2004年1月29日(木)「しんぶん赤旗」
小泉純一郎首相は二十八日、陸上自衛隊の本隊を派兵しようとしているイラク南部サマワに市評議会が「存在」するとした答弁を撤回しました。首相が答弁を撤回するのは異例中の異例。同評議会をめぐる虚偽答弁の問題も決着していません。ことは、陸自本隊に対する派兵命令の前提にかかわるだけにあいまいな決着は許されません。
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首相は、二十七日の衆院本会議などで、「(サマワは)住民の意向を反映した市評議会、穏健な宗教勢力等の存在により治安は安定」と答弁しました。サマワ市評議会の「存在」が、陸自本隊派兵の根拠になるサマワの治安「安定」の二つの理由の一つに位置づけられていたのです。
サマワを調査した陸自先遣隊の報告書も、「サマワ市評議会は住民の意向を反映した構成のため、実質的に機能している」とし、治安情勢は「比較的安定」としていました。
サマワの治安が「安定」しているというこの報告書が、二十六日に首相の承認のもとに、石破茂防衛庁長官が出した陸自本隊の派兵命令の前提でした。与党・公明党の神崎武法代表も、「先遣隊の重要な任務の一つに、イラクの最新の治安状況を調査するということがある。この調査をもとにして、最終的に陸上自衛隊(本隊)をイラクに派遣するかどうか判断する」(十六日)と述べていました。
実際、二十四日の自民・公明両党の幹事長・政調会長会談に先遣隊の報告書が提出され、二十六日の両党党首会談で派兵を最終的に了承。これを受けて同日、政府は派兵命令を出したのです。ところが実際は、二十四日に市評議会は解散していました。実態とはまったく違った報告書、答弁だったのです。
陸自本隊を派兵する根拠になっている治安「安定」の理由がまったくの虚偽だったのですから、派兵命令の前提は崩れてしまっているのです。
さらに、重大なのは、市評議会解散の事実について防衛庁と外務省は二十六日午前までには知りながら、これを隠していたことです。
市評議会解散の情報は、すでに二十五日午前、現地の陸自先遣隊から防衛庁に届けられ、外務省も二十六日午前には現地事務所から報告電として受け取っていました。ところが、先遣隊の報告書にはいっさい反映されず、首相は二十六日午後に派兵命令を承認し、二十七日の衆院本会議でも市評議会の「存在」が治安安定の理由とする答弁をしたのです。首相は、事実が明らかになったあとも「評議会のメンバーが辞任したからといって、治安が不安定だということには必ずしもつながらない」と言い逃れようとしましたが、野党側の追及で発言撤回に追いこまれたのです。
問題はそれだけではありません。日本共産党の佐々木憲昭議員の追及で、政府は、首相が二十七日の衆院予算委員会の質疑のなかで初めて知ったと弁明。石破防衛庁長官も佐々木氏に「二十七日の正午すぎ、予算委員会の答弁勉強会の後」に知ったと説明しました。
ところが石破長官は、市評議会解散の事実を知っていたはずの二十七日午後の予算委員会でも「評議会は穏健な人々で構成されている」「有効に機能していた市評議会の意向を受けて、その時点で判明したことを報告している」などと存在しているかのような答弁をおこなったのです。
佐々木氏の追及に、石破長官は「サマワ市の評議会は総辞職していることを承知のうえで答弁している」と開き直り、これまた答弁撤回に追いこまれました。
しかし、市評議会の解散を知りながら、事実を隠ぺいし、虚偽答弁をおこなった疑いが晴れたわけではありません。
首相は答弁を撤回しましたが、それだけですむ問題ではありません。
派兵命令の前提が崩れた以上、答弁の撤回ではなく、派兵命令そのものの撤回が必要です。
しかも、政府が可決を急ぐ二〇〇三年度の補正予算案の中心は、米英軍によるイラクの不法な占領支配に加担する「復興経済協力支援」費です。
イラクへの資金協力は、国際機関と、イラクの統治評議会やサマワ市評議会などの地方自治組織と協議し、配分する仕組みです。協議の相手の重要な一つである市評議会が解散してしまった以上、資金協力をおこなう前提さえも崩れているのです。
答弁の撤回だけで、あくまで自衛隊派兵の国会承認案や〇三年度補正予算案を押し通そうというのは、許されません。
この問題をめぐっては、陸自先遣隊がサマワで調査を始めた二十日にはすでに市評議会が解散状態にあったにもかかわらず、ウソの報告をしたという重大な疑惑もあります。
先遣隊の報告書は「市評議会は実質的に機能している」と指摘。石破防衛庁長官も二十七日の衆院予算委員会で、「先遣隊は(二十日に)評議会の議長と会談している」と答弁し、先遣隊が調査を始めた二十日の時点で、市評議会はまだ機能していたとの認識を示しています。
ところが、地方紙でいっせいに報じられた二十四日付共同電は、市評議会が二十日の時点ですでに評議員の大半が不在になっており、機能していなかったことを報じています。
同ニュースは、市評議会関係者の話として、評議員十二人のうち九人が、連合国暫定当局(CPA)の方針に反発し、CPA側に通告しないままメッカ巡礼に出発した、と指摘。東京の陸上自衛隊幕僚監部の「(先遣隊)到着直後の二十日に最優先で評議会を訪問するつもりだったが、(いつ会えるのか)分からず困っている」とのコメントを紹介しています。
これが事実であれば、「市評議会は実質的に機能している」とする先遣隊の報告そのものがまったくの虚偽だということになります。
(政府説明)
●24日(現地時間)
サマワ市評議会総辞職
夜、現地陸上自衛隊部隊が衛星通信メールで報告。日本時間25日午前、防衛庁担当課が受領
●25日(同)
外務省サマワ事務所が報告電。日本時間26日午前、外務省担当課に報告電着
●26日(日本時間)
夜、小泉首相承認のもと石破防衛庁長官が陸自本隊にイラク派遣命令
●27日(同)
午前、川口外相が衆院予算委員会の答弁勉強会で解散情報を認知
正午すぎ、石破防衛庁長官が予算委の答弁勉強会後に解散情報を認知
午後、小泉首相が、予算委での議論で解散情報を認知