2004年2月1日(日)「しんぶん赤旗」
「(米英のイラク攻撃前の)イラクに大量破壊兵器はなかった」−イラクの大量破壊兵器開発を捜索してきた米政府調査団のケイ前団長の爆弾証言は、米英両国がイラク戦争の大義とした「イラクの大量破壊兵器の脅威」論を根底から突き崩し、ブッシュ、ブレア両政権をゆさぶっています。この「脅威」論をうのみにして侵略戦争を支持し、自衛隊派遣を強行する小泉内閣の責任も厳しく問われています。侵略戦争正当化の主張がどう崩れているかを検証します。
注 米政府証言のうち特記したもの以外は、二〇〇三年二月五日の国連安保理で「イラクの大量破壊兵器開発の証拠」をならべたパウエル米国務長官の演説から。ケイ氏の言葉は一月二十八日の米上院軍事委証言から。 |
米政府 「わが政府と他の政府が集めた情報によれば、これまでに製造された兵器のうちでもっとも殺傷力の高い兵器の一部を、イラク政府が引き続き保有し、隠していることは疑いない」(〇三年三月十七日、ブッシュ大統領の最後通告)
ケイ 「(蓄積されていたはずの生物・化学兵器は開戦前には)もともと存在しなかった」(一月二十三日付ロイター通信とのインタビュー)。「われわれは、私自身も含め、ほとんどすべて間違っていた」「(イラクの)脅威を証明できる最大の象徴である兵器に関しての推定は、これまでと違うものとなる可能性が高い」
核 兵 器 |
米政府 「フセインが核兵器開発をやめた証拠はない」「核科学者と爆弾の設計デザインを入手し、一九九八年以降、核分裂物質を得ようとしている」
ケイ 「(核兵器計画では)新ビル建設という計画刷新の初期段階にあったが、それは成熟した核計画の再建ではなかった」「(二〇〇〇−〇一年の核計画は)台頭しつつあったが、再び全面的な核製造施設になってはいなかった」
米政府 「(核兵器製造用の濃縮ウラン用遠心分離機に用いる)強化アルミ管を十一カ国から輸入しようとした」
ケイ 「収集した証拠に基づく私の判断では、それ(アルミ管)は、(核兵器開発用の)遠心分離機ではなく通常のミサイル計画に使われるよう意図されていた可能性が高い」
生物・化学兵器 |
米政府 「タリクに化学兵器製造施設を再建した」「推定で百−五百トンの化学兵器用物質を保有している」
ケイ 「(VXガスなど百四十gを運搬できる化学兵器ロケットに関しては)その後、証拠はなかった。弾頭に(化学剤で)充てんされていた証拠はなかった」
「(フセイン政権は)大量のVXガスをクウェート国境に前進配備していたが、九一年にイラク内部に移そうとした。途中で交通事故が起こり、運搬していたトラックが全焼した。しかしフセイン大統領に報告することをちゅうちょし(処罰されるので)、この損失は報告されなかった」
「サダムと(息子の)ウダイ、クサイが二〇〇〇年と二〇〇一年に、マスタード・ガスとVXガスの製造再開にどれぐらいの時間がかかるか尋ねたことを示す文書証拠と証言がある。それは、(原料となる)化学剤を保有していない可能性を彼らが知っていたことを物語っている」
米政府 「九〇年代半ばに生物兵器の移動式実験施設の製造を開始した」「二〇〇二年夏にもトレーラーや貨車に載せた移動式実験室を製造した」
ケイ 「それら二台のトレーラーは、実際の使用目的が生物兵器生産のためではないというのが、(情報分析官の間で)合意に達した意見だ」
米政権 「イラクが開発している無人機は生物兵器の散布に使用可能だ」
ケイ 「無人機は完成していなかった。(あったのは)器用な趣味人が身近で調達した材料ですぐにでも作れるようなものだ」
ケイ氏は、イラク大量破壊兵器捜索のために米政府が公式に派遣したイラク調査グループ(ISG)団長として、昨年六月からイラクで調査を続けてきました。ISGには千四百人の要員が参加しました。
ケイ氏は米議会での証言で、「イラクの(大量破壊兵器)計画の主要な要素の85%は恐らく明らかになっている」と発言。同グループが今後も続ける捜索で大量破壊兵器が発見される可能性について、「これまでの努力は十分に緊密なものであり、配備され軍事化された化学・生物兵器が大量に貯蔵されているというのは、とてもありそうにないことだと思う」と述べています。
フセイン元大統領は、なぜイラクが大量破壊兵器を保有していないことを全面公開せず、自ら政権崩壊を招くような行動をとったのか。ケイ氏は、フセイン政権が大量破壊兵器を保有していると思わせることは、イラク国内での支配を維持するために必要だったからだとし、それは「創造的あいまいさ」の政策だったとの見方を示しました。
兵器情報専門家のケイ氏は、米国の情報処理能力に根本的弱点があると指摘しました。大量破壊兵器能力について確実な情報があるとして実行に移した先制攻撃戦略そのものの根本的なあやまりを示すものです。
坂口明、島田峰隆記者