2004年1月30日(金)「しんぶん赤旗」
政治支配に直接乗り出してきた財界は、消費税増税など経済問題だけでなく、憲法改悪を後押しし、「海外派兵国家づくり」へむけ暴走をはじめました。(金子豊弘記者)
日本経団連の奥田碩会長(トヨタ自動車会長)は、小泉自・公政権によって強行されたイラクへの自衛隊派兵を支援・推進する発言をおこない、憲法を踏みにじり、アメリカの世界戦略に協力する姿勢をエスカレートさせています。
昨年三月のアメリカのイラク攻撃について奥田会長は、「日米安保を基調に政治・経済運営をしてきたわが国としては、米国とたもとを分かつことはできない。私も米国支持という小泉方針と同じ」(二〇〇三年三月の記者会見)としてきました。
ただ、その奥田会長も自衛隊の海外派兵については、国連の枠組みの下で派遣すべきだと発言していました。
ところが、小泉自・公政権がアメリカのいいなりになって、武装した自衛隊を戦後初めて、戦争状態にある地域に派兵する事態が進行。これを受け、日本経団連の奥田会長は、今月十三日の記者会見で、「(自衛隊を)空と海だけじゃなくて、陸上にも出すのは、当然やるべき仕事だ」と、国連の枠組みを無視する発言をおこないました。(表参照)
奥田会長は、自衛隊派兵を「当然」とする理由を記者会見で二つあげています。一つは「日米安保条約」です。財界自身が自主的な思考を停止させ、対米従属の状態を深化させるものです。
「日米軍事同盟」は、無法への加担を合理化する理由にはなりません。米国の同盟国を含めて、世界の多くの国々がそれぞれなりに、アメリカとの関係で協力すべきことは協力するものの、国際ルールを破る無法には反対するという理性的な態度で臨んでいるからです。
二つ目の理由は、日本が「経済大国」だから自衛隊派兵は「当然」というもの。しかし、これは日本と諸外国との安定と共存共栄の経済関係を掘り崩します。
戦後、日本の独占資本は、多国籍企業化を進めてきました。とくに、アジア地域では経済の中心的地位を占めるまでにいたっています。この経済的基盤を背景にして「多国籍企業の権益を守る」ための「海外派兵国家づくり」への動きがいっきに表面化してきました。
戦後、曲がりなりにもアジアで日本企業が事業活動ができたのは、憲法九条があったからです。かつて侵略戦争の犠牲になったアジア諸国では、日本の憲法九条の精神をいかすことが大勢になっています。独立と主権の尊重、武力行使の放棄などを大原則にした「東南アジア友好協力条約」は、「ASEAN(東南アジア諸国連合)の平和憲法」と呼ばれ、中国、インドも署名。二十数億人が参加する強力な平和の流れがつくられています。
日本の財界が憲法九条を踏みにじり米英占領軍を支援し、参加する自衛隊のイラク派兵を応援・推進すればするほど、アジアのみならず、世界の「信頼」をみずから破壊せざるをえません。
ジャーナリスト斎藤貴男氏のコメント これまで日本経団連は、産業界を代表する立場から軍事問題ではうかつなことはいわなかったものです。奥田発言は、今や財界の中で、アメリカの下で「海外派兵国家」づくりをすすめる合意ができたということを示していると思います。
日本の大企業は、電機産業や自動車産業などの加工組み立て産業を中心に多国籍企業化し、企業活動と軍事、外交が一体化する状況が進んでいます。財界には自衛隊を海外に派兵して自らの権益を守ることや、進出先での労働運動などにも武力を背景に対抗するという要求が高まってきています。とりわけイラク問題では、今後、アメリカの中東支配を見越し、国連を無視しアメリカべったりになることで、そのおこぼれをいただくという発想になっています。