2004年1月24日(土)「しんぶん赤旗」
二十三日の参院本会議で日本共産党の西山とき子参院議員がおこなった代表質問の大要は次の通りです。
私は日本共産党を代表して、小泉総理の施政方針演説について質問いたします。
政府は、昨日、航空自衛隊の本隊をイラクに派兵し、陸上自衛隊は、今月中にも本隊を派兵しようとしています。重火器で武装した自衛隊を、戦争状態が続いているイラクに派兵することは、憲法の平和原則を根本からふみにじる歴史的暴挙であり、絶対に許すことはできません。
世論調査でも過半数の国民が自衛隊の派兵には反対し、八割以上の人々が「政府は十分に説明していない」と答えています。日本の軍隊が、わざわざ外国に出かけていって他国の国民を殺し、戦死者がでかねない、戦後はじめてのこの暴挙にたいして、多くの国民が、心の底から不安と怒りと悲痛な思いをつのらせつつあります。
総理、あなたには国民のこの切迫した気持ちがわからないのでしょうか。自衛隊の派兵計画の具体化にともなって、浮き彫りになってきた重大問題についてお聞きします。
まず第一に、そもそもアメリカのイラク戦争と、それに続く軍事占領の大義についてです。もともとこの戦争は、国連憲章をふみにじる先制攻撃の侵略戦争でした。国連憲章は、武力行使を厳しく禁じています。例外は二つ、自国が武力攻撃を受けた時の自衛の反撃と、国連安保理事会が認めた時だけです。今回はアメリカがイラクから侵略を受けたわけでもないし、国連が武力行使を承認したわけでもありません。
ところが、アメリカはイラクが「大量破壊兵器」を持っていると決めつけ、それを最大の理由としてイラク戦争を強行しました。あなたの戦争支持の理由もそうでした。しかし、大量破壊兵器はいまだに見つかっていません。アメリカのCIAを中心につくられた大量破壊兵器調査チームも、なにも発見できずに責任者は辞任しています。一体この戦争のどこに大義があるというのですか。国連憲章違反の侵略戦争そのものではありませんか。
第二に、総理が金科玉条にしている「国際協調」とは何か、という問題です。国連のアナン事務総長は、昨年九月の国連総会で、米国の先制攻撃戦略を「国連憲章の原則への根本的挑戦」と厳しく批判しました。そして国際社会と国連は今になってもこの戦争を追認していません。
総理はまるで世界中が軍隊を派兵しているようにいいますが、イラクへ軍隊を派兵しているのは、国連加盟国百九十一カ国中、政府の説明でもわずか日本を含めて三十八カ国のみで、安保理事国のフランス、ドイツ、中国、ロシアなども派兵していないのです。今、世界は、国連中心の平和の秩序回復をと声をあげています。総理、あなたのいう「国際協調」とは、アメリカいいなりの国際的孤立の道ではありませんか。
総理、いまあなたがなすべきことは、自衛隊派兵ではありません。平和憲法をもつ国の首相として、復興支援を国連中心の枠組みでおこなうように外交努力を徹底して強めることです。そして、一日も早くイラク国民の手に主権を返還し、米英の不法・不当な占領をやめさせることではありませんか。これこそ、世界が期待する日本政府がとるべき真の「国際協調」ではないでしょうか。
第三に、自衛隊の米軍支援の問題です。今、イラクでは連日米兵などが攻撃され、戦闘状態であることは誰の目にも明らかです。あなたは、施政方針演説で、自衛隊は「戦争をしにいくのではない」「武力行使はしない」、給水など「人道復興支援にいく」のだと言っています。しかし、「基本計画」や「実施要項」には、自衛隊が「安全確保支援活動」をおこなうと明記されているではありませんか。
しかも、わが党の質問に対し、航空自衛隊の任務には、「占領軍支援のための輸送業務もある」し、「武装した米兵を対戦車砲や迫撃砲と一緒に輸送することもある」と、明確に認めています。自衛隊が「武力行使はしない」、「人道復興支援しかおこなわない」かのようにいうのは、大変なごまかしではありませんか。
総理、イラクでは、航空自衛隊も陸上自衛隊も米英占領軍の一員として行動するのではありませんか。そして、あなたも認めているように、米軍による「武装勢力への掃討作戦」の支援、米軍による「イラク人の攻撃・抵抗運動への鎮圧作戦」の支援をおこなうのではないのですか。これがどうして憲法が禁ずる「武力の威嚇」にも「武力の行使」にもあたらないといえるのですか。はっきりお答えください。
しかも、米英占領軍は、「鉄のハンマー作戦」や「ゲリラ掃討作戦」などによって、ゲリラ勢力の会合や武器保管に使われたとされる民家を破壊し、女性や子どもまで犠牲にしています。
どんな理由があってもテロは許されません。
しかし、こうした野蛮極まりない無法・無謀な殺りく、破壊の軍事占領支配が、テロに口実を与え、また、イラク国民の怒りと憎しみをよびおこし、イラクの泥沼化を日々深刻にしているのではありませんか。この事態を総理は、どう受け止めているのですか。そもそも国連のアナン事務総長は、「占領と復興支援は両立しない」と断言しています。
しかも自衛隊の「人道復興支援」も、事実上米英占領軍の指揮下でおこなわれるものです。米英軍による占領こそ、国際社会による人道復興支援の最大の障害になっているのではありませんか。
第四に、自衛隊の派兵はどこからみても明白な憲法違反であるということです。総理は、憲法前文の「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」を引用し、自衛隊の派兵を正当化しています。
憲法の前文は、過去のわが国の侵略戦争の痛苦の反省から、国際ルールを無視した勝手な行動を強く戒め、恒久平和を誓ったものです。そして、何よりも憲法の前文は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と明記した、憲法九条と固く結びついたものです。
憲法違反の自衛隊派兵の暴挙を正当化する理由に、憲法を持ち出す、これほど恥ずべきことはないではありませんか。憲法第九九条は「天皇及び国務大臣、国会議員は憲法を尊重し擁護する義務を負う」としています。小泉総理、今回のあなたの行動には侵略戦争への反省も憲法を守る意思もみじんも感じられません。あなたの行動は、憲法九九条に明白に違反するものであり、日本の国民を代表する総理の資格に欠けていると断ぜざるをえません。
次に国民生活と日本経済についてです。
小泉総理は発足のとき「構造改革をやれば、二、三年で景気がよくなる」といいました。間もなくその三年がたとうとしています。しかし、あなたのすすめた「構造改革」によって、国民の暮らしと日本経済はどうなったでしょうか。
景気回復の兆しがみえたというのも、一部の大企業がリストラと下請けたたきで業績をあげているのにすぎません。このことは、日本経団連の奥田会長も「リストラによって実現したコスト削減した分だけ業績がよくなった」と認めています。
リストラなどによる失業率は5%台の高水準であり、不況型倒産は過去最悪です。実収入の減少にくわえ、健康保険の改悪、年金の給付引き下げ、介護保険料の引き上げなど社会保障の改悪と庶民増税で、家計消費は圧迫されています。貯金ゼロという世帯は二割、自殺者も五年連続で三万人を超えており、生活保護世帯は九十四万と過去最多を更新しています。
小泉「構造改革」の破たんは、これらの動かしがたい事実が証明しているのではありませんか。あなたの「構造改革」は国民には耐えられない激痛を与えたのです。トクをしたのは、国民ではなく、社会保障や税金の負担を軽くしてもらい、リストラを応援してもらった大企業だけではありませんか。今求められているのは、大企業応援の「構造改革」ではなく、日本経済の六割を占める家計をあたため、中小企業を応援するなど国民生活を守る方向に経済政策を転換することではありませんか。答弁を求めます。
いまもっとも国民の不安をかきたてているのは、年金制度の改悪です。政府・与党がしめしている計画は、保険料だけでも毎年一兆円近くの負担増を二〇一七年度まで、毎年つづけるものです。
厚生年金の保険料は、平均的サラリーマンで、毎年一万円も引き上げられます。その一方で、給付水準はモデル世帯で収入の60%から50%へと引き下げられます。この給付減は年間約四十四万円にもなります。
しかも、50%の給付を保障すると宣伝していますが、共働きや単身者では、現役時代の収入の三割台に引き下げられることになります。そのうえ、給付水準の引き下げも国会にはからないまま自動的におこなうしかけになっています。まさに踏んだりけったりとはこのことです。国民から怨嗟(えんさ)の声が起こるのは当然ではありませんか。
さらに深刻なのは、いまでさえ給付が低い国民年金の引き下げです。自営業者など国民年金だけ受給している人の平均は約四万五千円です。この三年間で介護保険や医療費の値上げで苦しめられているうえに、三万円、四万円といった低水準の年金をさらに二割もカットされたら、いったいどうやって生きていけばいいというのでしょうか。
まず、政府がおこなうべきことは、基礎年金への国庫負担率を現行の三分の一から二分の一に引き上げることです。これは法律の付則で来年度までに引き上げると明記され、国民に約束していることです。
必要な財源、二兆七千億円は、増税ではなく歳出の見直しで生み出すべきです。例えば、ムダな道路をつくりつづけるしくみになっている道路特定財源の一般財源化です。道路特定財源だけでも毎年、国に入ってくるお金は三兆五千億円もあります。世界でも突出した五兆円もの軍事費やムダな公共事業を削れば、財源は十分にあるのではありませんか。
第二に、雇用と所得をまもり年金の支え手をふやすことです。
二〇〇一年だけでリストラなどの影響で厚生年金加入者が政府の予想より二百八十二万人も減り、保険料収入が三兆円も見込みを下回っています。横暴なリストラをおさえ、雇用を確保する政策に転換することこそ、年金財政立て直しのための第一歩です。
第三は、厚生年金だけでも百七十五兆円にものぼる積立金を計画的に活用することです。
日本のように巨額な年金積立金を保有している国はありません。株式などのリスクのある運用はただちに中止し、積立金を計画的にとりくずし、給付にあてるべきではありませんか。リストラ応援と積立金の運用の失敗で年金財政をほりくずしてきたことを反省することなく、国民だけに負担を押しつけることは絶対に許されません。
日本共産党は、今まで述べてきたような改善に着手するとともに、将来的には、基礎年金部分を発展させて、厚生年金、共済年金、国民年金などの土台として、年金加入者全員に一定額の年金が支給される「最低保障年金制度」を提案しています。そのうえに、それぞれの掛け金に応じて年金が上積み給付されるようにすべきです。歳出の見直しとあわせて大企業や高額所得者にヨーロッパなみの応分の負担をもとめれば財源は確保できます。このような方向こそ、安心できる年金制度への道ではないでしょうか。
さらに重大なのは、年金の財源不足を口実に、年金控除の見直しや定率減税の廃止と、消費税の増税が計画されていることです。あなたは施政方針演説で「与党税制改革大綱を踏まえ」「税制の抜本的改革に取り組んで」いくといいました。その税制「改革」大綱では、「消費税を含む抜本的税制改革」を二〇〇七年度をめどに実施すると明記しています。
消費税は、所得の低い人ほど重くのしかかる最悪の不公平税制です。政府税調がいうように消費税率が10%以上に引き上げられたら、国民一人当たり十万円、四人家族で年間四十万円以上の負担が新たに増え、庶民の生活は破壊的な打撃を受けるでしょう。国民生活を破壊させる消費税増税は絶対に許されません。消費税率引き上げ計画は撤回すべきです。
次に、中小企業と地域金融についてです。まずはじめに、日本経済の再生をいうならば、家計をあたためること、全事業所の99%を占める中小企業の活性化が不可欠です。総理は施政方針演説で中小企業予算の「増額」を強調されました。しかし、増えたのはわずか九億円です。総額の千七百三十八億円は、条約上義務づけられていない米軍への「思いやり」予算、二千四百四十一億円の四分の三以下でしかありません。思いやる方向が間違っているのではありませんか。中小企業予算をもっと大幅に増額すべきです。
また、昨年二月から実施された資金繰り円滑化借換保証制度は、実績は三十四万件、保証額は五兆円を超え、地元・京都の業者をはじめ全国で「借金返済が楽になった」と歓迎されています。
しかし昨年度の補正予算で導入された制度なので、業者や自治体から、「三月末で終わるのではないか」との心配の声があがっています。不況下で必死に頑張っている中小企業・業者の資金繰りを支援するために、この制度を来年度以降も継続させ、制度を拡充することを求めます。
次に、さしせまった四月一日からの消費税の免税点引き下げについてうかがいます。
免税点一千万円への引き下げは、一日の売り上げ三万円の零細業者をふくめ、新たに百四十万をこえる業者を納税業者とするものです。今でも身銭を切らざるをえない実態なのに、このようなことをすれば倒産・廃業が増えることは明らかです。免税点引き下げの実施は凍結すべきです。
第二に、足利銀行問題にみられる地域金融破壊の問題です。昨年十一月に足利銀行が破たんしました。本院の参考人質疑であきらかになったのは、足利銀行が過去の不良債権の処理に努力している最中に、金融庁の従来のやり方とはちがう大手銀行なみの格段に厳しい検査によって、破たんに追い込まれたということです。
この問題は足利銀行だけの問題ではありません。ただでさえ、不良債権最終処理方針のもとで中小企業向け貸し出しはこの三年間で四十五兆円も減少しました。
貸し渋り・貸しはがしが横行、中小企業に対する資金の流れが急激に縮みあがっているときです。今後こういう検査が地域金融機関全体で横行することになれば、破たん金融機関がさらに生まれ、中小企業にたいする貸し渋り・貸しはがしもいっそう深刻になるのは目に見えています。
総理、わが党が提案しているように、金融機関が地域経済を支援するために、中小零細業者への融資拡大を保障する制度、「地域金融活性化法案」こそ、確立させるべきではありませんか。
次に農業と食の安全についてです。日本の農業の自給率は低下をつづけ、家族経営の多くは存続すら危ぶまれています。今こそ農業を基幹産業として位置づけ、家族経営を支えるために価格・所得保障を充実させるべきです。欧米諸国では、価格・所得保障の予算が農業予算の五割から七割をしめています。わが国では三割以下にすぎません。せめて今の一・五倍、一兆円程度は確保すべきです。
今年は、国連がよびかけた国際コメ年です。世界的な米増産への援助とあわせ、わが国の米の完全自給を実現させるべきです。そのためにもWTO協定を改定し、最低限の輸入量を決めたミニマムアクセス米制度の撤廃を求めます。
BSE問題では、アメリカの圧力で食の安全をないがしろにすることなく、全頭検査をはじめ、日本国内と同等の安全対策を実施させるべきです。あわせて輸入禁止で打撃を受ける業者の経営を救済すべきです。
また、京都・城陽市でおこった半年前の卵の日付を偽って出荷販売していた事件は重大であり、厳重に対処すべきです。消費者の知る権利、選択の権利を保障し、「食品の安全性」を確保するためにも、今こそ製造日の明記を義務付けるべきです。答弁を求めます。
次に、雇用の安定、子育て支援、男女平等の三つの課題についてうかがいます。まずは雇用問題、なかでも若者の雇用についてです。
昨年七月の党首討論でわが党の志位委員長が、大企業ほど若者の正社員の新規採用を抑制している問題をとりあげた際、小泉総理は、「看過できない大事な今後の問題」といいました。しかし、大学生の就職希望者の内定率は史上最低で、高校生の四割が十二月になっても就職が決まらない状況です。
仕事のない若者があふれている一方、就職できた若者には長時間労働や違法なサービス残業が押し付けられ、カローシ、過労自殺にまでおいやられています。二十二歳の息子さんを過労死で亡くした京都のお母さんは、「月百時間をこえるサービス残業はザラだった」「これ以上、私たちのような悲しみを味わう家族をふやさないで」と訴えています。若者が“夢も、家族のだんらんももてない”と嘆く、このようないびつな社会をつづけていいのでしょうか。民間調査機関でも、違法なサービス残業をなくすだけでも百六十万人の新規雇用が生まれると試算しています。大企業などの一人で二人分働くような過重・長時間労働と違法な不払い労働・サービス残業を、ただちに是正させ、若者の雇用を拡大すべきです。
第二は、子育て支援についてです。乳幼児医療費無料化にむけての助成制度は、すべての自治体で実施されてはいるものの、その内容には大きな格差があります。日本のどこに住んでも、子どもの命と健康は等しく守られなければなりません。わずか千百億円あれば日本中どこでも就学前までの医療費を無料にできるのです。財政難を理由に先送りすることはゆるされません。乳幼児の医療費無料化を国の制度に発展させることを求めます。
「待機児童ゼロ作戦」についてうかがいます。小泉総理、あなたは「最小コストで最良・最大のサービスを」と営利企業にも保育所経営を認める規制緩和をしました。その一方で、肝心の認可保育所はわずかしか増えておらず、公立保育所は小泉内閣の二年間に三百三十四カ所も減っています。
「定員の弾力化」と称して今ある施設に、定員を超える子どもたちを詰め込み、都市部の保育所はどこでもいっぱいです。廊下でご飯を食べています。お昼寝の布団は重なり合っています。しかも、待機児童は、一昨年十月時点の厚労省調査で六万人を超えています。政府の「待機児童ゼロ作戦」の破たんは明白ではありませんか。
こうした状況にもかかわらず、あなたは、「地方分権」「三位一体改革」だと称して、公立保育所予算を千六百六十一億円も削減し一般財源化しようとしています。
子どもが人間らしく全面発達することを保障するのは国の責任です。予算を削減して地方まかせにすることはやめ、国の保育関係予算を抜本的に拡充すべきです。
第三は、男女平等についてです。昨年七月、国連の女性差別撤廃委員会から日本政府は、二十二項目もの懸念と改善勧告をうけ、是正の措置を厳しく求められました。女性への昇格・賃金差別を訴えた、芝信用金庫の女性や住友ミセスたち、今年一月の住友電工の勝利和解は、長い裁判のうえに女性たちの主張が認められたものです。しかし、これらは、国の立法、対策の遅れをしめすものにほかなりません。
総理、国連の勧告を真摯(しんし)にうけとめ、コース別や昇格差別など実質的な女性差別の是正に着手すべきです。パート労働法を改正し、パート労働者への差別的取り扱いの禁止、均等待遇の原則を明記すべきです。妊娠・出産にともなう解雇や不利益扱いという違法行為をやめさせるために、監視・監督体制の強化や必要な法令整備をすすめるべきではありませんか。以上、答弁を求めます。
最後に政治とお金の問題です。昨年の衆議院選挙では、自民党の二人の現職議員が買収容疑で逮捕されたのをはじめ悪質な違反者が続出しました。逮捕・辞職した新井正則前衆議院議員の買収の原資は政党助成金でした。新井氏が支部長を務める自民党埼玉八区支部の中核である所沢支部では国政選挙前から「活動費」名目で政党助成金のバラまきが常態化していたと報道されています。
この新井前議員を選挙中熱心に応援した小泉首相の政治的、道義的責任が厳しく問われます。それなのにあなたは施政方針演説で、「政治家一人ひとりが襟を正さなければなら」ないとまるで他人事のようにいってのけました。自民党総裁として近藤前議員を含む一連の買収事件の原資に国民の税金が使われていなかったのか、これら事件の全容を解明すべきではありませんか。
今、政党と政治の資金のあり方があらためて問われています。あなたが総理になって以来、金権腐敗事件はあとをたちません。そして今回の事件は、政党助成金制度の弊害を改めて浮き彫りにしました。
そもそも政党助成金制度は憲法の定める「思想信条の自由」に違反するものです。年間三百十七億円もの国民の税金を政党が山分けする政党助成金制度は廃止すべきです。また、日本経団連は献金のあっせんを再開しようとしています。お金の力で政治をゆがめる企業・団体献金は、この際政治家・個人だけでなく、政党に対するものも一切禁止すべきではありませんか。
日本共産党は、創立以来、企業・団体献金も政党助成金も、一切受け取ったことのない党として、国民とともに清潔な政治をめざします。
今、日本は、歴史の大きな曲がり角に立っています。いまこそ、アメリカいいなりでなく、本当の独立を勝ち取り、世界に輝く平和の宝、日本国憲法を守りぬくとともに、財界主役から一人ひとりの国民が大切にされる「国民が主人公」の政治にきりかえるために全力を尽くすことを誓って、私の質問を終わります。
日本共産党の西山とき子議員への小泉純一郎首相の答弁(要旨)は次のとおりです。
【イラク戦争と占領の大義】イラクはかつて、実際に大量破壊兵器を使用しており、その後も大量破壊兵器の廃棄を実証していない。米国等によるイラクへの武力行使は、安保理決議にもとづき、イラクの武装解除等の実施を確保し、地域の平和と安定を回復するための措置として行われたものであり、国連憲章に則ったものだ。わが国がこれを支持したことは正しかった。
【国際協調に対する認識】イラクが安定した民主的な政権をつくることは、日本の国家利益にとっても、世界の平和と安定にとっても、極めて重要なことであり、こういうことによって日本が国際協調体制を口だけでなく行動で示すことになる。
【国連中心の復興支援】イラク復興支援については国連の役割は十分に生かされるべきだ。政治プロセスが着実に進展し、イラク人による新しい政府が樹立され、統治権限の早期移譲が実現されるように期待している。イラクにおける米英の暫定的な施政は、国連安保理決議1483に従って行われており不法・不当な占領であるという指摘はあたらない。
【安全確保支援活動の違憲性】自衛隊の部隊は人道復興支援活動を中心にするという方針のもとに、人道復興支援を行う区域に限って、復興支援活動に支障をおよぼさない範囲で医療や輸送・修理又は補給といった安全確保支援活動を行うこととしている。自衛隊の活動は、非戦闘地域において行われるものだ。自衛隊は占領軍の一員として行動するということはなく、憲法違反との指摘はあたらない。
【米英軍が人道復興の障害】フセイン政権の残存勢力や、国外から流入していると見られるイスラム過激主義者がイラク国内を混乱させ、イラク人による民主的な政府樹立を妨げる目的でテロ活動をしているとみられている。テロがイラク国民や国連など人道復興支援に尽力する人々に向けられているということは、テロリストにとってイラクをテロリストの温床にしたいということもあるのではないか。こういう思惑に乗ってはならない。
【イラク派兵と憲法九条】国権の発動する武力行使と、みずからの身を守るための武器使用とは違う。そういうことから憲法九条に違反するとは思っていない。むしろ憲法前文の理念に沿うものと考えている。
【小泉内閣の経済運営】日本経済は企業収益が改善し、設備投資も増加している。倒産件数は減少している。国主導の財政出動に頼らなくても、民需が主導する形で着実に回復傾向に入ってきた。不良債権処理も着実に進んでいる。動き出した構造改革特区、最低資本金特例を利用した企業の活発化など、多くの国民の努力によって改革の成果は着実に現れてきた。ひきつづき改革を進めて民間需要主導の持続的な経済成長の実現を図っていく。
【年金保険料と給付水準】今回の年金制度改革案は、将来の負担が過大とならないよう極力抑制して、その上限を国民に明らかにするとともに、標準的な年金の所帯で、少なくとも現役世代の平均収入50%の給付水準を維持しつつ、急速な少子高齢化が進行するなかで、年金を支える力と給付の均衡をとることのできる仕組みに転換するものだ。これによって、年金制度の持続可能性が高まることで、安心できる年金制度となると考えている。
【基礎年金の国庫負担割合の引き上げ】平成二十一年度までに二分の一に引き上げることとし、平成十六年度からその引き上げに着手するなど、その道筋を明らかにする改革案をとりまとめた。
【最低保障年金制度】共産党の提案する税財源と事業主負担のみでまかなう最低保障年金制度については、自立・自助という社会保険のメリットを放棄するとともに、年金給付と生活保護との関係をどう整理するのか、巨額の税財源というものをどうまかなうのかという大きな問題がある。共産党は基礎年金の国庫負担の財源として歳出削減をあげているが、同時に大量に国債発行をするなということも提唱されている。現在の財政状況のなかでは、歳出削減分は国債発行額の縮減に充てた方がいいのではないか。
【リストラの抑制】政府としてはさまざまな政策手段により、雇用の創出、維持、確保に努めるとともに、離職を余儀なくされた方に対する早期再就職の支援を推進するなど、雇用対策に全力をあげていく。
【年金積立金の活用】今回の年金制度改革案では、すでに生まれている世代がおおむね年金受給を終える百年程度の期間について、給付と負担の均衡をはかることとし、おおむね百年後に積立金の水準を給付費の一年分程度に抑制する財政計画となっている。
【消費税増税計画の撤回】消費税を私の首相在任中に上げる環境にはない。私の在任中は消費税を上げる必要はないし、その考えはない。しかし、消費税という税というものはどうあるべきかについて議論を妨げる意思はまったくない。消費税の議論が行われることは当然のことであり、大いに議論していただきたい。
【中小企業予算の増額】厳しい財政事情のなかにあって増額して、千七百三十八億円を計上している。金融セーフティーネット対策、再生支援策、新たな事業に挑戦する中小企業支援策などに重点化し、今後とも中小企業を支援していく。
【資金繰り円滑化借換保証制度】昨年二月の創設時から現在までに三十四万件、総額五兆円の保証実績をあげている。中小資金繰りの円滑化に大きな成果をあげているので、来年度も本制度を円滑に実施していく予定だ。
【消費税の免税点の引き下げ】消費税に対する国民の信頼や制度の透明性を向上させる観点から行ったものであり、着実に実施することが必要だ。
【地域金融破たん問題】信用秩序の維持、預金者保護等の観点から、共通の会計基準やルールにもとづき検査を行っており、足利銀行に対してだけ格段に厳しい検査を行った事実はない。金融検査においては、中小企業の経営実態を十分に勘案し、財務内容のみならず、業種の特殊性や代表者の資産内容等について十分に配慮しており、中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしを招くものではないと考えている。
【地域金融活発化法案】地域における金融の円滑化は極めて重要だが、地域金融活性化法案は、基本的に自主的な経営判断にゆだねられるべき多様な金融機関の業務を、都道府県が画一的な基準にもとづいて評価し公表するものであり、問題があるのではないか。
【農政について】やる気と能力のある経営の支援など、競争力強化にむけ、積極的な農政改革にとりくんでいる。食料、農業、農村基本計画もこの方向に沿って見直しを進めていく。
【ミニマムアクセス米制度の撤廃】ウルグアイ・ラウンド交渉のなかで、すべての加盟国の同意のもとで設定されたものであり、それ自体の撤廃は困難ではないか。
【BSE(牛海綿状脳症)問題】米国産牛肉の輸入再開の検討にあたり、消費者の安全・安心の確保の観点から、国産牛肉について講じているBSE全頭検査、及び特定危険部位の除去と同等の対策が必要だ。輸入の停止により経済的影響を受ける中小企業者に対する金融措置を講じている。
【半年前の卵が販売された問題】京都府が本年一月二十日、食品衛生法違反として、卵生産業者に対し、七日間の営業停止処分とし厳正に対処した。
【食品の製造日表示の義務づけ】食品衛生法にもとづき食品を安全に摂取できる期限の表示をすでに義務づけている。製造日の表示については、必要ないと考えている。
【雇用問題】長時間労働やサービス残業の是正等が若者の雇用の拡大にどの程度つながるかは単純におしはかれるとは思わないが、ゆとりある国民生活を実現するため、政府としてはいわゆるサービス残業の解消につとめるとともに、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を通じた労働時間の短縮にとりくんでいく。
【乳幼児医療費無料化】医療費は受診者に一定の負担をいただくのが原則だ。少子化対策の重要性にかんがみ、平成十四年十月より三歳未満の乳幼児に対する一部負担を三割負担から二割負担に引き下げた。
【保育所の待機児童】平成十三年当時の待機児童数を前提として待機児童ゼロ作戦の目標をかかげ、平成十四年度から平成十六年度まで毎年度五万人の受け入れ児童数の増大をはかることとし、これを着実に実施している。平成十五年四月現在でなお約二万六千人の待機児童が存在している。保育所の整備などさらなる施策の推進をはかることとしている。公立保育所については地方自治体が自らその責任にもとづいて設置していることにかんがみ、その運営費を一般財源化することとしたが、保育所の公設・民営を推進するなど質の高いサービスが効率的に提供されるよう努める。
【女性労働者・パートタイム労働者】女性が性別により差別されることのない雇用環境を整備するため、男女雇用機会均等法にもとづき適切な指導を行うとともに、事実上の格差を解消するための企業の積極的なとりくみを支援していく。パートタイム労働者については、改正パートタイム労働指針により正社員との均衡処遇の確保に努めていく。
【衆議院選挙の選挙違反】総選挙に際し現職の衆院議員が公選法違反容疑で逮捕されるなど、政治の信頼をゆるがす一連の選挙違反事件がおきたことはまことに遺憾だ。司法当局において事実の解明を見守っていく。政治に対する信頼を回復するためにも、政治家一人ひとりが襟を正していかなければならない。今後とも政治改革をさらにすすめていきたい。
【政党助成金】民主主義のコストというものをどのように負担していくか、政党の政治活動の経費の一部を国民全体で負担していこうということで政党交付金がもうけられた。政党の政治活動の経費を政党助成金のような公費、献金、あるいは政党自体の事業収入のいずれかに頼るべきかは、それぞれの党の事情もあると思う。どれがいいか、どれにするべきか、それぞれの党の事情もあるので、各党でよく議論していただきたい。政党交付金の総額については、国勢調査で確定された人口数に二百五十円を乗じた額と法定されており、平成十六年度予算案では約三百十七億円が計上されている。
【企業・団体献金】企業団体献金は政党に対する支援活動として過去の最高裁判決でも認められている。政治資金の透明性を確保しながらどのような政治資金を提供するか、また政党が受けるかは、幅広い国民の理解が必要だ。民主主義をいかに健全に発展させていくか、国民がどのようにそのコストを提供するべきかについて各党・各会派の間で真剣に議論をしていただきたい。