2004年1月24日(土)「しんぶん赤旗」
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市場原理優先のグローバル化(地球規模化)に異議をとなえ、その代案を模索する草の根の運動団体や個人が参加した第四回世界社会フォーラムが十六日から二十一日、インドのムンバイで開かれました。取材した小玉純一、菅原啓記者がその特徴、印象を話し合いました。
菅原 世界社会フォーラムが、発祥地のポルトアレグレ(ブラジル)を離れ他国で開かれたのは初めてだった。参加者は百三十二カ国から十二万人で、インド人は九万人にも達した。
小玉 千二百もの企画があり、議論も白熱した。それに屋外でのパフォーマンスの熱気にも圧倒されたね。
菅原 インドを別にすれば、アジアで韓国からの参加者の活動が目立った。初日から「イラク占領反対」を掲げて会場を練り歩いた。それが、だんだんと賛同者を集め、最後には本当にさまざまな国の人がいっしょに行進する「多国籍デモ」になった。
小玉 フォーラムは、イラクを占領しつづける米国への怒り、非難の一方、イラク国民への連帯にあふれていた。
菅原 昨年のフォーラムは、米政権によるイラク戦争開始直前の開催だった。
二月十五日の世界いっせい反戦行動が提起され、空前の人々が参加する反戦行動となった。こうした運動の広がりを担ってきただけに、活動家たちは自信に満ちていた。
小玉 今回、世界の反戦諸団体が集まった会議が持たれた。そこで、イラク戦争開始一周年の三月二十日に、イラクからの外国軍撤退を求める世界同時行動を行うことが確認された。
菅原 フォーラム初日に自衛隊の先遣隊がイラクに派遣された。
小玉 「インドは派兵を拒否したのに、日本はそんなに米国寄りなのか」という驚きの声もあった。
菅原 小泉首相は「派遣先は戦闘地域ではない」と説明しているといったら、韓国の記者は「イラクのどこに戦闘地域でない安全な場所があるのか?」と笑ったよ。日本政府の主張する自衛隊派遣の論理が、世界の常識からいかにずれているか、よくわかった。
小玉 原水爆禁止日本協議会の主催で世界の被爆者が証言する企画も初めて実行された。核兵器の恐ろしさを生々しく伝えたことは今後の世界の平和運動にとって意味があると思う。
菅原 日本からは諸団体から数百人が参加した。米軍基地の実態やリストラ攻撃にさらされる労働者の状況など関心を集めた。これをきっかけに、世界で交流が広がることを期待したい
小玉 経済問題では、昨年九月カンクン(メキシコ)の世界貿易機関(WTO)閣僚会議は決裂したが、それを受け、今後の運動をどうするかがテーマとなった。
菅原 討論では「カンクン会議の決裂はわれわれの勝利だ」という発言が相次いだ。反戦運動と同様に、この分野でもみんな運動への自信を深めているようだった。
小玉 議論では、国際金融機関が規制緩和や民営化を押し付けるとか、WTOが大企業の利益優先の政策をとることへの批判では一致していた。でも、こうした諸機関を「解体せよ」という人から「各国の利益を尊重した機関に改革すべきだ」という人まで、主張には開きがあったのも事実だ。
菅原 参加者の多様性を追求するあまり、議論が絞り切れないと指摘する人もいた。
小玉 参加した団体や個人が日ごろ追求している課題は、生活向上や人権擁護など具体的だ。それに比べ、国際経済体制をどう変革していくかというテーマはきわめて複雑だ。
菅原 経済問題での議論は、各国の活動家にグローバルな視点から問題をとらえる材料を提供するという点で、教育的な効果もあるように思う。
小玉 市場原理優先のグローバル化ではなく、「人間を中心としたグローバル化」、公正で民主的な経済体制を求める広範な人々が集まって大いにアイデアを出すだけでも意味がある。
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菅原 そのほか、初のインド開催ということで、差別、暴力的な抑圧を受けている最下層カーストの問題も、基本テーマの中に取り入れられた。
小玉 いわゆる不可触民、ダリト組織だけでも三万人が参加した。会場内を踊りながら練り歩き、問題の解決を訴えていた。
菅原 じつは、ムンバイでのフォーラム開催について「インドでの政治状況は複雑だから」といって異論を唱える向きもあった。
小玉 インド側は女性、農民、労組、カースト団体など広範な団体が共同してフォーラムを一年以上かけて準備してきた。
菅原 インドの運動にとって、かつてない取り組みになったわけだ。
小玉 インドの主催者は努力が実って喜んでいた。あるセミナーでブラジル人がインドの努力をたたえたら、会場から大きな拍手が起きた。
菅原 新自由主義的グローバル化や米国の戦争政策など、フォーラムが立ち向かっている問題はきわめて大きい。これらの問題に取り組み、運動を広げ、変革を実現していくには、これまでにない広範な勢力の共同が欠かせない。
小玉 主催者の一人は会見で、カーストや宗教原理主義の問題にも取り組んで運動が豊かになったといっていた。
菅原 来年は再びポルトアレグレでの開催だ。その次はアフリカでという声も出ている。
小玉 これだけの規模で毎年開催するのはほんとにたいへんなことだ。いろんな模索が続くと思うけど、世界の人が手をとりあって進むのはうれしいことだね。