をてこにして、アメリカ中心の「国際秩序」をつくろうとしても、世界は思いどおりにはならないことを、しめしています。イラクへの無法な侵略戦争が国際的に孤立したこと、それにつづく軍事占領支配も国際的に孤立していることが、それを証明しているではありませんか。
どんな超大国であれ、自国の利益を世界平和のうえにおく横暴勝手は許さない、国連憲章にもとづく平和のルールを何よりも大切にする――これこそが、二十一世紀の世界の本当の「国際秩序」となりつつあるのであります。その時に、アメリカから「地上軍を出せ」「お茶会ではない」としりをたたかれ、いわれるままに自衛隊をさしだす、アメリカへの卑屈な従属の姿勢を、そうした態度をとることが、どんなに有害で愚かな行為かは明らかであります。
イラクへの自衛隊派兵は、アメリカの無法な侵略戦争に加担し、不法な占領支配に合流し、日本国憲法を破壊し、平和の国際秩序を願う世界の大勢に逆行する、歴史的暴挙であります。わが党は、イラクへの派兵計画をただちに中止することを強くもとめて、質問を終わります。
日本共産党の志位和夫委員長の代表質問にたいする小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次の通りです。
【大量破壊兵器問題と武力行使】イラクはかつて実際に大量破壊兵器を使用しており、その後も大量破壊兵器の廃棄は立証されていない。米国等によるイラクへの武力行使は安保理決議にもとづきイラクの武装解除等の実施を確保し、その地域の平和と安定を回復するための措置としておこなわれたものであり、国連憲章にのっとったものだ。わが国がこれを支持したことは、正しかったと考えている。現在、イラク監視グループは引き続きイラクの大量破壊兵器を捜索しており、わが国としてもこれを注視していく。
【イラクの状況について】依然としてフセイン政権の残存勢力や、国外から流入しているとみられるイスラム過激主義者がイラク国内を混乱させ、今後の政治プロセスおよびイラク人による政府の樹立を妨げる目的で活動しているとみられる。わが国はテロに屈することなく、イラクの再建にむけたイラク国民の努力にたいする支援をおこなっていくことこそが、イラクをテロの温床にしないため極めて重要であると考えている。
【テロへの姿勢】テロに屈することなくイラク人による民主的な政府の樹立と民生の安定にむけたイラク国民の努力を支援することは、イラクがテロリストの温床となることを防ぎ、わが国および国際社会の利益にかなうものと考えている。わが国の姿勢が自己矛盾であるとの指摘はまったくあたらない。
【赤十字国際委員会について】赤十字国際委員会の見解の趣旨は、軍事的な保護を必要とするような治安状況下で、人道支援活動に従事することは困難との認識を示したものであって、連合暫定行政当局による施政が障害となっているとの立場ではないと理解している。
【自衛隊派兵の理由に「人道復興支援」をあげることについて】イラクの復興は中東の安定のみならず国際社会の平和と安全の維持のために必要である。わが国は国際社会の責任ある一員として国際社会と協力しながらイラク人が自国の再建に努力できるよう貢献していく考えである。自衛隊がイラクでおこなう活動は、このような認識のもとにイラク人の生活の改善と向上に直接貢献するものであり、まさに人道復興支援であると考えている。
【イラクにおける政治プロセス】わが国は政治プロセスが着実に進展し、イラク人によるイラク人のための新しい政府樹立へ統治権限の早期移譲が実現するよう期待している。国連はすでにすべての加盟国にたいし、イラク復興支援を要請している。わが国を含む多数の国が現在でも真剣にとりくんでいる。今後イラク復興支援には国連の十分な関与が重要であると日本も考えている。わが国としてはこのような認識をふまえ、関係国や国連への働きかけを継続・強化していく。
【自衛隊の活動と憲法の禁ずる交戦権との関係】イラク特措法にもとづく自衛隊の活動は、武力の行使にあたるものではない。わが国として、主体的にイラクの人道復興支援を中心とした活動に従事するものであり、米英などの占領行政の一翼を担うとの指摘はあたらない。また、自衛隊がおこなう安全確保支援の活動も、国連安保理決議1483において、加盟各国に協力を呼びかけているものであり、人道復興支援に支障のない範囲で、そのような要請にこたえる活動をする国が、ただちに占領国としての地位を得るというようなことはありえない。自衛隊の現地での活動が、占領行為にあたるとして、憲法違反であるとする指摘は、まったくあたらない。
【自衛隊のイラク人に対する武器使用の可能性】派遣された自衛隊の部隊は、隊員の安全確保を徹底しながら、イラクの人々から評価を得られるような人道復興のための活動を実施するものである。現地の治安維持などの活動は、おこなわないことから、一般のイラク人に対して、武器を使用するような事態は、現在、想定していないが、さらに、現地において、一般のイラク人との衝突などの緊迫した事態を招くことがないよう、最大の注意を払っていく。イラク特措法上、自衛官が武器を使用できるのは、自己等の生命、または身体を防衛するための必要最小限のものであり、憲法が禁じている武力の行使にあたるものではない。
【イラクでの自衛隊の武器使用とわが国の国益との関係】イラク特措法が想定する自衛隊員による武器使用は、自己等の生命、身体を守るための必要最小限のものだ。人道復興支援活動を中心とする自衛隊の活動は、国家再建に向けたイラク国民による自主的な努力を支援するものである。イラク国民にも評価され、わが国の国家利益にもかなうものであると確信している。
【イラク復興にたいする国際社会の支援について】国際社会の国々がどのようなイラク復興支援をおこなうかについてはそれぞれの国がそれぞれの事情をふまえて国際的な責任を果たす観点から判断すべき問題だ。それぞれの国が違って、おかしくない。イラクの復興が国際社会の平和と安定にとって重要であり、わが国の国益にかなう、国連がすべての加盟国にイラク復興支援を要請している。こういうことをふまえれば、わが国として積極的に支援をおこなっていくべきである。その際、わが国の国際的地位を考えれば、人的貢献については危険を伴う可能性があるからといってこれはほかの国にまかせようということで、真に責任ある国際社会であると評価をうけることができるかということも考えていただきたい。
【国際社会に対する認識について】施政方針演説で「平和は唱えるだけでは実現できません」といった。国際社会が力をあわせて築き上げるものだと思っている。わが国も口だけでなく、行動によって、その国際社会としての責任を果たすべきだと考えている。指摘のような特定国の利益をすべてに優先させるような国際秩序とは明確に異なるものであり、指摘はあたらない。