2004年1月25日(日)「しんぶん赤旗」
「平和は唱えるだけでは実現できない」「武力行使はしない」――イラクへの自衛隊派兵で小泉純一郎首相は、国民へのまともな説明もなしに、こう開き直っています。イラク派兵は、二十一世紀の日本の進路にかかわる重大問題。だからこそ、いま冷静で理性的な議論が必要です。小泉首相の派兵「正当化」論は本当に通用するでしょうか。
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イラク戦争に続く占領に加わるために、自衛隊を派兵する以上、この戦争に「大義」があったのかどうかは避けては通れない問題です。それなのに、首相はこれにまったくふれることができません。
首相は、イラク戦争に際して「イラクが大量破壊兵器を保有している」と繰り返し断言し、これを戦争を支持する最大の「大義」にしました。ところが、いまになっても大量破壊兵器は見つかっていません。
しかも、イラクで大量破壊兵器を捜索していた米軍チームは探すのをあきらめて撤収したと報じられています。ブッシュ米政権の元財務長官も「大量破壊兵器の証拠を見たことがない」と証言。CIA(米中央情報局)を中心にした調査チームが捜索を続けていますが、なにも発見できず、責任者が辞任するなど、ゆきづまっています。
首相がイラクの大量破壊兵器保有を戦争支持の最大の「大義」にしたことの誤りは、だれがみても明らかです。だからこそ、首相はなにも語ることができないのです。
首相は「テロに屈するな」「イラクをテロの温床にしてはならない」と繰り返しています。
民間人を無差別に殺傷するテロが許されないのは当然です。テロをなくすためには、なぜイラクがテロや暴力が横行する国になってしまったかを考える必要があります。
昨年十二月、国連安全保障理事会のテロ対策委員会が報告書を発表しました。この報告書は「イラクは、フセイン政権の崩壊直後から、テロ集団の活動に機会を提供するようになった」と指摘。イラク戦争の直後から、テロ集団の活動が始まったことを明らかにしています。
さらに、外国の軍隊が大量に駐留していることが、イラクをテロ集団の「理想の戦場」にしたと述べています。
つまり、イラクがテロと暴力が横行する国になったのは、米英両国が始めた戦争とそれに続く占領によってなのです。
首相が、テロ集団をよびよせた根本原因である戦争と占領を支持し、自衛隊という軍事力をもってそれに加担しながら、「テロの温床にするな」というのは、理屈がまったく成り立ちません。
首相は、現在、三十七カ国がイラクに軍隊を派兵していることを挙げ、自衛隊派兵は「国際社会の一員としての責任」だと強調します。
日本を含めれば、イラクに軍隊を派兵している国は三十八カ国で、国連加盟国百九十一カ国のわずか五分の一です。非同盟、アラブ・イスラムの国々の圧倒的多数は派兵を拒否しています。
首相は「国連も支援を要請している」といいます。しかし、安全保障理事会の十五カ国のうち軍隊を派兵しているのは五カ国だけ。フランス、ロシア、中国、ドイツをはじめ、派兵拒否が国際社会の多数派です。
防衛庁防衛研究所が主催する有識者会議が昨年九月に発表した報告書は、「イラク戦争が安保理としての意思がまとまらないなかで遂行されたことからすると、(自衛隊の)イラク派遣は(米国中心の)有志連合としての活動である」と指摘しています。
首相のいう「国際社会」とは、国連を無視し、先制攻撃の戦争をしかける米国中心の「国際秩序」であり、その一員としての「責任」とは、米国への忠誠を果たすことにほかなりません。
占領は戦争状態の継続です。無法なイラク戦争に続く占領への加担が憲法違反でなくていったいなんでしょう。
自衛隊は、イラクを占領する連合国暫定当局(CPA)が日本政府に出した書簡で、占領軍の一員としての法的地位を持つことが認定されています。
実態的にみても、イラク特措法も、自衛隊の活動についての政府の「基本計画」「実施要項」も、自衛隊の任務に、占領軍への軍事支援である「安全確保支援活動」を明記しています。この活動には、「イラク人による米占領軍への抗議・抵抗運動への鎮圧の支援」や「米軍の掃討作戦への支援」なども含まれています。
法的にも実態的にも、自衛隊は占領支配の一翼を担うことになるのです。
政府はこれまで、相手国の領土の占領や占領行政は「自衛のための必要最小限度を超える」(一九八〇年五月の政府答弁書)とし、憲法九条の「交戦権」にあたり、違憲だという見解を示してきました。
この見解に照らせば、法的にも占領軍としての地位が与えられ、実態的にも占領支配の一翼を担うことになる自衛隊の活動は、違憲の交戦権行使そのものです。
首相は「(自衛隊は)武力行使はしない」と繰り返します。自衛隊が武器を使うのは「正当防衛」のためで、「憲法が禁じる武力の行使にあたらない」というのです。
イラクではいま、テロ集団だけではなく、米英軍の乱暴な占領支配に対し、一般のイラク人による武力抵抗が起こっています。国連イラク査察団の報道官をつとめた国連広報官は「一般のイラク人の中にも反米、反占領感情が強い人たちが多くいる。この強い反感から、武力抵抗に出る人たちもいることを理解すべきである」と述べています。
自衛隊がイラクに占領軍の一員として乗り込み、不法な占領支配に反対するイラク国民から抵抗を受ける―。このとき、自衛隊が武器をもって殺傷することが、どうして憲法が禁じる武力行使ではないといえるのでしょうか。
首相は、自衛隊の活動について「人道復興支援」だと強調します。
しかし、自衛隊は占領軍支援である「安全確保支援活動」を行うことになっています。
占領軍は、武装勢力への「掃討作戦」と称して、イラクの一般国民の家屋の乱暴な捜索や破壊、民衆のデモへの発砲などを行い、イラク国民の怒りと憎しみを広げています。自衛隊はこうした占領支配に加担することになるのです。
重大なのは、米英軍の占領統治は、国際社会の人道支援にとって最大の障害になっていることです。国連をはじめ、イラクで人道支援活動を二十年以上も続けてきた赤十字国際委員会の事務所まで攻撃を受け、撤退せざるをえなくなっています。
このテロと暴力の根本原因は、米英軍による戦争と占領にほかなりません。それに加担しながら、「人道」を語るというのは、欺まんそのものです。
アナン国連事務総長は「占領が終結すれば、暴力や抵抗活動は減るだろう」と述べています。いま必要なのは、米英軍主導の占領支配を一刻も早く終わらせ、国連中心の復興支援に枠組みを移し、イラク国民に主権を返還するための外交努力です。
首相は、「平和は唱えるだけでは実現しない」などと自衛隊派兵を合理化しています。「反戦運動は利敵行為」と反戦・平和の声を敵視した公明党も同じようにのべています。
しかし、イラクに戦火と混乱をもたらした米英軍の無法な先制攻撃を支持したのは首相です。国連による大量破壊兵器の査察という平和解決の道を断ち切る暴挙に手を貸したのです。
自衛隊の派兵は、この無法な侵略戦争とそれに続く占領に加担するものです。国連憲章にもとづく「平和の国際秩序」を踏みにじる行為に加担することが、「平和を実現」するものでないのは明らかです。
逆に、イラク戦争に際しても、地球をおおった反戦・平和の声は、国際政治を動かす力として働きました。
イラク戦争反対を貫いたフランスのドビルパン外相は「今年のはじめ、諸国民は戦争と平和、正義と不公正な発展について意見を表明しました。われわれはこの懸念を考慮しなければなりません」(昨年十二月、米誌『ニューズウィーク』特別号)とのべています。
平和を求める諸国民の声と世界の多数の国々の政府が、「国連憲章にもとづく平和の国際秩序」をめざし、大きな共同の流れをつくりだす可能性が広がっているのです。